第8.5話:期待と重圧の狭間で 後編
その夜、ハルナは小屋の隅に置いた日記帳を手に取った。薄暗いランプの灯りが揺れる中、ページをめくる指は震えていた。彼女はこれまでの出来事を書き記し、自分の心を整理しようとしていたのだ。
「人と関わるのは怖い。でも、薬草が誰かの命を救っているのなら……」
そう書きつつも、その気持ちは揺れ動き、決して簡単にまとまらなかった。
翌朝、森は清々しい静けさに包まれていた。ハルナは庭に出て、新たに植えた薬草の苗に水をやりながら、深呼吸をした。風に乗って運ばれる花の香りと、鳥のさえずりが彼女の心を少しだけ軽くした。
だが、そんな平穏も長くは続かない。
突然、小屋の扉が勢いよく開かれ、見知らぬ中年の女性が慌てて駆け込んできた。彼女の顔は汗で濡れ、目には焦燥と不安が混ざっていた。
「賢者様!助けてください!村で急に病が流行り、子どもたちが次々と倒れています!どうか、薬草を……」
ハルナは驚きつつも、冷静に薬草の鉢を取り出した。言葉に詰まりながらも、必死で手渡すと、女性は深く頭を下げて感謝の言葉を述べた。
「ありがとうございます!これでみんな助かるはずです!」
扉の音が遠ざかると、ハルナは一人小屋に戻り、深いため息をついた。自分の願っていた静かな生活とは程遠い、重圧に押し潰されそうな日々。しかし、薬草の葉がかすかに揺れ、まるで彼女を励ますかのように輝いた。
「私には、やらなければならないことがある……」
そう決意を新たにしながら、ハルナは森の奥深くに目を向けた。薬草の声に耳を澄ませ、新たな奇跡を育てるために。
これからも、彼女の不器用な日常は続いていく。