第二話:植物の声がうるさい?薬草たちの勝手な成長
朝靄に包まれた森の中、小屋の窓から差し込む柔らかな光が、ハルナの頬を優しく撫でた。目覚めたばかりの彼女は、まだぼんやりとした視界の中で小屋の天井を見上げる。
静寂に包まれたはずのこの場所が、今日はどこかざわついているように感じられた。
視線を下ろすと、彼女の周囲に置かれた鉢植えの薬草たちが、小さな葉を震わせ、まるでささやき合うかのように、ひそひそと声を交わしている。
「おはよう! 昨日の水、もっと多くしてよね!」
「もっと日光を浴びたいなあ」
「栄養が足りないって、何度言ったら分かるの?」
彼らの声は、賑やかな子どもたちの合唱のように、ハルナの耳に飛び込んできた。
思わず眉をひそめ、手で耳を塞ぎたくなる。
「もう……うるさいよ、みんな……」
声には出さず、心の中で呟いたその言葉に、薬草たちは一瞬だけ沈黙した。だが、すぐにまた賑やかに囁き始める。
そう、この世界で植物と会話ができる彼女の特別な能力は、予想以上に手強かった。感情がはっきりと伝わる薬草たちは、まるで人間の子どものようにわがままで、要求もストレート。
しかも、彼女の水やりが原因で、苗たちはすでに限界を超えて活力を得てしまっていた。水に込めた魔力が多すぎて、薬草たちは通常の成長速度を遥かに超えてしまったのだ。
ハルナは手を伸ばし、そっと一つの鉢に触れた。すると、その薬草がかすかに光り、葉が生き生きと波打った。
「……こんなに元気になっちゃって、どうしよう」
彼女は戸惑いを隠せず、ゆっくりとため息をつく。
そこへ、一本の薬草が突然、力強い声で話しかけてきた。
「ハルナさん、私たちもっと立派になりたいんです!どうすればいいんですか?」
真剣な瞳のように葉を揺らしながら、薬草は尋ねる。ハルナは思わず後ずさりし、目を大きく見開いた。
「え、えっと……そ、それは……」
彼女の口は上手く動かず、言葉が詰まる。誰かに答えを求めたいのに、自分が一番困っているのだ。
やっとのことで答えを紡ぐと、薬草は嬉しそうに葉を輝かせた。
それからというもの、薬草たちは日に日に進化を遂げていった。茎は黄金色に輝き、花は神秘的な光を放ち、触れた者の心を癒す力を帯びていた。
ハルナはその異常な成長を見守りながらも、心の奥底で不安を募らせていた。
(これじゃあ、私の静かな生活、すぐに壊れちゃうかもしれない……)
そんな思いを抱きながら、彼女は薬草たちの声に耳を傾け続けた。