第23話 未だに埋まらない2人の距離
「涼介、ブレイクダンスやるぞ!」
「はぁ!? 何だよ急に!?」
また信也が変な事を言い出し始めた。いつも唐突に巻き込んで来るから油断ならない。
今度は何だ、ブレイクダンスだと? 急過ぎるだろうが。俺達はバスケ部であって、ダンス部なら別にあるだろう。
「文化祭だよ、ステージに立つぞ」
「は!? 本気で言ってるのか?」
「当たり前だろ」
もう決定事項らしい。聞いた話では体育館の舞台で、個人やグループで出し物をやれるらしい。それに出ようと言うわけか。
確か、申請とかも色々やらないと駄目なんじゃなかったか? 今からでも間に合うのかよ。
「申請とか練習とか、どうするんだよ?」
「それは問題ない。それより、今からメンバーを集めるぞ」
「ちょ、お前、無計画過ぎるだろ!?」
「良いから、行くぞ!」
相変わらずやると言い出したら聞かない奴だな。これまでの信也の思い付きで一番酷かったのは、中3の時にチャリで東京まで行こうと言い出した時だ。
正気を疑ったが、計画は実行された。そして隣の県にすら行かずに帰って来た。当たり前だろう、ただのママチャリで山越えなんて苦行でしかない。
結局適当な所で諦めて、そのまま帰って来たのだった。昔からこう言う所は変わっていない。
ダンス部だってあるのに、わざわざこんな無茶な企画に付き合う奴はそう多くないだろう。
集まってしまったよ、体育会系が男女20人も。嘘だろうお前ら、こんな適当な企画に参加するなんて。
大体お前らだって、部活とかあるだろうよ。大丈夫なんだろうな?
「いやーダンスも興味あんのよねー」
「だよね~面白そう」
「あれやってみたくね? 頭で回るヤツ」
「あ~あれな! 首の筋肉やっぱ必要なのかな!?」
お前ら……やる気マンマンじゃないか。もうそれはダンス部行った方が喜ばれるだろう。強制参加で参加してる俺が言うのも何だが。
そしてどいつもこいつも見知った連中ばかりだ。信也の人脈で集めたから、当たり前っちゃ当たり前だが。
いずれにせよこれだけ集まったのなら、今更出来ませんとか言えないぞ。大丈夫なんだろうな、信也のヤツ。
「わりぃ、待たせた! 皆、この用紙にクラスと名前を記入してくれ」
「ああ、そこはちゃんと分かってたのな」
「だから大丈夫って行ったろ?」
そこまでちゃんとしているなら、まあ何とかなるか。期限までに提出すれば、駄目とは言われないだろう。しかし、問題はまだある。
俺達は皆ダンスの素人だ、ダンス部は1人も居ない。誰がどうやって、ダンスを教えてくれるんだ。そこまでちゃんと、プランを用意したんだろうな。
「聞いてくれ、兄貴の友達にダンスグループをやってる人が居るんだ」
「へぇ~凄いじゃん」
「どんな人なの? イケメン?」
「今度紹介するけど、その人が練習を見てくれる」
なるほどね、そう言うパターンだったか。ちゃんと色々用意して、プランもしっかり組んで来たんだな。信也の思い付きには、この当たりパターンと、ハズレパターンがある。
ハズレを引くと散々だが、当たりを引くと何やかんやで楽しい思い出が出来る。結局コイツと仲良くやれてるのは、その楽しいが中々良い線行くからなんだよな。
「練習は夜19時から。市民会館にある駐車場でやるぞ」
「堂本、連絡はどうするんだ?」
「後で俺がグループ作っとくから、そこに頼む」
「分かったー」
当たりパターンの時は、こんな風に皆でワイワイ楽しくやれる。急に言い出した時は、どうなる事かと思ったが大丈夫そうだな。
俺がブレーキを踏まなくても、ちゃんと成立しそうだ。だったら、俺も素直に楽しむ側に回ろうかな。
アレコレ考えているよりも、とにかく体を動かしている方が俺も気分が晴れて良い。
涼介が信也に振り回されて居た頃、凛は非常に困る事態に巻き込まれて居た。最近になって、積極的に凛に絡む様になった男子生徒が、凛へと告白をして来たのだ。
「なあ、良いだろ清水? 俺と付き合ってくれよ」
「…………ごめん、それは出来ない」
「何でだ? 理由を教えてくれよ」
「好きな人が居るから」
結局の所、凛はまだ涼介が好きだった。当たり前だ、幼稚園の頃から好きだったのだ。今更簡単に無かった事になど出来る筈がない。しかし、拗れた関係である事も事実ではある。
「そのわりには、そんな表情なんだな」
「貴方には関係ないでしょ」
告白を断る凛の表情は晴れない。良好な関係であるならば、もっと明るい雰囲気で断れる。
しかし、現状の凛と涼介の関係は良好とは程遠い位置にある。そしてそれは、凛を良く見ている相手なら伝わってしまう。
「そんな表情をさせる奴より、俺を選べよ」
「だから、貴方には関係ない。もう良いでしょ」
その場を去る凛の、表情は未だに暗いままだ。なんてことは無い、さっさと涼介と仲直りしてしまえば良い事で、それは涼介とて同じ。
溝を埋めないまま、高校生になってしまった。その結果出来てしまった見えない壁は、未だに崩れてはくれない。
お互いに後一歩踏み出すだけで、再び交わる筈の道は未だに繋がらない。近くて遠い距離が、未だに縮まる事はない。
些細な事で拗れてしまった青春の日々はまだまだ、鮮やかさに欠けていた。




