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第7話 保健委員の仕事

 うちの高校には委員会があり、それぞれの委員会活動をやらねばならないタイミングがある。俺は保健委員をやっているから、活動がある日はそっちを済ませてから部活だ。

 早く終わらせたい気持ちもあるけど、だからと言って適当な事をやる訳にも行かない。女子の保健委員、西田(にしだ)さんに迷惑が掛かってしまうからだ。

 今一緒に保健室に向かっている西田さんは、大人しいタイプの小柄な女の子だ。所属している部活は確か、美術部だった筈だ。


 メガネの似合う、可愛らしい子だなと思う。俺は今バスケに全てを捧げているけど、別に女の子が嫌いになったのではない。

 女心が理解出来なくなっただけで、女性嫌いを拗らせたりしていない。だからこうして、委員会に向かう時は極力会話を振る様にしている。

 どうせ一緒にやるのだから、気分良く済ませたい。楽しくやって貰った方が、お互い嫌な思いをせずに済む。


「西田さんって、今どんな絵を描いてるの?」


「えっと、花瓶と花の絵かな」


「へぇ~写真とかあるの?」


「あるよ、こんな感じ」


 見せてもらった写真には、彼女が描いた綺麗な油絵が写されていた。俺は絵心がないから、選択授業では美術を入れていない。

 絵が上手いって、俺からすれば凄い才能だと思う。誰にでも出来る事ではないから。


「凄いな~絵を描けるって」


「そ、そうかな? 地味な趣味だし」


「そんな事ないって。立派な特技だよ」


 素直にそう思える。俺は悪い意味の方の画伯だから、犬とか猫とか描くとバケモンが出来上がる。

 辛うじて描こうとした意思だけは感じられる残念な絵になる。模写とかも全くの苦手分野だ。工作ならまだ出来なくはないが。


 小学生の頃に、1度だけ描いた絵が賞を貰った事がある。確か、アイデア賞だったろうか。

 未だに何を評価されたのか分からないが、グネグネと好き放題に伸びたカオスな樹の絵だったのは良く覚えている。何せ父親が部屋に飾っているから。

 俺が要らないと言ったら何故か父が貰っていた。何が嬉しいのか理解出来なかった。今見てもホラー過ぎる絵だ。

 普通にホラー映画に出て来そうな、狂気的な何かがあの絵にはある。あれ描いたの俺なんだけどな。


「ルノワールみたいな絵が描きたいんだ」 


「ん~~ごめん知らないや。ゴッホとピカソならギリギリ分かるけど」


「結構有名な人だよ?」


 西田さんは自分のスマートフォンを使って、代表的な作品を見せてくれる。言われてみたら微かに見覚えがある。

 中学時代に美術の教科書で見た様な気がする。俺は人物画に落書きをするタイプだったから、その点については黙っておこう。


藤木(ふじき)君は、何か無いの? 目標とか」


「俺? ん~まあそりゃあ出来たらプロになりたいよな。NBAとか憧れるし」


「有名になったらサイン頂戴ね」


「西田さんこそ。似顔絵でも描いて貰おうかな」


 楽しく談笑しながら歩いていたら、保健室に到着していた。入室したら年配の養護教諭から、配布物を受け取る。

 違法薬物について警告する、良くあるポスターだった。教室の後ろにある掲示板に貼れと言う事らしい。

 これぐらいの事で、と思わなくもないが先生も大変だからな。教員の労働環境については、昨今改善が叫ばれている。

 こんな事まで教師にやらせるなと言う事だろうか。だからと言って、生徒にやらせるのもどうなんだろう。別にこれぐらい構わないけどさ。


「これだけなら俺がやっとくよ」


「え、そんなの悪いよ。付き合うよ」


「そう? 別に気にしないけど」


「どうせ荷物も教室だから」


 まあ、それもそうか。あまり頑なに断ると、一緒に居たくないみたいだしな。変な誤解を与えない為にも、このまま普通に戻ろうか。

 会話に困る相手でも無いから、苦にもならないし。どちらかと言えば話し易い方だ。体育会系だからと怖がったりもしないし、必要以上に気を遣わなくても良い。

 わりと気が楽なタイプだと思う。華やかなタイプではないけど、明るい普通の女の子だ。近すぎず遠すぎず、これぐらいの距離感が一番気楽で良い。

 帰りの道中も会話は弾み、気が付けば俺達の教室だった。あとはポスターを貼って部活に向かうだけだ。


「じゃあ、貼って来るよ」


「あ、私が抑えとくね」


「そう? じゃあお願い」


 せっかく手伝うと言うのだから、素直に甘えておこう。画鋲を使う以上は、楽が出来る方が良い。誤って指先に刺さったりしたら面倒だしな。

 西田さんが下側の両端を抑えている間に、上部の両端に画鋲を刺す。落ちたら危険だから、やや強めにグイグイと押しておく。これで剥がれる心配はないから、西田さんに下側を譲って貰う。


「きゃっ!?」


「おっと、大丈夫?」


「ご、ごめん! 躓いちゃって」


「平気平気、気にしないで」


 立ち位置を変えて貰うタイミングで、バランスを崩した西田さんが、俺の胸元に飛び込んで来た。軽い接触だったから、特に痛みなどない。

 本当に気にしないで大丈夫だ。…………まあ、意外と大きいんだなとか、ちょっと思いはしたけど。

 ここでデリカシーの無い、所謂ノンデリでセクハラな発言は致しませんとも。心の中にしまっておこう。


「じゃあ西田さん、俺はこれで」


「う、うん。お疲れ様、藤木君」

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