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第44話 男心を利用した上手な商売

 GW(ゴールデンウイーク)は何も、バスケだけをやっていたのではない。オーバーワークにならない様に、合間に休みが挟まれている。

 タイミングを考えたら自己鍛錬に励むべき所なのだろうが、生憎とウチの高校は強豪校ではない。

 そこまで必死になる必要性は薄い。だからせっかくの休日は、当然ながら(りん)ちゃんと共に過ごす道を選ぶ。


「ゲーセンとか、俺は久しぶりだなぁ」


「私もだよ。あんまり来ないよね」


 今回利用した映画館で映画を観ると、隣にあるゲーセンのサービス券が貰える。その内容はクレーンゲームを3回プレイ出来ると言うもの。

 たった3回で取れたら苦労しないよね。俺は人生で、クレーンゲームを千円以下で取れた事がない。

 最高記録が2千円だが、値段に見合う景品だったかは怪しい。正式名称を知らないのだけど、UFOに付いた爪で紐みたいな物を下に引っ張るタイプだけは得意だ。あれなら3百円ぐらいで取れる事がわりとある。


「凛ちゃん、どれかやりたいのある?」


「私、凄く下手だから(りょう)ちゃんがやってよ」


「え~俺もそんなに得意じゃないぞ?」


 このクレーンゲームのサービス券、他の何かに変えてくれないかな。まだメダルゲームのメダル30枚とかの方が、ギリ何とかなりそうなんだけど。

 タダで出来るものに文句を付けるのは、享受する側として良くないと分かってはいるけど気にはなる。

 このただクレーンゲームが数回出来るだけのサービス券で、そんなに集客力はあるのだろうか。

 正直取れる気がしないって人の方が大半なんじゃないのかな。ただただガッカリさせるだけで、逆効果な気もするんだけど。


「凛ちゃん、欲しいのある?」


「うーん……アレかな」


「あ~流行りのヤツ」


 デフォルメされたシャチの人気キャラクターが、ぬいぐるみになって筐体内に置かれていた。

 最近流行りのキャラクターで、SNSを中心に女性人気が非常に高い。そして凛ちゃんは、こう言う可愛い系キャラに弱い。

 彼女はゆるキャラとか、そう言ったデザインが好みだ。確かに可愛いのは分かる。このデザインなら子供や女性に人気が出るのも頷ける。


「やるだけやってみるか」


「頑張れ涼ちゃん!」


「期待しないでよ」


 店員さんを探してサービス券を渡す。筐体を操作して貰ってカウントは3に。先ずはストレートに、ぬいぐるみを掴む方向で操作を開始。

 最初は横軸を合わせる必要がある。それなりの速度で横に進むアームが、丁度良い位置に来るのを待つ。

 大体正面に捉えた辺りで、アームを止める。若干ズレた気もしなくはないが、許容範囲だろう。

 続いて縦軸を合わせに行く。体を横に移動させて、横から確認しながらアームを奥へと送る。


「ここだ!」


「良いんじゃない? 掴めそうだよ」


 ほぼ真上で止まったアームは、ゆっくりと下降して床にツメを付ける。軽快な音楽と共に閉じられたアームは、ぬいぐるみをど真ん中に捉えている。

 そしてアームが持ち上がり始めた時、上で止まった衝撃でポロリとぬいぐるみは落下した。掴む力が弱すぎるんじゃないのか!? あれで落ちるのなら、持ち上げて落とすのは厳しい。


「あぁ~」


「いやまだだ。あと2回あるから!」


 せっかく凛ちゃんが欲しがった物だから、出来たら取りたい。幸いにも持ち上がらない程アームは弱く無かった。

 次で良い所まで動かせれば、何とか強引に落とせるかも知れない。今の落下で転がったぬいぐるみは、若干ながら景品が獲得出来る位置に近付いている。

 ただ問題はさっきと違う体勢である事。うつ伏せで寝かされていたぬいぐるみは、完全に転倒してしまっている。

 シャチのぬいぐるみは、背ビレよりもヒレの方が真ん中に近い。頭のサイズと重心を考慮すると、突き出たヒレが明らかに邪魔な位置にある。どれぐらいヒレが硬いか不明なのがやや不安要素か。


「もう一度だ」


「うん」


 今度も同じ様に横と縦の軸を合わせて、やや頭寄りの位置を掴ませる。しかし今度は、アームの一部がヒレに阻まれて掴み損ねる。

 だから弱すぎるってこのアーム! これじゃまともに掴む事すら難しい。とりあえずは、少しずつ進ませる為に、3 回目は敢えて尻尾寄りの位置に変える。

 持ち上げるまでは行かなかったものの、位置を少しでも動かせたのは大きい。これで進めて行けばいずれは……あ。


「いや3回終わってるし」


「ま、まあ仕方ないよ涼ちゃん」


「凛ちゃん、ここでちょっと待っていて」


 どこか残念そうな凛ちゃんの顔を見てしまった俺には、ここで引き下がると言う選択肢はない。絶対に取って帰るぞと言う、強い使命感が燃え上がる。

 そうは言っても、この後の事も考えないといけない。帰りの電車賃や、晩御飯に凛ちゃんが行きたがっていたカフェ。

 それらの資金も考えれば、使えるのは2千円から3千円まで。その範囲で決めてみせる。


「涼ちゃん、あんまり無理は……」


「大丈夫、これぐらいなら平気だから」


 結局俺は、3回両替に行き2千5百円を失った代わりに喜ぶ凛ちゃんの顔が見られた。今週買うつもりだった新作RPGは諦めるしかないが、彼女の笑顔に勝るものではない。

 そして、クレーンゲームのサービス券の効果について、考えを改めるのだった。見事に戦略にハマりましたよ。

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