第42話 部活帰り、放課後の2人
今日の部活も終わり、これから帰宅する。今までならバスケ部のメンバーと帰宅していたけど、最近はその日常に変化が生まれていた。
「ごめん凛ちゃん! お待たせ!」
「大丈夫だよ、私もさっき終わった所だから」
「じゃあ帰ろうか」
部活が終わる時間が被る時は、一緒に帰る様になった。元々中学の時もそうしていたけど、去年はお互いの関係性から途絶えてしまっていた。
それも今年に入ってからは無事復活。こうして2人、自転車でゆっくり帰っている。ただ帰るだけなら、真っ直ぐ迅速に帰る所だ。
しかし凛ちゃんとの時間を大切にしたい俺は、あまり急がずスローペースで進む。元々凛ちゃんとの筋力差、体力差もあるから合わせた方が彼女も楽だ。
たまに話題になる、彼女のペースに合わせて歩かない彼氏にはならないぞ俺は。
「今日はどうだったの涼ちゃん?」
「ん~まあまあかな。いい感じだったよ」
「そっか。試合楽しみにしているね!」
これだよ、この一言が更に俺のモチベーションを上げてくれる。昔からそうだ、凛ちゃんに良い所を見せたいと言う活力が馬鹿にならないんだ。
不純だと思われるかも知れないけど、俺はこれでやって来たんだ。根本部分にバスケが上手くなりたいと言う思いがあって、そこに凛ちゃんが見てくれると言うオプションが付随するだけ。
根っこはちゃんと自分がある。女子にモテたいとか、そんな理由じゃない。好きな人に良い所を見せたいだけだ。前提が全然違うんだよ。
「凛ちゃんはどう? 春のコンクールあるよね?」
「私も良い感じだよ。涼ちゃんのお陰で」
「なら俺も楽しみにしとくね」
俺達の関係は復活した。だから、俺の方も凛ちゃんの演奏を観に行く。音楽の事はそんなに詳しくないけど、凛ちゃんのサックスは好きだ。
なんだろう、心地良い音がするんだよな。多分、好みの問題なんだろうけど。音にも好みってあると思うんだよね。
凛ちゃんの演奏だからって言うのも、もちろんある。その補正があるのは否めない。だけど、メロディーとか高いとか低いとか、それらの心地良いラインって人それぞれあると思う。
その好みに、凛ちゃんの演奏がぴったりハマる。好きになる前からそうだったから、そこは間違いないと断言出来る。
可愛いなと思ってはいたけど、まだ好きにはなって居なかった。そんな時に感じた事だから。
「あっ、信号変わるかも」
「良いよ、無理せず行こう」
「そう?」
「それより丁度良いからさ、寄っていかない?」
信号の近くにあるコーヒーチェーン店。そこでもうちょっと一緒に居ませんか? と言うお誘い。
凛ちゃんのオッケーが出たので、2人で移動する。駐輪スペースに2台並べて停めたら店内へ。
時間的に何かを食べるには微妙だから、ドリンクのみで良いだろう。
「あっ、誘ったの俺だから出すよ」
「え、でも」
「良いから良いから」
凛ちゃんの分も一緒に払い、ドリンクを受け取る。俺はシンプルなアイスコーヒーで、凛ちゃんはアイスカフェモカ。
空いている2人席を探して、向かい合って座る。こんな風にして過ごす日々が、改めて有り難いと思えた。
ほんの少し前に、失ってしまった時間。それが戻って来て、今は満喫している。その有り難さは十分過ぎる程に味わった。俺にとって凛ちゃんが、どれほど大切な女性か分かったから。
「凛ちゃんが居てくれて良かった」
「えっ!? どうしたの急に!?」
「最近充実しているのは、凛ちゃんのお陰だから」
部活も日常も、全てが輝いて見えている。それは間違いなくこの女の子のお陰だ。昨年の日々を思い返せば、その差が良く分かる。
人間が1人でも生きて行ける世の中だけど、2人で居る方が損な訳じゃない。時間と経験を共有出来る誰かが居ると言うのは、お金で買う事は出来ない。
そんなのは、どこにも売っていない。自分が1人じゃないと実感出来ると言うのは、1人で居るだけでは得られないエネルギーがある。
「そんな、大袈裟だよ」
「ホントだって! 毎日が楽しい」
「それは……そうだけど」
恋愛至上主義を他人に押し付けようとは思わない。だけど、するかしないかを経験せずに決めるのは勿体ないと思う。
諦めようとして、諦められ無かったからこそ分かる。挑戦してみて、理解出来なかったら仕方ない。何が良いのか分からないなら仕方ない。
だけど何か得られるものがあったなら、その先に進んでみても良いんじゃないか。そんな風に俺は思う。
「去年はこんなに楽しく無かったよ」
「……私も今の方が良い」
「だからさ、一緒に居てくれてありがとう」
「涼ちゃん」
心から思っている感謝の気持ち。この気持ちを持ち続けたいと思う。驕り高ぶる様な事はせず、凛ちゃんと楽しく日々を過ごす事に注力したい。
俺達はまだ未成年で、この先の方が遥かに長い。知らない事、出来ない事が沢山ある。まだ経験していない事も、山のようにある。
それらを知った後であっても、俺は凛ちゃんへの感謝を忘れたくない。大事にしたい、この想いを。
「明日も楽しみだね」
「うん!」
この笑顔を、毎日見られる様に頑張ろう。




