第伍話:すこし背伸びの、黒いレース♡
『天女の優香さま』
第伍話:すこし背伸びの、黒いレース♡
──♡──
僕は今日、天女に会った。
その日の優香さんは、艶のある黒のシャツワンピースに、金の細ベルトをきゅっと締めていた。
ほんの少しのぞく首筋が、夜に咲く白い花みたいに、ひんやりと透き通っていた。
振り向くたびに揺れる髪の先には、“誘惑を知る人だけが持つ静けさ”が漂っていた。
──♡──
森野 圭吾、28歳、ファッション系ライター。
“女性の美意識”をテーマに記事を書くけれど、なぜか最近、文章に芯が通らない。
(女の子の気持ちなんて、本当に僕にわかるのか……?)
そんな思いが膨らんでいた矢先──撮影の現場で、彼女がふいに振り向いた。
──♡──
「ねえ……女の子のオッパイ、欲しくない?」
「……は? ……えっ? ちょ、な、なに……?」
「記事、書いてたでしょう? “女性らしさの象徴”について」
「じゃあ、まずは──自分の胸で確かめてみるのがいちばん早いわ♡」
「質問♡ 赤ワインと白ワイン、どっちが好き?」
「……赤……のほうが……深みがある、っていうか……」
──♡──
「正解♡ 女の子のオッパイが欲しくなったのね!♡」
──バシュウウッ!!
シャツの胸元が、じんわりと内側から持ち上がっていく。
レンズ越しに見てきた“あの曲線”が、いま、自分の身体に浮かびあがる。
「う、わ……ちょっ、これ……D!? Dカップでしょ!?」
「正解♡ その胸で書くと、言葉がちょっと艶っぽくなるのよ」
──♡──
「今日のブラジャーはこれね!♡」
黒の総レース。カップに沿って浮かぶ透かし模様、アンダーには極細の紐がきゅっと結ばれている。
華奢なのに、どこか“締め”の緊張感がある、完全なる“勝負ブラ”。
「これは“締め”の一着♡ 着けた瞬間、女の顔になっちゃうのよ」
「……っ、たしかに……背筋が伸びるというか……自分の身体なのに、目が離せない……」
「ふふ、“視線を集める力”って、胸にもあるのよ♡」
──♡──
(優香のオッパイ豆知識♡)
「Dカップは、“見せるブラ”の世界♡
視線を受け止める構造が、下着の中にあるの♡」
──♡──
数日後。
新しい記事に入れた一文が、編集部で話題になった。
「なんか、妙にリアル」「ちょっと艶がある」──そんな声まで聞こえた。
“女性の身体観”特集のメインに抜擢されたのも、たぶん偶然じゃない。
その日、誰にも見せないつもりで着けていたのは──あの黒いレースの一着だった。
それだけで、言葉の輪郭がすっと立ち上がった気がした。
──♡──
完──“今日もまた、女の子のオッパイにしておしまい!”
──♡──
【“書く人”も、“着ける人”も、胸から変わっていく──】
このお話が好きだなと思ったら、ブックマークと評価をお願いします。
“言葉に宿る色気”は、きっと下着の記憶から生まれるのです……