表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
46/51

第45話 清水凛と西田雫

 その日清水凛(しみずりん)は、上機嫌で校内を歩いていた。涼介(りょうすけ)との関係性は良好で、中学時代よりも先に進めて居る。

 凛にとっては念願の、恋人と言う関係になれた。昔から願い続けていた涼介の隣に、自分が立てているのだから。

 それを日々の生活の中で、ひしひしと感じられる。手を繋いだり、些細な触れ合いが出来る。

 恋人だからこそ出来るスキンシップが、凛の心を満たしていた。そんな幸せな毎日に意識が行っていた時だった。


「……清水(しみず)さん」


「貴女は、西田(にしだ)さん……」


 以前とは違う立場での、西田雫(にしだしずく)との再会となった。何となく気不味くて、凛は無意識に距離を置いていた。

 涼介争奪戦として見れば、勝者と敗者。しかし凛としては、彼女の言い分が正しいと感じていた。

 ただ涼介が好きで居続けてくれただけに過ぎないと、凛は感じていた。普通なら勝手に距離をとった相手より、寄り添ってくれる相手の方が良い。

 中学3年間で育まれた絆があっただけで、中学も同じであったなら選ばれたのは彼女の方かも知れない。

 自分はズルをして今の立場を勝ち取った様なもの。そんな意識が、凛の中にはあった。


「清水さん、せっかくだから話さない?」


「えっ? 私と?」


「たまには良いでしょ?」


 雫の意図を凛は測りかねたが、拒否するのも失礼かと感じたので応じる事にした。雫の先導に従い、凛は彼女に着いていく。

 部活動が終わった夕暮れ時の校舎を、2人の女子生徒が歩いて行く。少し背が高めの凛と、平均的な背格好の雫。

 共にそれなりに見た目にも気を遣っているが、華やかでもない2人。そんな2人は、誰も居ない空き教室へと入って行った。


「やっぱりさ、悔しいとは思うんだ」


「えっと……その」


「責めているんじゃないの。素直な気持ちだよ」


 涼介を取られたからと、恨み言を言われても仕方ない。そう思っていた凛としては、少々肩透かしを食らった気分だった。

 実際、自分のやった事は中々に残酷だ。雫の側から見れば、結局付き合う癖に付け入る隙をわざと与えただけ。

 最初から付き合って居れば、さっさと諦める事が出来た筈。涼介と凛の茶番に、ただ付き合わされただけ。そんな風に思うのではないか、それが凛の見解だった。


藤木(ふじき)君はいつもどこか、寂しそうだった」


「そう、なんだ」


「だから、笑って貰いたかった」


 そんな理由から、恋が始まったと凛は知らなかった。委員会で一緒だったから、そんな理由で話す様になったと涼介からは聞いていた。

 涼介は関わる人に基本的に優しい。そこに男女は関係ない。流石に性格的に問題のある生徒にまで、ニコニコ笑っているわけではないが。

 そんな涼介だから、周囲の評価は常に高い位置で一定を保つ。好意的な反応が多く、友人も沢山居た。だから寂しそうだなんて見え方は、凛には意外だった。


「彼も楽しい時間をくれるから、気付いたら好きになっていた」


「涼ちゃんらしいよ」


「そしてある日、寂しさの理由を知った」


 雫の強い視線が、凛の方へ向けられる。彼女の目線が示す意味。それが分からないほど凛は馬鹿ではない。

 そう、自分なのだ涼介の寂しさを作り上げたのは。薄々分かっていた事、自分はきっと涼介を傷つけた。

 自分がそうだったのだから、彼が傷ついて居ない筈がない。それでもああして、優しく笑い掛けてくれるのは涼介が優しいからだ。


「私は正直、怒っていたよ。酷い事する人だなって」


「……」


「だから私はあの日、貴女に聞いたんだよ」


 好意を向けて貰う資格があるのか、彼女はそう問うた日の事を言っている。それを問われたから、凛は涼介の前から逃げ出した。

 結局その後も、全部涼介のお陰でここまで来られたのだと、凛とて理解はしている。だからこそ、精一杯その分の感謝を返そうと日々を過ごしていた。

 だが、それだけでは駄目なのだ。もう1人、凛が向き合うべき相手が居たのだ。


「分かってる。私がズルをしているって」


「そこまでは言ってないよ。羨ましくはあるけど」


 雫とて、生まれ持った立場にまで文句は無かった。そればかりはどうしようも無い。たらればの話をしたって現実は何も変わらない。

 立場が違ったら、変わった事もあるだろう。でも人生にリセット機能はない。試しようの無い仮定の世界で、上手く行く保証など何処にもないのだから。

 結局世界が変わっても、未来は同じかも知れない。未来を知って過去に戻れたとしても、何の変化も起こせないかも知れない。

 そんな空想は、現実を生きる自分達に何も与えてはくれない。だからこそ雫は、ここに居るのだ。


「私はある人と約束をしたの」


「約束?」


「何があっても、藤木君から離れない事」


「っ!?」


 それは、凛にとって一番痛い言葉だった。自分がやってしまった事の、彼への影響が大きかった事を証明する約束だった。

 誰との約束なのか、凛には想像しか出来ない。ただ間違いないのは、涼介と近いしい誰か。

 中学時代からの、自分と涼介の関係性を知る人物なのは間違いない。きっと、涼介の心情を知っていたからこその約束なのだ。


「私の傍から藤木君を連れて行くのだから、今度は私と約束して欲しい」


「えっ?」


「今度はもう、藤木君から離れないって」


 同じ人を好きになった者同士、そんな2人の間で交わされる約束。差し出された雫の手を、凛はしっかりと握るのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