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CAR LOVE LETTER 「Friendship」

作者: YAS

車と人が織り成すストーリー。車は工業製品だけれども、ただの機械ではない。

貴方も、そんな感覚を持ったことはありませんか?

そんな感覚を「CAR LOVE LETTER」と呼び、短編で綴りたいと思います。

<Theme:DAIHATSU MOVE(L152S)>


朝、仕事へ行く準備をバタバタと済ませ、鍵と携帯をバッグに投げ込もうとした時に、携帯にメールが来ているのに気が付いた。


朝の5時半なんて時間に受信してる。何かちょっと迷惑な感じ。


送り主は、会社の同期のあの子。まぁこんな時間からあたしにメール打って来るのはあの子しかいないわね。


メールの題名は「今週末」。あたしは何となく嫌な予感を感じつつ、メールの内容をチェックする。


「今週末、予定空いてたら、伊勢行こうよ。話したい事があるんだ。」


でたー!伊勢!

あの子は事ある度に何かと伊勢伊勢とあたしを誘う伊勢女なのだ!


とは言え、最近行ってないなぁ。

あの神宮の凛とした空気と、おかげ横丁の賑やかな雰囲気、あたしも何度行っても好きなのよね。


ちょうど今週末は連休だし、彼氏も「読みたい本を実家に取りに行って来る。」なんて変なホームシックにかかっちゃったから、暇を持て余して居た所なのよね。


すぐに返信して暇な女と思われるのも癪だから、返事は会社の駐車場から送るわ。


あたしはパンプスに足をねじ込み、アパートの階段を駆け降りる。

階段の踊り場からキーをかざし、ボタンを軽くクリックすると、あたしのムーブがハザードランプの返事をくれる。


夜露に濡れたドアノブを気にしながら、あたしは運転席へ滑り込む。


サンバイザーのミラーをチラリ。

オッケー、今日もメイクばっちりだもんね。


前に運転中に化粧していて、前走っていた車にオカマ掘ったことがあるの。

なのでそれ以来、どんなに夜更かししても、朝起きてからきちんと部屋で化粧する事に決めたんだ。

まぁ夜更かしした時は大概そのまま会社サボっちゃうんだけどね。


今日はノリのいい曲でテンションを上げて行きたい気分!

あたしはグローブボックスから彼氏から借りっ放しのU2のCDを取り出し、プレイヤーに放り込む。


キタキタ!このイントロ。も~大好き!


会社への憂鬱な道程も、好きな音楽をガンガンにかけてれば、それほど苦に感じないのよねっ。

ちょっと道の流れが悪くても、まあいっか、U2が聞けるんだしねって思うの。


ノリノリのままに会社の駐車場へとたどり着く。

あ~あ、今日もまた8時間、またつまんない仕事をしなくちゃなんないのよね。


重い腰を上げて事務所へと向かう。

あ、そうだ。伊勢の返事しなきゃ。

あたしは手短に、「いいよ。じゃあ予定空けておくね。」と彼女にメールを打つ。別に予定なんて無かったくせにさ。


お昼休みに、あたしは彼女と落ち合って、週末のプランについて話し合った。


彼女は結構受け身のタイプ。どっちでもいいよ、が口癖なんじゃないかな。

なので殆どあたしの趣味で週末のプランは組み上がって行く。


そんな受け身の彼女でも、変にこだわりを突き通す所があるのよね。

今回も、絶対に二見の夫婦岩が見たい!なんて言い出すのよ。

ちょっと、それ伊勢じゃないじゃん。


よーし、こうなったら伊勢志摩周遊旅行に計画変更!久々にちょっと贅沢しちゃおうよ。あ、あたし伊勢エビ食べたい。


「じゃあさ、前に行ったあのお店でお昼食べようよ。」

彼女も珍しくプランの提案をしてくる。も~、昼休み一時間じゃ足りないってば!


その晩あたしはガイドブックとにらめっこ。完璧な旅行プランを組み立てて手帳にばっちりとしたためる。ふふふ、週末が今から待ち遠しいわ!


