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第3話 涼介の葛藤と過去

 清水凛(しみずりん)との出会いは、実は結構昔になる。幼稚園の頃に、俺が気になっていた女の子。大人しくて物静かで、可愛いのに隅の方に居た子。

 俺がいつも声を掛けに行ったら、その子の隣に居た女の子が凛ちゃんだった。


 だから多分、一緒に声を掛けていたとは思う。昔から1人で居たり、皆に馴染めていない子が居たら気になってしまう。

 多分、仲間外れは良くないとかそんな理由だと思う。今はかなり落ち着いたけど、昔はそう言う正義感が強かったから。

 今はもう流石にやっていない。1人で居たいだけかも知れないから。いちいち構われたら鬱陶しいだろう。

 小学校から一緒だったタイプのクラスメイトなら、たまに声を掛けたりはする程度だ。


 幼稚園の後はどうだったろう。小学生の頃は、あまり凛ちゃんとの思い出はない。向こうはどうか分からないけど、少なくとも思い出は特にない。

 俺は真っ先にドッジボールを持って、グラウンドに行くタイプだった。だけど凛ちゃんはそう言うタイプではない。

 だからどうしていたかは良く知らない。俺は活発なタイプの男子と女子で固まって、いつも遊んで居たから。


 ドッジボールと言えば、うちの小学校では運動が苦手なタイプを意図的に狙う行為は毛嫌いされていた。

 卑怯者の扱いを受けるし、やったら活発なタイプが代わりにやり返していた。俺もそっち側だし、ドッジボール大会では凛ちゃんみたいなタイプを守ったりしていた。

 それが当たり前だと思っていたし、それは今も変わらない。自分より弱い者に強く当たる奴は嫌いだ。


 俺達の接点が復活したのは、中学生になった時だ。塾に通う事になったのだけど、その塾までの道のりに少し問題があった。

 夜は真っ暗で、人の気配が一気に無くなるからだ。俺は平気だったけど、同じ塾に通う女子達の両親は不安だったそう。

 まあ当然だよな、どこかで変な奴に目を付けられたら大変だし。


 女子達の両親からの要請で、同じ塾に通う数人の女子と男子達が一緒に行く事になった。分かり易いボディーガード役だ。

 もちろん俺は全然構わなかった。変質者から女子達を守るのは当然だと思ったし、押し付けられたとは一切感じなかった。そしてその女子達の中に居た1人が、凛ちゃんだったのだ。

 昔よりも大人っぽくなっていた凛ちゃんは、身長も結構あってスタイルも悪く無い。以前よりも伸びた髪を、一つに纏めてポニーテールにしていた。正直かなり好みのタイプだったのは秘密だ。


 そこからの日々は、楽しい毎日だった。凛ちゃん達と話をするのは面白かったし、今でも良い思い出だと思う。

 それに女子と接点が有ると言う事実が、ちょっとした優越感を生んでも居た。何となーくあったモテるモテないの階級社会。

 その最下層では無いと言うのは、やっぱり安心感があった。こんな事を考えているからダメなんだろうけど。


 そんな日々の中で、転機が訪れたのはバレンタインだ。凛ちゃんとの最初のバレンタインは、中学2年生の時だ。

 他の男子達にも渡している様だったから、俺の分も義理だと思っていた。ホワイトデーもちゃんと返したし、ほぼ日課になっていたメッセージのやり取りもずっと続いていた。

 仲の良い男女ぐらいの感覚で、でもちょっとだけ特別な女の子でもあった。


 そして2回目のバレンタイン、中3の2月だ。そこで気付いてしまった。俺だけ貰っているチョコレートが特別な物だと。

 他の男子に渡しているものとは全然違った。もしかして、これって本命なのでは? そう考えた俺は、つい調子に乗ってメッセージを送ってしまった。


『凛ちゃんって、俺の事好きなの?』


 今思えば、馬鹿なガキだったと思う。本命チョコレートに舞い上がって、知られたくないかも知れないとか、一切考え無かった。

 だってその時にはもう、俺にとって凛ちゃんは特別な女性だったから。自分からイキった癖に、ドキドキしながらスマートフォンの通知が鳴るのを待ち続けた。

 どれぐらい待っただろうか? 5分か10分か、もっとそれ以上か。凛ちゃんから返事が返って来た。


『そうだよ』


 この世の春が来た瞬間だった。大勝利だ、満塁ホームランを打ったかの喜びを感じた。俺は凛ちゃんが好きで、凛ちゃんも俺が好きで。

 完全な両想いなのだから、これでゴールだ。済まない、女子に好きになって貰えない全国の中学生達。俺は一抜けさせて貰うぜ。


『俺も好きだよ』


 勝ちもうした、青春と言うゲームに。完全攻略完了です。ここからは俺のバラ色の日々が待っているんだ。すまん、俺は先に進ませて貰うぜ。




 それが今こうだ。何が何だか分からないよ。俺はどうしたら良かったんだ? 何を間違えた?

 無理に手を繋ごうとか、ましてやキスを迫る様な事は何もしていない。いつも通りの日々を送り続けたし、メッセージも毎日ちゃんと送っていたのに。


 高校生になった途端、俺は青春敗者の仲間入りだ。彼女? 居ませんよそんなの。初体験? 何それ美味しいの? 

 これで良いんだよ俺は、結局こうなるんだよ。女子の言う好きと、俺の思う好きはどうやら違うらしい。

 だったらもう、1人でも構わない。俺はバスケが楽しかったらそれで良いんだ。


 傲慢な考えなのかも知れないけれど、もう女心がどうとかに悩まされたくない。きっと俺には向いてないんだよ恋愛なんて。

 人を好きになるとか、そう言う事には向いてない人間なんだよ。いつもこうなるんだからさ。

 期待したら肩透かしを食らってばかりで、何が良いのかもう分からなくなって来た。何なの恋愛って? 全然分からないよ。

 今の10代は半分が恋愛する気が無いと言う。だったらもう、俺もその半分で構わないよ。

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