第4話 凛の葛藤と過去
私は昔から、積極的になれない人間だった。あんまり前に出るのは得意じゃなくて。意見を言えないわけじゃないけど、極力静かに暮らしたかった。
幼稚園の頃だってそうだ。本当は皆に混ざりに行けるぐらいに、勇気の持てる人間でありたかった。
男子にも負けずに、グイグイ行ける女の子が羨ましかった。そうして羨みながらも、僅かな友人とひっそりと遊ぶ日々。
そんなある日、1人の男の子が現れた。沢山の友達が居て、良く外を走り回っている男の子。ちょっとやんちゃな所もあって、やんちゃ仲間と良く先生に注意されていた。
そんな子が、急に私達の方にやって来て言う。一緒に遊ぼうよと。そして気付いた、この男の子が誘いたいのは私じゃない。
子供ながらにそれは理解出来た。差し伸ばされた手は、私の友達に向いている。
それから何となく、その男の子が気になり始めた。彼は相変わらず私の友達を誘おうとする。
私の存在を無視はしていないみたいだけど、注目はしていない。
ちょっと酷いんじゃないのと、子供っぽい怒りを抱いた。自分が誘われないといけない理由なんて無いのに。
小学校に上がってからは、彼は徐々に私達の方へは来なくなった。沢山の友達が増えたからだ。
それは私達も同じだったし、たまに気にする程度に変わって行った。活発な彼と、引っ込み思案な私とは生活する世界が違ったから。
小学3年生になってから暫くして、あの男の子に告白した女の子が出たと聞いた。別に見に行く必要なんてないのに、何故か見に行ってしまった。
そうしたら一緒に居たのは、溌剌としたスポーツ少女。可愛くて明るくて元気で、私みたいなタイプとは全然違った。
それが衝撃的で、辛くて。何故か悲しむ自分に気付いて、漸く自覚した。私は彼が好きだったんだ。だから気になるし、だからイライラしたりしたんだ。
それからも彼は、相変わらずそこそこ目立つ人だった。いつも元気にグラウンドでドッジボールに興じていた。
学校で一番モテる人ではないけど、多分私以外にも何人か居るんだろうな。彼の事が好きな人は。
彼は誰にでも優しいから、好きになっちゃった人も居るだろう。直接言いに行けるかは別の問題として。
5年生になった時、彼は例のスポーツ少女と関係が切れたらしい。女の子は別の男の子を好きになったらしい。
やったと喜ぶ自分と、ちょっと酷いんじゃないかとその子に怒りを覚える自分が居た。自分から告白しておいて、彼の何が気に入らなかったのだろう。
相変わらず彼は、スポーツ関係だと活躍している。高熱を出しているのに徒競走で1位を取ったり、腕を骨折してるのにクラス対抗リレーに出たり。
昔から目茶苦茶な人だったけど、大体何かで妙に活躍をしていた。本人に自覚があるのか分からないけど、結構目立つ人だった。
小学校のクラス対抗ドッジボール大会の時だった。良くドッジボールをしている人達は、わざと私みたいなタイプを狙う意地悪な人に厳しかった。
彼もその1人で、彼と同じクラスの女の子は彼に守って貰える。どうして違うクラスなんだろう。守って貰える人達が羨ましい。
でも、彼は今フリーだ。焦る必要なんてない。そんな考えは一瞬で吹っ飛ばされた。長身で美人な生徒と、目茶苦茶仲良さそうにしている。
言い合いをしている姿は、どう見ても仲が良いとしか思えなかった。喧嘩するほど仲が良いとは、あんな空気感の事を言うのだろう。また私の出番は無かった。
当たり前だよね、目立たない私と目立つ彼。誰にでも優しくて、困っている子には手を差し伸べる。
そんな人が私の隣に来てくれる筈がない。考えたら分かる事だ。住む世界が違い過ぎる。
クラスの中心に居るタイプと、日陰者の私では対等になれる訳がないのだから。
しかし、そんな私に思わぬチャンスが来た。中学から通う事になった塾の行き帰りで、彼が一瞬に来てくれる事になった。
誰に憚る必要もなく、一緒に居る事が出来る。待ち合わせの為にと連絡先まで手に入った。一気に彼との距離が近付いた。
毎日のやりとりに、少しずつプライベートな話を入れてみた。彼は嫌がらずにやり取りを続けてくれた。
そんな日々を繰り返して迎えた、中学2年のバレンタイン。皆に渡すと言う名目で、彼だけには本命を渡す。
わざわざ言っていないから、気付かれるかは分からない。気付いて欲しい自分と、このまま気付かれずにいたい自分が居て。
好きと言いたいけど、言えない自分が情けない。こんな方法でしか、伝える事が出来ない。
ちゃんと言える人は、電話したりしてスパッと言えちゃうんだろうけど。私にはそんな方法は取れない。
良いんだこれで、涼ちゃん凛ちゃんと呼び合える関係性になれただけで十分。そんな風に2人の関係を積み重ねて迎えた中学3年のバレンタイン。
前回もバレ無かったから、きっと大丈夫だろう。そんな風に考えていたら甘かった。
『俺の事好きなの?』
そんなメッセージが来た時、どうにかなりそうだった。気付かれてしまったとパニックなる。
冷静に考えれば、いつかバレる方法でしかない。バレた時の事を先ず考えておけと言う話だ。それでもどうにかこうにか、答えを返す。
『そうだよ』
この4文字を送信するのに、何度文章を消したか分からない。勇気と言う言葉とは、およそ対極の位置に居る私が何とか絞り出した勇気で、何とか告白出来た。
昔から密かに想い続けた日々の、集大成を送信出来たと思う。
『俺も好きだよ』
この返事を見た後の記憶がない。嬉しくてどうにかなりそうで、息が止まるかと思ったのだけは覚えていた。これで私達2人の新しい日々が始まると思った。
1年生の頃は私より背が低かったのに、いつの間にか私よりも背が高くなった彼は、凄くカッコ良くなっていた。
ちゃんとオシャレにも気を遣う人だから、髪型もいつもしっかりセットしている。声も低くなっていて、色々と大変だ。そんな人が私の恋人なんだ。
でも、何も変わらなかった。それまでと同じ日々が続いた。あれ? 私達って、付き合ってるんじゃないのかな?