・・・あちゃあ、もうこんな時間。明日、会社サボっちゃおうかなぁ。


そして迎えた週末の朝。

朝が苦手のあたしにとっては、早起きは拷問に近いんだけど、それもこれも今日の楽しい旅行の為よね。


春とは言え、まだまだ寒い日が続く。

あたしはもそもそといもむしの様に布団から這い出して、エアコンのスイッチを入れて部屋を温める。


ヤカンを火にかけている間、あたしは顔を洗おうと、洗面台の前に立つ。


あれー?何か顔むくんでるかなぁ?昨日の晩はお酒飲まなかったのにさぁ。嫌になっちゃう。


洗顔フォームを泡立てて、顔に塗り付けた瞬間、部屋のピンポンが鳴る。

え?!何々?誰?こんな時間に?!


泡をソッコーで洗い流し、タオルで顔を拭いながらドアの覗き窓を見てみると、まだかなぁ~という柔らかな表情をした彼女が立っていた。


「おはよぉ~。ゴメンね、ちょっと早く着いちゃった。」


ちょっとどころか、一時間も早いじゃない。あたしなんかさっき起きたところだっつーの!


彼女はヘアバンドして少し泡の残ったあたしの洗いざらしの顔を見て、「相変わらず肌きれいだよね~。うらやましい。」とニコニコしながら部屋に上がり込んで来た。


いつもそうなのよ。彼女は朝が得意で、どこか遊びに行く時は必ず一時間位前から待ってるのよね。

あたしゃこれから朝ご飯食べて化粧して服選んでってしなきゃいけないのに。こういうところ疲れるのよね。


「コンビニでね、サンドイッチ買って来たの。朝ご飯まだかなぁ~と思って。ヤカン、沸いてるよ。」


彼女の言葉で、あたしはダッシュで火を止める。


彼女はあたしを急かしたりしないし、普段からこうして差し入れ持って来てくれたり、何かと気を使ってくれるところがあるから憎めない感じなんだろうなと思う。


彼女はサンドイッチを頬張りながら、このお天気キャスターの子、ホントかわいいよね~と微笑む。

あたしはその隣で鏡を睨みつけてぐりぐりとアイラインを引く。


お天気キャスターの子にしても、彼女にしても、ホントに目がぱっちりしててうらやましい。

彼女なんて、そんなにしっかりメイクじゃなくてもすごく化粧映えして綺麗なんだもん。

だからかしらね?朝の支度が早いのは。


あたしなんかこの奥二重をいかにぱっちり見せるかで毎朝必死なんだから。


まぁあたしの彼氏は、そんなお前の涼しげな目が好きだ、なんて言ってくれるんだけど・・・。

今何やってんのかな、あいつ。


ううん。今日のあたしは彼女の為に居るの。

彼女が伊勢に行きたいって言い出す時、実は傷心の時が多いのよね。


前に、長野に彼氏が出来たなんて言ってたけど、きっと何かあったんだよね。

メールでも「話したい事がある」なんて誘ってくる位だもん。


隣の県だって言っても、おいそれと行ける距離でもないし。彼女、前に仕事で事故して車を廃車にしちゃってるから、車でふらっと会いに行く事もできないしね。

いいわ、今晩じっくりと話聞かせてもらおうじゃないの!


ピンクのリップを薄く引いて、よし完璧!お待たせ!さ、行こうか!


「あ、そのリップかわいい~!でも今日のメイクだったら、もっと濃い色の方がいいかもね。」


・・・一言多いのよ!


悪びれずニコニコとそう言う彼女にほんのちょっとイラっとしながら、あたしはいつもの様に階段の踊り場からムーブにキーをかざす。

するといつもの様にムーブがハザードランプの返事をくれる。

さぁ、伊勢志摩傷心(?)旅行に出発!


東の空はちょっと曇っているけれど、伊勢の方面は抜ける様な青空が広がっている。

普段の行いは決して良くはないけれど、こんな時は神様に感謝よね。明日ご挨拶に伺いますわ、天照大神様!


あたしがノリノリでU2のCDをかけようとしたところ、彼女が突然「これ聞いていい?」とCDをデッキに突っ込む。


なにこれ・・・スピッツ?!

いや、悪くないけど、もうちょっとこう盛り上がる感じのさぁ。


って彼女はもう正宗さんのスイートボイスにウキウキ。

まぁいいわ。今日はあんたに全部合わせるわ。そのかわり、きっちり傷心癒さないと、怒るからねっ!


