表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/11

第五話:不器用な薬師と増え続ける依頼

薄明かりに包まれた森の朝、小屋の周囲には小さな足跡が無数に交差していた。湿った土の匂いが鼻をくすぐり、草葉に宿った朝露は朝陽に照らされて宝石のように輝いている。風がそよぐたびに、木々の葉がざわめき、静寂を破る。


ハルナは窓際の椅子に腰掛け、白い湯気の立つ湯飲みを両手で包みながら、ゆっくりと外を見つめていた。森の入り口には、昨日設置した小さな木札が揺れている。そこには「薬草受付中」と、彼女の乱れた筆跡で書かれていた。


視線の先には、まだ森の道に不慣れそうな旅人の姿があった。疲れた足取りで地面を見つめ、困惑した表情を浮かべている。遠くからは、病に苦しむ母親が幼い子供を抱え、手足に傷を負った戦士が杖をついて歩いてくるのが見えた。彼らは遠方の村々から噂を聞きつけ、はるばるこの森を訪れているのだ。


ハルナの胸の奥は重く締めつけられた。人と話すのは得意ではない。声をかけられるたびに、どう返せばいいのか分からず、目を逸らし、ただ無言で薬草を差し出すことしかできなかった。


ある時は、言葉にならない感謝の眼差しを受け、ある時は不安そうな顔にただ頷くだけだった。それでも、薬草を手にした人々が奇跡のように癒されていく様子を見聞きし、評判は森の外へと広がっていく。


「もっと、私……強くならないと……」ハルナは小さく呟き、ゆっくりと息を吐いた。


彼女の不器用な手が丹念に世話をする薬草たちは、日増しに輝きを増していく。葉の間からは黄金色の光が零れ、風に揺れるたびに柔らかな音を立てているかのようだった。


けれど、胸の奥には薄暗い不安もあった。


「どうか、もうこれ以上は……」


願いは届かず、噂は村々の間でどんどん膨れ上がっていく。人々の期待の重さが、森の静けさを押し潰しそうだった。


そんな日々の中で、ハルナは小屋の奥で薬草の声に耳を澄ませる。彼女の心を慰めるかのように、葉の一枚一枚が輝き、今日もまた静かな奇跡が生まれていった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