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第22話 愛を知る男

 西田(にしだ)さんの、熱い告白騒動から暫く。特に何か変わった訳じゃないけど、明らかに接触自体は増えていた。

 ちょくちょくメッセージも来る様にはなったが、彼女の言った通り友達の枠は超えて居ない。

 その律儀な所が、実に西田さんらしいと思う。正々堂々、清廉潔白、そんな女の子に好かれたのは本当に不思議だった。


「これじゃあ、正樹(まさき)に文句を言えないな」


 中野(なかの)の好意を受け入れようとしない、あの男を怒る資格を失ってしまった。それでも苦情は入れるが。

 無理とか合わないとか、それはちょっと言い過ぎな事に代わりはないから。


 夏休みも終わり、季節は秋に変わった。まだまだ8月と変わらない暑さの中で、俺は体育館前に外用のゴールを設置した。

 考えたい事が色々と出来て、でも纏まらなくて。とりあえず体を動かして居れば、落ち着かないかと期待して。

 制服のシャツとスラックスのままで、軽めのシュート練習を繰り返す。汗が流れるのも気にせず、ただボールとゴールに集中する。

 覚醒状態と言うのだろうか、体力を消耗しているのに気分はどんどん晴れて行く。暑い筈なのに、シュートを放つのを止められない。

 どれぐらいやっていたのか分からないが、気が付けばお昼休みの終わりが近付いていた。


涼介(りょうすけ)、随分熱心じゃないか」


山下(やました)先輩、どうしたんです?」


「ボールの音がしたからな。誰かと思って」


 一心不乱にやっていたから、音の事なんて気にしていなかった。少々煩かったかも知れないな。

 流石に遠くまでは聞こえないだろうけど、昼寝でもしようとしていた生徒が近くに居たら迷惑だったろう。すまない、今後は気を付けよう。


「何故1人で?」


「悩み事がありまして」


「ほう。後輩の悩みぐらい、聞いてやろう」


 恋愛の話を、この人にするのか? 二股三股は平気でやって、同時に女性を愛せてしまうのだから仕方ないとか言う人に?

 どちらかと言えば、相談してはいけないタイプの人間じゃないだろうか。両方愛せば良いとか、普通に言いそうなんだけど。


「いや、でも……」


「任せておけ、人生の先輩を信じろ」


 まあ、人生でも恋愛でも先輩である事に代わりはないか。でもなぁ、普段の言動がな。

 碌な答えには期待せず、とりあえずこの人ならどうするのか聞いてみようか? 街の酔っ払いにインタビューする企画みたいな感じで。


「実は、今こう言う状態でして」


「ほうほう、なるほど」


「まあそれで、俺はどうしたら良いのかなと」


 ざっくりと今の置かれた状態について説明した。もちろん、誰と誰かは伏せた状態での説明だ。

 恋愛事情を勝手に知らない他人にバラされたくは無いだろう。(りん)ちゃんも西田さんも。それに話すのがこの人だからな。あまり名前は教えたくない。


「ふむ。時に涼介、その最近告白して来た女子の事は好きなのか?」


「いいえ。友達としてなら好きですけど」


「そうか。なら駄目だ」


 え? この人なら両方行けって言うんじゃないのか? 思わぬ答えが帰って来てしまって困惑してしまう。案外、ちゃんと相談には乗ってくれる先輩だったのだろうか?


「あの、どうしてですか?」


「愛のない関係は駄目だ。相手に失礼だろう」


「は、はぁ」


「互いが想い合っているからこそだ。片方だけでは必ず破綻する」


 何だろう、凄くまともな事を言い始めた。そう、かも知れない。俺は中野に対して合わないと言った、正樹にとりあえず付き合ってみろよと伝えた。

 しかし、それは不誠実な関係かも知れない。山下先輩の言う様に、やっぱりお互いが想い合ってこそ恋愛として正しいんじゃないだろうか。

 凛ちゃんと上手く行っていないからって、西田さんに傾くのはやっぱり違うよな。それってきっと、好きって感情ではないよな。


「手を繋ぐとか、キスをするとか。その先にしてもそうだ」


「な、何がでしょう?」


「互いに想い合って居る場合と、そうでない場合では満足度が段違いだ」


 そ、そうなのか!? 絶賛童貞歴を更新中の俺には分からない世界だ。手を繋ぐ事に違いなんてあるのか? キスも? 経験していないから一切分からない。


「想っていなくとも、最初は求められるのが嬉しかったりする」


「はぁ。なるほど?」


「だがな、涼介。想って居ない相手との日々は、いずれ義務感が出て来る」


「おぉ! 何かそれっぽい」


 確かに、そんな話は聞いた事がある。とりあえず付き合ってみたけど、何か違うんだよなって経験を以前誰かから聞いた。

 何と言うか、付き合うと言う事に対する特別感だろうか。以前の俺の失敗も、その特別感に酔ってしまった結果だ。そう言う話なんですよね!?


「だが、想い合って居た場合は違う」


「ど、どう違うんですか!?」


「全てが特別なのだ、涼介。全てがな。ただ顔を合わせる事すらも、特別な時間になるんだ」


 ふ、深い! これが、恋愛経験だけなら豊富な男の世界。やっている事が最低でも、浮気も本気の男は愛を知っていると言う事か。

 同時に複数の女性を愛せてしまう男だけに、そこへの解像度だけは高いんだ。


「だからな、涼介。両方を愛せ」


「……は?」


「2人共愛するのが、お前の使命だ。ようこそ、愛の伝道へ」


 やっぱダメだわ、この人。

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