春の朝日とスピッツのしらべに乗って、あたしのムーブはすいすいと走る。


まだ朝も早い時間だから、高速道路の車の数もまばら。彼女には男らしいと言われるあたしの車線変更も、今日は息をひそめている。


いつもなら、ちょっとオジサン!軽自動車だからって馬鹿にしないでよっ!とアクセルを踏み付けるんだけど、今日はスピッツと彼女の緩いテンションに自然と力が抜ける感じよね。


長島の大きなジェットコースターを横目に、更に高速を突き進み、いざ伊勢道へ。

今までは何千円も取られた高速料金も、今じゃ土日は千円なんだから、ETCさまさま。その分お昼の伊勢エビは大きいやつ行っちゃうんだから。


助手席の彼女とは、普段通りの何気ない会話ばかり。特に元気ない様子も無いし、いつもと変わらない雰囲気。あたしを見る笑顔に何となく寂しさを感じる様な気がするのは、気のせいかな。


高速を降りてからは、まずは腹ごしらえ。

お待ちかねの伊勢エビのお造りに、もう興奮発狂寸前のあたし達二人。


白く透き通ったその身を口に運ぶと、柔らかな甘い香がいっぱいに広がるの。


伊勢エビって、なんて優しい食材なのかしら、と思っていたら、テーブルには七輪が運ばれて来る。

網の上では真っ二つに割られてしまった伊勢エビが、ちりちりとその身と味噌を焦がしている。


「いや~ん、残酷!」

彼女はそう言うと、赤く綺麗に焼き染まった芳しい半身を皿に取る。

あたしも負けじと手を伸ばす。エビの身に箸を入れると、香だかい湯気がふわりとあがる。その味と来たら、伊勢エビって、なんて力強い食材なのかしらと思うのよね。


閉めのお味噌汁にまた心癒され、あたし達の贅沢な昼食も終わりを告げる。


あぁ、名残惜しい。あたしは味噌汁に浸る甲羅にちゅうちゅうと吸い付き、伊勢エビを記憶に留めようと努力する。

そんなあたしを、彼女はふわりとした笑顔で見つめてくる。


女のあたしでさえ胸がきゅっとなる彼女のその表情。やっぱり、何か心の奥に潜ませているみたいね。

何だか、聞きたい様な聞きたくない様な・・・。


伊勢エビに後ろ髪を引かれながら、あたし達は二見に向かう。

しめ繩の架けられた、夫婦岩と呼ばれる大きな岩が、波に打たれてあたし達を出迎える。


夫婦寄り添って世間の荒波に立ち向かうって感じかしら。

あたしと彼氏も、いつかはそんな二人になれたらいいなぁ。ふとそんな事を考えながら夫婦岩を眺めていると、隣で彼女はニヤニヤとあたしの事を眺めていた。


「な、何よ。」

「今彼氏の事考えてたでしょ?」


こういう時の彼女は異常に鋭い!

あたしは顔を真っ赤にして、「べ、別にいいじゃない!」と言い放つ。

思わず「あんたはどーなのよっ!」と言いそうになるのをぐっと飲み込んで。


そんなあたしを尻目に、彼女はまた夫婦岩に優しい視線を向ける。

何だか、あたしの方が傷心してるみたいじゃない?変なの。


あたしが夫婦岩に飽きてからも、彼女はもう少し見て居たいと言う。

そしてじぃっと彼女は岩を見つめる。


その表情を見て、あたしは彼女の心に秘めた思いを聞き出そうと、声をかけようとした。


あのさ、と言おうとした瞬間、彼女がくるりと振り返り、「お待たせ!」と笑顔を振り撒く。

・・・あたしの行動を見透かしているのかしらね?


思いのほか夫婦岩で時間を使ってしまったので、あたし達は早目に宿に向かう事にした。

宿は鳥羽の温泉街で、部屋からは海を眺める事が出来る。


仲居さんにお部屋に案内されていろいろ説明を聞くも、あたし達は上の空。だって早く温泉に入りたいんだもん!


大浴場は本館の2階にあって、その露天風呂からの眺めは絶景なんだってさ。そんなの既にリサーチ済みよっ!あたしを誰だと思ってるの?


