第36話 クリスマスイブ前編
冬休みとなれば、当然避けられないのがクリスマスだ。昨年までの俺なら、凛ちゃんが居るからと調子に乗って居ただろう。
でも今は違う、恋人として凛ちゃんと一緒に居る。周りの事とかどうでも良くて、ただ凛ちゃんとの時間だけに集中している。
「おはよう、凛ちゃん」
「うん。おはよう涼ちゃん」
クリスマスイブの朝、午前10時に待ち合わせをした俺達は最寄り駅で合流した。所詮は高校生だから、大したデートは出来ないけれど。
それでも、繁華街に出てデートらしい事ぐらいなら出来る。最寄り駅から4駅ほど行けば、複合商業施設やデパート等が建ち並ぶ、街の中心地に行ける。そこで今日は1日凛ちゃんと過ごす予定だ。
2人とも自転車通学だから、定期の類は所持していない。券売機で切符を買って、改札をくぐる。
所謂恋人繋ぎではないけど、俺達は手を繋いで歩いている。俺も凛ちゃんも、まだこの関係性に慣れていないのもあって互いに少し緊張している。
「涼ちゃんと2人で出掛けるの、初めてだよね」
「デートらしいデートって、初めてか」
「一杯楽しもうね」
最近分かった事だけど、凛ちゃんは意外と無邪気な所がある。160cmちょいの身長と、軽く髪を束ねたポニーテールが特徴的な女の子。
垢抜けると言うほどバッチリメイクではないけど、それなりに見た目に気を遣って居るのは分かる。
そんな俺と違って聡明で理性的な彼女だけど、デートだからってこんなに喜んでくれている。
オレなりに頑張って、クリスマスデートを提案してみて良かった。
「こうして並んでみるとさ、涼ちゃんおっきくなったよね」
「ハハハ。中1の時は、俺の方が小さかったからな」
「今はもう、すっかり大人の男性と変わらないよね」
「そう見えているなら良かったよ」
なんせ中1の入学時は、142cmしか無かったからな。1年10cmずつ成長したけど、中2の時はまだギリギリ凛ちゃんより低かった。
結局中3になるぐらいまで、凛ちゃんより小さかった。好きな女の子より背が低いのは何となく嫌だったから、今の身長まで必死になって伸ばした甲斐があった。
小学生の頃から、毎日の様に牛乳を飲みまくった。何ならおやつ代わりに煮干しを齧っていたぐらいだ。あの日々が無駄では無かったと、改めて実感出来た。
「昔は可愛かったけどね」
「可愛いはちょっと、複雑だなぁ」
「え~あの頃の涼ちゃんも良かったけどなぁ」
女装が趣味であれば、喜ばしい褒め言葉なんだろう。だけど、俺にはそっち方向の趣味はない。やっぱり言われるならカッコイイか渋いだよな。
16歳で渋さなんて無いだろうけど。憧れはするけどね、渋い男性アーティストとか。あんな大人になれたらなぁと、心の中では思っている。
理想ね、あくまで理想。自分がイケメン俳優みたいになれるとは微塵も思っていない。
「もうすぐだね」
「だな。移動しとこうか」
2人席に座って居た俺達は、次の駅で降りる為に席を立つ。こっちの方に来るのは久し振りだ。好きな男性向けブランドの衣類を買う為に、たまに来ている程度だ。
男同士で遊ぶ場合は、大体地元だけで間に合っている。買い物以外なら、映画を観る時ぐらいか。あまり頻繁には来ないので、たまに新しい店が出来ていて驚く事もある。
「あれ? あんな店あったか?」
「どのお店?」
「ほら、向かいのクレープ屋」
駅から出るなり、早速知らない店を発見した。ここの駅前は、良くコロコロ店が変わる。
それだけ激戦区と言う事なんだろうけど、好きだった店が無くなって居た時のショックは大きい。
有名なカレーのチェーン店が、無くなった時のダメージはデカかった。あの店、ここにしか無かったんだよな。
「へぇ~、東京の有名店みたいだよ」
「なるほど。言われてみたらオシャレだな」
東京発祥の店舗って、何かしらオシャレな印象を受ける。地元のチェーン店とは何か違うと言うか。
あと京都って言われると、そこはかとなく雅な感じがする。イメージの問題なのかも知れないが。隣の芝が青く見えてしまう様なものだろうか。
「流石に今からクレープもなぁ」
「うん、今は私もちょっと」
「夕方ぐらいに、思い出したらで良いか」
朝食は済ませて来たし、あと2時間ほどでお昼だ。今から甘い物を摂取する気にはならない。
こんな中途半端な時間に食べたら、その後全てがズレてしまう。せっかくのクリスマスデートで、そんな無計画な行動は取りたくはない。実質初デートなんだから、しっかりと決めたい。
「午前中はどうするの涼ちゃん?」
「映画にしない? ほら、凛ちゃんが好きなシリーズやっているし」
「覚えていてくれたんだ」
中学時代に教えてくれた、海外のファンタジー作品。そのシリーズ最新作が、修学旅行中に上映開始されていた。
剣と魔法のファンタジーで、アクションシーンも多いから俺も楽しめる。凛ちゃんの方はシンプルにストーリーが好きなんだけど。目的は多少違えども、同じ作品を一緒に楽しめれば問題は無い筈だ。
「そう言うわけで、行きますか」
「うん、行こう涼ちゃん!」




