第三話:大賢者級薬草、誕生の瞬間
午後の日差しは、森の木々の間から細く柔らかな光の筋となって、小屋の庭に降り注いでいた。空は薄く雲に覆われていたが、その光は冷たさを帯びることなく、暖かくハルナの肩を包み込む。
彼女は静かにしゃがみ込み、細やかな手つきで薬草の鉢を一つずつ観察していた。緑色の葉は生き生きと輝き、柔らかな風に揺れるたびに、微かな葉擦れの音が耳に心地よく響いた。
そんな中、一つの鉢に宿る薬草が、他とは異なる輝きを放っていた。葉の縁が淡い黄金色に染まり、まるで内側から光を発しているかのように揺れていた。
ハルナは無意識に息を呑んだ。まるでそこに小さな生命の息吹が宿っているかのようだった。
「どうして……こんなに……」言葉は震え、声はかすかだった。
そっと伸ばした手の指先がその葉に触れた瞬間、冷たかった空気が一瞬で変わった。薬草から伝わる温かさは、まるで生き物が息づくようで、触れた皮膚に温かい泉が流れ込む感覚が走る。
ハルナの手の甲には、小さく赤く裂けた傷跡があったが、その傷口からじわじわと温かい魔力が浸透し、傷はみるみる薄れていくのが目に見えた。
「……信じられない……本当に治ってる……」彼女の声はかすれ、驚きが混じって震えた。
いつもの無表情がほころび、ほんのわずかに口角が上がる。そんな彼女を見守るかのように、薬草はゆっくりと葉を震わせた。
ハルナの胸はざわめき、目の前の現象が夢ではないことを受け入れざるを得なかった。
「これは……大賢者級の薬草……」思わず呟いた言葉には、前世でかじった異世界の書物の知識が滲んでいた。
あまりに突飛すぎて信じられなかったが、この薬草のもつ治癒力は、ただの植物とは違うことを示していた。
なぜこうなったのか――
ハルナの頭は混乱していた。無意識のうちに注ぎ込んだ過剰な魔力、彼女がよくわからないまま投げかけた励ましの言葉、不器用な愛情。
すべてが奇跡を生み、薬草は常識を超えた進化を遂げたのだろう。
だが、それは彼女にとっては喜びよりも戸惑いの方が大きかった。
「誰にも知られたくない……私だけの秘密にしたい」心の奥で強く願った。
それでも、彼女の手は止まらない。次々と他の鉢に触れ、育てていく。薬草と共にある日々が、孤独な心にわずかな光をもたらしていた。
森は静かに呼吸し、黄金色の薬草はまるで未来を告げるかのように、柔らかく輝きを放っていた。