仲居さんが部屋から出ていくや、すぐさまあたし達はタオルと浴衣を抱えて部屋を飛び出した。

目指すは本館2階大浴場!


お風呂からの眺めは本当に綺麗。

西に傾き始めた太陽が、伊勢湾の水面を優しく照らし、遥か眩しい向こうには水平線が見える。


一緒にその絶景を眺める彼女の眺めも、ホントいいのよね。

可愛くってスタイルも良くってさ!天は彼女に二物も三物も与えすぎじゃない?


気を取り直して、あたしはお風呂に浸かる。

お風呂って、心も体もリフレッシュ出来るからあたしは大好き。

こういう景色の素晴らしい露天風呂だと言うこと無しだよね。


あたしは海を眺めながら、綺麗だよね~と彼女に語りかける。

すると彼女は、ホント、最高だね、と言葉少なに答え、景色を見つめる。


長い沈黙が、あたし達二人を取り巻く。

彼女は元々自分から積極的に話すタイプではないから、普段一緒にいる時も沈黙に包まれることもあるけれども、今日はこういう場面が多すぎる。


痺れを切らしたあたしは、彼女に「あのさ・・・!」と声をかけようとする。

すると彼女はやはりまたあたしの考えを見透かしたかの如く、「あがろっか。」と言ってきた。


またあたし、肩透かし喰らった気分。

・・・まぁいいわ、夕飯を食べながら話を聞きましょ!


部屋へ戻ると、もう布団が敷いてあった。

旅館のフワフワの布団と糊でバリバリのシーツの感じ、あたし好きなのよね~。


あたし達が借りたお部屋は贅沢にも寝室が別で、お部屋で食事をいただく事が出来る。

その方が、ゆっくりといろんな話が出来ていいもの。


仲居さんが部屋にお膳を運び込み、鍋の七輪に火を点けてくれる。

昼は伊勢エビだったけど夜は牛なのよ。ふっふっふっ。


あたし達はお互いグラスにビールを注ぎあう。おじさんみたいだよね。


軽くグラスをぶつけて乾杯。何に乾杯って?う~ん、今日って言う楽しい日に、かな?


あたしはよく冷えた泡の薄いビールをきゅっと喉の奥に流し込む。

炭酸の刺激とホップの香りに今日一日の疲れも癒される。この一杯の為に生きてるわぁ。

やっぱり、おじさんみたいだよね?


あたしがビールで一息つくと、「今日は一日、ありがとね。」と彼女の方から口を開いてきた。


「あたしが何を考えてたのか、ずーっと聞きたくて仕方なかったんでしょ?」


・・・な、何よっ!じゃあ上手いタイミングではぐらかされてたのは狙い通りだったって訳?!


「だってさぁ、わっかりやすいんだもん。だから、ちょっと勿体振ってみたの!」


彼女、意外とこういう所あるのよねぇ。

長野に彼氏が出来たって言われたときも、何かこんな感じだった気がする。

またあたしはうまく引っ掛けられたって事?


あたしはふて腐れて、すき焼きをつついてグラスを開ける。

彼女はふわりと微笑んで、あたしにビールを注いでくれる。


で、何なのよ!話したい事って。どーせまたフラれ話なんでしょっ。


「その逆。あたしね・・・実は結婚しようと思うの。」


それはあたしにとって、すっごく意外な答えだった。

だって結婚っておめでたい事じゃない?それなのに昼はあんな寂しそうな顔したりして。

あれもあたしを引っ掛け様とした迫真の演技だったわけ?


「違う違う!ホントに寂しくなっちゃうから、思わず顔に出ちゃったのよ。」


聞けば彼は大手企業の営業マンで、今度北海道の支社へ転勤になってしまうらしい。

今より離れ離れになってしまうのが辛いから、ついて来てほしいと彼からプロポーズされたんだってさ。むむ、うらやましい。


「慣れ親しんだ土地を離れる不安と、親友のあなたと遠くなっちゃうのが辛くって。」


うれしい事言ってくれるじゃない。あたしも、あんたと離れ離れになっちゃうのは寂しい。


でも、もう会えなくなっちゃう訳じゃないじゃん!

