第六十話:にじむインクと、ふくらむ余白♡
『天女の優香さま』
第六十話:にじむインクと、ふくらむ余白♡
──♡──
僕は今日、天女に会った。
その日の優香さんは、墨黒のハイネックブラウスに、タイトなグレーパンツ。
静かにペンを走らせる姿は、書庫の中の一筆画みたいに凛としていた。
けれどインク壺に指先を浸す仕草だけが、どこか艶やかに揺れていた。
──♡──
桐谷 遼、28歳。万年筆専門店の店員。
文字を書くことが好きで、休憩中にも手帳に日記を綴ってしまうほど。
だけど最近──どこか、自分の文字に“余白”がないことが気になっていた。
うまく書こうとするほど、なぜか「心」が乗らなくなる。
──♡──
「ねえ……女の子のオッパイ、欲しくない?」
「っ……!? は、はいっ……? え、えっと……な、なんでそんな……」
「ふふ♡ さっき、私の胸元をチラ見しながらインク拭ってたでしょう?」
「ち、違……いや、あの、たまたま……ほら、シャツが……滲んでて……」
「質問♡ にじませて書くのと、カッチリ描線を残すの。どっちが好き?」
「……にじませるほう、です……やわらかくて、色っぽくて……」
──♡──
「正解♡ 女の子のオッパイが欲しくなったのね!♡」
──バシュウウッ!!
インクが染みるように、胸元のラインがじんわりと浮かびあがる。
ぬれた紙に広がる色のように──輪郭はあいまいで、でも確かなふくらみだった。
「うそ……この感触……はっきりしてるのに、どこか、夢みたいで……」
「Dカップ♡ “書かれる女”になるのに、ちょうどいいサイズよ♡」
──♡──
「今日のブラジャーはこれね!♡」
グレーの薄布に、インクのような墨色レースが縫い込まれたランジェリーブラ。
カップ中央には、一滴のガラスビーズが“最後の句読点”みたいに光っている。
「これは“筆跡ランジェリー”♡ 形じゃなく、余韻で残る胸元に仕立ててあるの♡」
「……たしかに……言葉より、こっちの方が……ずっと、伝わる気がします……」
「ふふ♡ “読まれる女”になる準備、できたわね♡」
──♡──
(優香のオッパイ豆知識♡)
「Dカップは“にじませるサイズ”♡ 明確じゃないからこそ、男の視線は追いかけてくるの♡」
──♡──
(数日後。)
ペンを持つ手が、胸元にそっと触れてから動き出すことが増えた。
「このインク、似合ってますね」と常連さんに褒められ、思わず頬が熱くなる。
ふくらみに沿って文字を書くように、手元が自然と丁寧になるのがわかる。
余白も、にじみも、曖昧さも──今はぜんぶ、自分の一部だと思える。
だから今日も、胸に触れてから万年筆を握る。そこから言葉がにじみ始める。
──♡──
完──“今日もまた、女の子のオッパイにしておしまい♡”




