第28話 いざスキー場へ
「焦らなくて良いからなー! 順番に乗り込め! 貴重品は持っておけよ!」
担任教師の誘導に従い、俺達は大型バスに乗り込んで行く。スキー研修と言う名の修学旅行なので、一応はスキーの腕前で班分けがクラス毎に行われている。
俺と信也は、武本や島田達とともに上級者班に所属している。
腕前とは別にスキーかスノボのどちらかを選べるのだが、スノボを選んだ男子は多い。
しかし、うちのクラスでスノボ経験者は俺だけだった。その関係で、上級者班のスノボレッスンを任されてしまった。
好きに滑るつもりだったが、思わぬ落とし穴に嵌った。
教えるのは吝かではないけど、初心者の面倒を見るのは中々に骨が折れる。
流石に自分も楽しみたいから、悪いが最初から上級者向けの山頂付近からレッスン開始だ。自分で上級者班を選んだんだ、文句はあるまいて。
「3日間宜しくね~藤木君」
「宜しく吉田さん」
「楽しみだよね~」
以前吉田さんには、信也とグルになって嵌められた経験があるから要注意だ。明るくて可愛い女子だけど、侮っては行けない。
この修学旅行でも、何かを仕掛けて来るかも知れない。油断は命取りだ。俺は同じ過ちは犯さない。
なんて考えた所で、凛ちゃんとの深い溝は埋まらないままだ。結局あれから、何の進展もない。
もう、嫌われたと思うしか無いのだろうか。吉田さんや信也の策に嵌りに行って、西田さんを選んだ方が良いのだろうか。
そうは言っても、未だに西田さんは友達としか思えていない。そんな状態でどうにかなっても、本当に彼女の為になるんだろうか。
以前、山下先輩に言われた事を思い出す。両方愛せは兎も角として、この状態で付き合うのは不誠実なんじゃないだろうか。好きな女性が別に居るにも関わらず。
乗り込んだバスでは、班毎に固まっているから西田さんの席は遠い。上級者班と初心者班ではかなり距離がある。そんな彼女は彼女で、友人達と楽しそうに談笑していた。
やっぱり駄目だ、そんな不誠実な事は出来ない。あんなに魅力的な女の子を、とりあえずで恋人にしようなんて烏滸がましい。
せめてやっぱり、ちゃんと凛ちゃんと向き合ってからじゃないと。
「涼介、麻雀しようぜ」
「良いけど、変な罰ゲームは無しな」
「分かってるって。おい武本、島田!」
山梨県に到着するまでの間、まあまあ暇な時間が続く。その時間潰しをしつつ、どうして行くかちゃんと考えよう。
西田さんが好意を向けてくれるのは嬉しいけど、この状況が良いとは思わない。
西田さんは良いって言うけど、答えを出さずにいつまでもこのままは彼女に悪い。
まるでキープ扱いしてるみたいで、凄く居心地が悪い。それに何だか、浮気してるみたいで凛ちゃんにも悪い。
「っしゃ! 始めるぞ」
スマホアプリを立ち上げて、ローカル対戦のルームに入る。いつもの4人の名前とアバターが画面に表示され、対局が始まる。
手牌を交換したり、ツモ切りをしたりして手を進めて行く。そんな作業を続けながら、俺は悶々と悩みについて考え続けた。
「うわああああああ!?」
「武本! 腰が引け過ぎだ! 真っ直ぐ立てと言っただろ!」
思いっ切り腰が引けたままの武本が、加速したボードの速度にビビって雪原に転倒した。
現在、スノボ初心者達を連れて、山頂付近の上級者コースに居る。
体育会系しか居ないから、多少スパルタ気味でも大丈夫かと思ったが駄目っぽい。信也と島田はともかくとして、主に武本が。
最初からスキーを選んで居た吉田さん達は、とっくに滑り降りている。他の上級者班のスノボ組も連れて居るので、まあまあ邪魔な集団になってしまった。
まともに滑れる様になってから来いよと言う、他の利用者達の視線が痛い。せめて中級者コースからにすべきだったか。
どう見てもイキって上級者コースに来た、邪魔な高校生達にしか見えないだろう。
「そんなに怖いならスキーにしとけよ」
「だって、ボード出来た方がカッコイイだろ!?」
「お前、馬鹿なのか? スノボを選んでおいて滑れない方がダサいだろ」
「頼むぅ~~見捨てないで藤木!」
俺も大概馬鹿だとは思うけど、武本は更に馬鹿だと思う。滑れもしないスノボを選んでこの有り様。これでどうやって女子にモテると思ったのか。
頭を切開して、脳が入っているか確かめてやりたい。そもそもこの調子なら、中級者班を選べ最初から。
上級者コースの斜面にビビって腰が引けてしまう奴に、上級者コースを滑るのは難しい。
「はぁ~~仕方ないか。すまん皆! 中級者コースまで一旦降りよう。武本が使い物にならん」
「はぁ!?」
「おい武本ぉ~~!」
スノボ初体験ながら、スパルタ教育に着いて来られた男子達からブーイングが飛ぶ。下手くそながらも、それなりに滑れ始めていた所だから。
皆の怒る気持ちも分からなくはない。そうは言っても、このまま滑れない武本を放置して行くわけにもいかない。
スキーは出来ると皆が言うから、最初から上級者コースにした。しかしこの様子を見る限りだと、武本は見栄を張ったのだろう。
明らかにビビリ過ぎている。スキー自体は出来るのだろうが、恐らくはちょっと滑れる初心者レベルだ。
「武本、もう余計な見栄を張るのは辞めろよ」
「藤木ぃ~~ありがとう、ありがとう!」
どうにもならないので、皆でボードを担いで中級者コースまで歩いて降りて行くのだった。何をしに来たんだ俺達は。