一生懸命仕事してさ、お金貯めて、また伊勢旅行しようよ。

旦那さんには、あたしから言っておくからさ。


彼女はうっすらと涙を浮かべて、ありがとうと微笑んだ。

やめてよ、何か湿っぽいじゃん。さ!飲も飲も!


翌朝、あたしは軽い頭痛と共に目を醒ました。ちょっと昨日は飲み過ぎちゃったかな。

朝が得意の彼女も、まだ布団で丸まっている。


あたしはタオルを片手に大浴場へと向かう。


露天風呂からの空は、今日も快晴。朝日を浴び、あたしは少し熱めのお湯に浸かる。


眠気と二日酔いがすぅっとお湯に溶けて行く感じ。そして、ふと彼氏の事を思い出す。


彼も営業マンだし、いつ何処に転勤だなんて言い出さないとも限らない。

その時、あたしはどうするだろう。

彼は、あたしに何て言ってくれるんだろう?


そんな事を考えていたら、勝手に涙がこぼれて来てしまった。

あたしは誰もいないお風呂に潜り、その涙をごまかした。


部屋に戻ると、もう布団は片付けられ、朝食が準備されていた。結構長くお風呂に入ってたみたいね。

彼女が自分だけ朝風呂使ってずるい!とぼやく。


朝食をいただき身支度を済ませ、あたし達はお宿をあとにする。


キーのボタンをクリックすると、いつもの様にムーブはハザードランプであたし達を迎え入れてくれる。


荷物をトランクに投げ込んで、いざ伊勢神宮へ!


助手席の彼女がおもむろにCDを取り出す。

ムーブのスピーカーからは、あたしの大好きなU2が流れ出す。

あ~、このイントロ超好き!


鳥羽から伊勢なんてあっという間なんだけど、U2を聞きながらだと更に時間が経つのが早く感じる。

あたし達は神宮の外宮を参り、次に内宮を参る。神宮の凛とした雰囲気と、春のまだ涼しい空気に背筋が伸びる感じ。


神殿の前に立ち、拍手を打つ。彼女はずいぶんじっくりと神様へのお願いをしてるみたい。


あたしは単純。

何って?彼氏と一緒になれます様に、よ。野暮なこと聞かないで。


その後お札とお守りを買って、あたし達はおかげ横丁へと向かう。


観光客で賑わう横丁で、干物を食べたりソフトクリームを食べたり。

何かあたし達食べてばっかりよね?


あたしは彼氏に組み紐の携帯ストラップをお土産に買う。彼女も同じのを、彼氏に買う。

お互いの彼氏が同じ組み紐のストラップを携帯につけるのかしら?

何かおかしい。


おかげ横丁からの帰り際、彼女がお手洗いへ行っている時、ふと寂しくなって、あたしは実家に帰省している彼氏にメールした。


寂しいよなんて言わない。ただ一言、「お土産は何?」だけ。


すると直ぐに返事が返ってくる。


「お前が好きな地酒と、お前が好きな俺。」


ばーか。


今日の夜、帰ってくるってさ。しょうがないな。駅まで迎えに行ってやるか。

あんたが好きな、あたしが。


メールを打ち終わった頃、彼女がニヤニヤとしながらお手洗いから戻って来る。


「戻って来るの、ちょっと早かった?」

また、あたしの行動は見透かされてるって訳ね。


「空気読んでよねぇ。」

笑いながらあたしは答える。


また一緒に、伊勢旅行したいよね。今度は、お互い夫婦でさ?

そんなあたしの言葉に、彼女はふわりとした笑顔を浮かべる。


あたしはバッグから鍵を取り出し、ボタンをクリックする。

駐車場のムーブは、いつもと変わらずあたしにハザードランプの返事くれた。


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― 新着の感想 ―
[一言] お久しぶりのYAS先生の作品。 いいですねえ。 女二人の旅行なのに、なぜ先生が女の子が話しそうな雰囲気が分かるのか驚きながら読みました。 はい、本当にこんな感じです。 夫婦になっても仲良く…
2010/04/08 17:00 退会済み
管理
[一言] まるで親友と本当に旅行してるみたいでした。 知ってる景色が満載で、とても親近感が沸いて、ここ一年程遠出ができない私にとっては夢心地な気分でしたよ~♪ 長島のあの白い木製のジェットコース…
感想一覧
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