第五話:不器用な薬師と増え続ける依頼
薄明かりに包まれた森の朝、小屋の周囲には小さな足跡が無数に交差していた。湿った土の匂いが鼻をくすぐり、草葉に宿った朝露は朝陽に照らされて宝石のように輝いている。風がそよぐたびに、木々の葉がざわめき、静寂を破る。
ハルナは窓際の椅子に腰掛け、白い湯気の立つ湯飲みを両手で包みながら、ゆっくりと外を見つめていた。森の入り口には、昨日設置した小さな木札が揺れている。そこには「薬草受付中」と、彼女の乱れた筆跡で書かれていた。
視線の先には、まだ森の道に不慣れそうな旅人の姿があった。疲れた足取りで地面を見つめ、困惑した表情を浮かべている。遠くからは、病に苦しむ母親が幼い子供を抱え、手足に傷を負った戦士が杖をついて歩いてくるのが見えた。彼らは遠方の村々から噂を聞きつけ、はるばるこの森を訪れているのだ。
ハルナの胸の奥は重く締めつけられた。人と話すのは得意ではない。声をかけられるたびに、どう返せばいいのか分からず、目を逸らし、ただ無言で薬草を差し出すことしかできなかった。
ある時は、言葉にならない感謝の眼差しを受け、ある時は不安そうな顔にただ頷くだけだった。それでも、薬草を手にした人々が奇跡のように癒されていく様子を見聞きし、評判は森の外へと広がっていく。
「もっと、私……強くならないと……」ハルナは小さく呟き、ゆっくりと息を吐いた。
彼女の不器用な手が丹念に世話をする薬草たちは、日増しに輝きを増していく。葉の間からは黄金色の光が零れ、風に揺れるたびに柔らかな音を立てているかのようだった。
けれど、胸の奥には薄暗い不安もあった。
「どうか、もうこれ以上は……」
願いは届かず、噂は村々の間でどんどん膨れ上がっていく。人々の期待の重さが、森の静けさを押し潰しそうだった。
そんな日々の中で、ハルナは小屋の奥で薬草の声に耳を澄ませる。彼女の心を慰めるかのように、葉の一枚一枚が輝き、今日もまた静かな奇跡が生まれていった。