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第21話 西田雫と言う女子

 状況から言って、嵌められたのは確定した。全く帰って来ない2人と、西田(にしだ)さんと2人きりの俺。絶対これ、あの2人はグルだろ。

 そうとしか思えないし、そうじゃない方が怖いわ。その場合は2人に何かがあった可能性を考えて、探しに行く必要がある。まあ無いだろうそれは。

 コレは現実で、創作の世界ではない。都合良くチンピラが現れて、吉田(よしだ)さんが絡まれる。そんな事が現実で起きたりはしない。

 大体、そうなっても信也(しんや)が居るから問題ない。いや、分かってるんだ。現実を見ないと行けないのは。


「凄いね、藤木(ふじき)君! 魚と泳いでるみたい!」


「そ、そうだね」


 そうこれが現実、結構可愛くてスタイルが良いクラスメイトとプールに居る。本人にそのつもりがあるのか無いのか分からないけど、ちょくちょく当たるんですよね。

 ええ、西田さんの柔らかいモノが。しかし、これは俺を信頼しているから故の無防備さ。決して勘違いしてはならない。

 これは、そう言うアピールではない。最近出来た娯楽施設に初めて入って、テンションが普段より高くなっているだけなんだよ。


「ほら、行こう!」


「あ、ちょっ!?」


 西田さんはプライベートだと、案外積極的なんだな。普通に手を握って来るし、今も手を引かれて居る。こう言う時って普通は男がリードするのでは?

 俺が逆にリードされている。何ともまあ、格好のつかない話だ。ん? そもそもこれはデートになるのか? 西田さんはどう言うつもりなんだろう。


「なあ西田さん、俺と2人で良いのか? 吉田さんも居た方が良いんじゃ……」


「平気だよ? 私はもっと、藤木君の事が知りたいから」


「…………え?」


 どう言う事だ? 何で俺の事が知りたいんだ? 俺なんかに、興味があるって言うのか? こんなに可愛い女の子が? そんな馬鹿な。

 俺のどこにそんな要素があるんだよ。客観的に見たら、何処にでも居るような平凡な体育会系だ。多少バスケに自信はあっても、強豪校から誘いが来る様な事もない。

 下手ではないが、目茶苦茶上手いわけでもない。俺より価値のある男なんて、世の中に幾らでも居るだろう。なのにどうして。


「どうして、そこまで」


「私は藤木君が良いんだよ」


 流石に俺も、ここまで言われて気付けない程バカではない。難聴系でも鈍感系でもない。ただ、理由が分からない。

 俺は彼女に、何か特別な事を何もしていない。(りん)ちゃんが好きなのに、他の女の子にアピールなどしない。

 だから、こんな風に言って貰える理由が不明なんだ。吉田さんにする対応と、何も変わらない態度だった筈だ。


「どうして俺? 特に何もしてないでしょ?」


「だからだよ。他の人と違うから」


「どう言う事? 何もしないのが良いの?」


 女の子の考え方が分からない。それは一体どう言う意味なんだ。え、俺もしかして無自覚に浮気してたの?

 だとしたら俺はただの二股野郎で、山下(やました)先輩と同類と言う事に? 嫌だ、嫌すぎるそんなのは。


「私はほら、胸大きいから。昔、色々あって」


「あ、あぁ。なるほど?」


「結構、強引な男の子とかも居たから」


 西田さんが、あまり強く出られないタイプだったから。だから小中学生の頃に、色々と嫌な思いをしたらしい。

 気付いた他の女子に助けて貰ったり、先生にお願いしたり。それで何とかやって来たけど、段々周囲の嫌らしい視線は増えて行くばかり。

 そんな中で、俺だけは何も変わらない普通の対応だったらしい。ジロジロ見たりもしないし、侮る事もない。警戒する必要の無い、安全な男だと言う事らしい。


「でも、それだけで」


「それだけじゃないよ」


「え?」


「美術室から体育館は近いから。たまたま練習している姿を見てたら、いつの間にかね」


 そんな、事も、あるのか。俺の練習風景を見られていたのか。全然気付けていなかった。目の前の事に集中していたから。

 漫画みたいに視線なんて感じられないし、仮に集中していなかったとしても分からないだろう。そんな風に見られて居たなんて、ちょっと恥ずかしい気もする。


「それは、嬉しいけど。でも俺だって、何も考えないわけじゃない。その、スタイルの事とか」


「藤木君なら良いよ? 不快じゃない」


「いやいやいや、そんな、駄目だよやっぱり」


「好きな人になら、見られても平気」


 そこまで言い切られたら、何も言えないじゃないか。もう反論の余地はない。完敗だ、一言も言える事はない。分かった、西田さんが俺を好きで居てくれるのは理解した。

 だけど俺は、以前の様な過ちは犯さない。あの時の、何も分かって居なかった頃とは違う。ちゃんと、西田さんの好意に向き合わないと行けない。


「俺は、その。まだ、諦め切れてない人が居て」


「知っているよ。分かってる」


「だったら!」


「私の方からは、藤木君から離れない。絶対に」


 その強い意思だけは、ちゃんと理解した。俺に向けて来る、その好意の強さを。遊びでも中途半端な気持ちでもない。

 真剣な想いだった。俺に足りなかったモノを、見せられた気がした。クラスメイトの女子は、ちゃんと持っているみたいだ。覚悟ってやつを。


「今は友達で良いよ。これは私が清水(しみず)さんに負けるか、勝つかの勝負だから」


 その日見せた彼女の目は、初めて見せる闘志に燃えて居た。こんな表情も見せる女の子なんだと、思い知らされた1日だった。

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