第29話 凛の遭難事件
結局武本の面倒を見ていたら、結構な時間が過ぎてしまった。
初日は午後しか滑れないのだから、かなりの時間を消費した事になる。勘弁して欲しいよ全く。
「あ、藤木君!」
「西田さん。今降りて来たの?」
「うん。難しいねスキーって」
西田さんは初めてだと言っていたから、一番最初に習う八の字の練習かな。斜面の登り方とかも最初は苦労するんだよな。
慣れてしまえばどうと言う事のない傾斜も、初めての間は物凄い角度に見えてしまう。
どこかの誰かさんと違って、ちゃんと自分に合ったコースを選んでいるので心配する必要はない。
「藤木君はスノボだもんね。やっぱり何でも出来るじゃない」
「いや、これはその」
「きゃっ!? 凄い風」
少し風が出て来たか? 先程から風を感じてはいたけど、天候が悪くなりそうだ。山の天気は変わりやすいと言うが、つくづく運に見放されているらしい。
強い風がゲレンデを吹き付け始めた。このまま吹雪になったら、リフトも止まって本日の営業は終了だ。武本の件が無ければ、もうひと滑りぐらい出来ただろうに。
「仕方ない、一旦ホテルに戻ろ」
「藤木君! 凛ちゃん見てない!?」
「柴田さん? 凛ちゃんがどうかしたのか?」
随分慌てた様子で、5組の柴田さんがやって来た。あんまり接点がないから、話すのは久し振りだ。
彼女は凛ちゃんと仲が良かった筈だから、一緒に居たんじゃないのか? 最近全然話せていない俺よりも、彼女の方がよほど詳しいのではないだろうか。
「どこにも居ないんだよ!」
「嘘だろ!? まさか、遭難!?」
こんな天候の中で遭難なんて、洒落にならないぞ。捜索隊も多分出せないだろうし、何より救助ヘリが飛べない。
八方塞の最悪な未来しかない。凛ちゃんは運動が得意じゃないから、フィジカル面でも不安しかない。
「待って。清水さん、いつから居ないの?」
「1時間前ぐらいから!」
「……それなら、中級者コースに向かうリフトに乗るのを見たよ」
「西田さん、それは本当か!?」
何でそんな所に? 凛ちゃんはどう考えても初心者コースから先に進む必要がない。なのにどうして上に上がった?
下手したら、まだ降りて来られていないんじゃないか? リフトが止まれば凛ちゃん1人では下山が不可能になってしまう。
「え、ええ。それがどうかしたの?」
「行って来る!」
「ちょ、ちょっと、危ないよ! 大人に頼もう?」
「……ごめん。俺は行くよ。柴田さん、先生に連絡してくれ! 頼むな!」
そう言い残してリフトへ向かう。まだ辛うじて運転している様だから、上へ向かう事が出来る。まだ、何とかなるかも知れない。
「すいません! まだ動きますか!?」
「そろそろ止めるんだけど、まさかまだ滑る気かい?」
「初心者の……友達が上がってしまったみたいで。連れ戻したいんです!」
「そりゃあ大変だ、急いだ方がいい。上にも連絡しておくよ」
お礼を言ってリフトに乗せて貰う。かなり風が強くなって来ている。リフトもかなり揺れている。吹雪になりつつあり、前が見え辛くなって来ている。
この状況でウロウロしたら本当に遭難してしまい兼ねない。頼むからどこか分かり易い所に居てくれよ凛ちゃん!
「話は聞いているよ、初心者だしこの辺りに居るのかい?」
「いやそれが、中級者コースより上と言う事しか」
「でもねぇ、そろそろリフトは危険だし」
「せめて中級者コースまでは! お願いします!」
分かっている。スキー初心者じゃないから、リフトが動かせるギリギリの状況なのは理解している。それでも頼むと、リフトを管理しているおじさん達に頭を下げる。
正直かなり厳しいとは思う、だけど凛ちゃんの命が掛かっているなら話は別だ。
「ふむ、まあまだ1回ぐらいなら」
「見付けたらすぐに戻るんだよ?」
「はい! ありがとうございます」
吹き付ける吹雪に打たれながらリフトに揺られる。安全を考えれば、もうそろそろ下山を考えなければならないレベルまで風が強くなっている。
俺が先走っただけで、実は既に凛ちゃんは下に降りていた。それで終わるならどんなに平和な結果だろうか。この吹雪の中では、最早人影を見つけるのは困難なレベルだ。
数メートル先が、雪で見えない。これ以上強くなったら、俺自身が遭難の危機だ。ミイラ取りにならない様に気を付けなければならない。
「君が例の学生かね!?」
「はい! この辺りで女の子を見ませんでしたか?」
「さっきから探しているけど、見つからないよ!」
風がかなり強くなって来たので、大声で会話しないと聞こえない。こんな状況の中でも、おじさん達は凛ちゃんを探してくれたらしい。
それでも見付からないのなら、まだ上に上がったのか? 何の為にわざわざ上級者コースに? そんな事有り得るのか?
しかし、可能性は全部潰しておく方が良い。既に謎の行動を取っているのだから、通常の凛ちゃんとは違う思考が働いたと考えるべきだ。
「上級者コースまで上がれませんか!」
「無理だ! これ以上リフトを使うのは危険過ぎる!」
「分かりました! なら自分で上がります!」
「こら! 待ちなさい!」
リフトが動かないなら、自分の足で登れば良いだけだ。まだ体力に余裕はあるし、1コース分登るぐらい大した事ない。
ちょっとしたトレーニングだと思えば、ここから山頂付近まで登るぐらい俺には出来る。頼むぞ凛ちゃん、無事で居てくれ!




