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第30話 今度こそ、間違えない様に

 強風に煽られて、建物がガタガタと揺れている。どうしてこうなってしまったのだろう。切っ掛けは多分、私が田島(たじま)君を振ってしまったから。

 だからきっと、ちょっとした嫌がらせのつもりだったんだろう。私が(りょう)ちゃん探していると何処で知って、上級者コースに居るなんて嘘を吐かれた。

 涼ちゃんなら、上級者コースに居ても不思議じゃないから疑わなかった。

 山頂付近を探し回っているうちに風が強くなり始めて、気が付けば周りには誰も居なくて。


 リフトはもう止まっているし、私はこの斜面を滑り降りる事が出来ない。仕方がないので、この倉庫に避難する事にした。

 場所さえはっきりしていれば、最悪連絡すれば良い。そう考えてスマホを取り出せば電池切れ。


「涼ちゃん……」


 散々距離を取っておいて、こんな状況で助けに来てくれる訳がない。私がここに居る事を誰も知らない。大体、リフトが動いていないのにどうやって来るのか。

 ガタガタと揺れる倉庫、孤独な私。吹雪がいつ止むのか分からない。今日一日耐えたら良いのか、二日掛かるのか。

 いずれにしても、この寒さの中で私が耐えられるとは思わない。段々と現実味を帯びて来る、凍死と言う未来。


 さっさと素直になれば良かったのに、逃げ続けた私の結末。あの人、西田(にしだ)さんの言う通りだ。私が涼ちゃんに好きになって貰う資格なんて無かった。

 それに気付いたら、つい涼ちゃんから逃げてしまった。またやってしまったと、謝りにたくて会いに来て。

 結局会えないまま終わる。何とも私らしい人生のエンディングだ。そう、全てを諦めかけた瞬間だった。倉庫の扉が開いたのは。


「はぁはぁ……やっぱり居た」


「涼、ちゃん?」


 これは、死に際に見た私の幻だろうか。だってあり得ない、こんな吹雪の中でどうやってここまで来たのか分からない。

 そもそも、これじゃあ私を探しに来たみたいじゃないか。そんな理由なんて、もう無い筈なのに。


「一旦閉めるよ」


「どうして……」


「それは俺の台詞だ。滑れないのに何でこんな所に?」






 全く探すのが俺じゃなかったら見つけられて居なかったかも知れない。良かったよ探しに来て。幼稚園時代のかくれんぼをふと思い出して、(りん)ちゃんが入りそうな所を探した。

 リフトからそう離れておらず、尚且つ誰でも入れそうな所。それがここだった。ドアを開けてみれば、座り込んだ凛ちゃんが驚いた顔で俺を見ていた。


「涼ちゃんに、謝ろうと思って。それで……」


「それでわざわざ上がったの!? 下で待ってれば良いのに?」


「そう、だよね」


 やっぱり今日の凛ちゃんはおかしい。いつもの凛ちゃんらしさがない。それに俺に謝るって、何の事だろう。

 俺の方には謝る事があっても、凛ちゃんに謝る事なんて何もないだろう。…………いや、待てよ。

 彼氏が出来ました、とかなら有り得るのか? それはちょっと、俺遭難したくなっちゃうかな。ハハハ……。


「謝るって、何を?」


「ごめんね、どう接して良いのか分からなくなっちゃって」


「ああいや、それは俺のせいなんだろ? 勘違させたんだって、友達にも言われたから」


 それは凛ちゃんが悪いのではなく、そもそも俺がちゃんとした態度を取らなかったからだ。告白されたからって、調子に乗った。

 先の事なんて何にも考えてなかったから、凛ちゃんの本音に気付く事が出来なかった。ちゃんと彼女の気持ちに、向き合う事が出来ていなかったから。


「でも、私……私だって……」


「良いんだよ、凛ちゃん。まだ俺達は16歳だ。全然まだまだ、やり直しが出来る」


「涼ちゃん……」


 やり直し、いや少し違うか。失った時間までは戻らなくても、新たに思い出を作って行けば良い。

 それにそもそも、俺達はまだ始まって無かったんだ。だからここから俺達が始まる。再スタートをここから、もう一度始めよう。


「凛ちゃん、俺は君が好きだ」


「涼……ちゃん……」


「凛ちゃんは?」


「……私も、昔からずっと、涼ちゃんが好き」


 改めてこうやり取りをすると、だいぶ恥ずかしい。良かった、もう好きじゃないって言われなくて。こんなに格好を付けといて、フラレたら大恥も良い所だ。

 一生背負う黒歴史になる所だった。ともあれ、これで再スタートを切れる。あの日出来なかった、本当のスタートを。


「じゃあ凛ちゃん、俺と付き合ってくれるか?」


「…………はい」


 差し出した俺の手を、彼女の冷えた手が掴んだ。そろそろゆっくり青春している余裕はない。さっさと下山してしまわないと。このままだと、2人仲良く凍死体だ。


「ちょっとバタバタするけど、急いで下山するよ!」


「あ、でも私スキーなんて」


「大丈夫だ。俺が背負う」


 凛ちゃんが持っていたスキー板を、2つ重ねて腰の後ろで横に持つ。これを椅子代わりにして座って貰う。

 ストックは、俺のウェアにでも引っ掛けておけば良い。雪で前が見えなくても、勝手知ったる滑り慣れたゲレンデだ。

 先ずは、見付けられたとリフトのおじさん達に知らせないと。


「しっかり掴まってよ!」


「う、うん。これで良い?」


「ドアだけお願いね」


 倉庫の扉が開いたままだと、中が大変な事になってしまう。人命優先とは言え、ドアぐらいは閉めて行こう。

 中の道具類が、誰かの命を救うかも知れないから。こうやって、凛ちゃんが避難出来た様に。


「よし、行くよ!」


「うん!」


 流石にこれほどまでの吹雪の中で、雪山を滑り降りた事はない。しかも、女の子を背負った状態で。

 逸る気持ちを抑えて、無理な速度を出さずに何度もカーブを描きながら滑り降りる。幸いにも、視界が悪いと言ってもゲレンデに過ぎない。

 リフトの柱の側を定期的に通る様にすれば、大きくコースを外れる事はない。焦らず落ち着いて滑れば、大体の位置取りは把握出来る。

 速度を落として滑った為に、普段の倍は時間が掛かったけれど中級者コースのリフト降り場まで降りて来られた。


「見付けました!」


「無茶するなボウズ! 二度とやるなよ!」


「ごめんなさい!」


「先導してやるから、この紐を腰に巻いて着いて来い!」


 リフトのおじさん達の先導に従いながら、腰に縛り付けた紐の行き先を追う。雪山に慣れた人達の先導があるので、先程までとは全然滑る速度が違う。

 まさか自分の人生の中で、視界が悪い中で紐を頼りに移動する日が来ようとは。


「もう大丈夫だ、凛ちゃん」


「うん、ありがとう涼ちゃん」


 それから程なくして、俺達は無事に雪山を滑り降りる事に成功した。凛ちゃんを失わずに済んだのだから、この後に待っているお説教ぐらい軽い軽い。

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