【第89話】冒険者、魔王に成る。
「ということで、魔王に成ることにしたよ」
「……」
「……」
「いいねー、似合ってると思うよ」
「そうね、前から魔王っぽいなとは思ってたわ」
「何だよ魔王っぽいって」
現在、もはやお馴染みの太珪の宿屋、その一室にいた。
レンとフェイ、そしてマルタとミラに例の件を告げると、全員から予想通りの反応が返ってきた。
「ま、魔王ですか? 魔王って、あの魔王ですよね?」
「そうだよ、レン。あの魔王だ。シリウスさんみたいな、魔族魔物の王様」
「……ふう」
レンは一呼吸置く。
「えぇっ!?」
「……なんで時間差?」
「最初に反応するタイミングを逃してしまったので……」
律儀だなあ。
「ついに私の友達が魔王になっちゃいました……出会った時は同じB級冒険者だったのに!」
と、フェイ。
「まあでも、やることはこれからも変わらないからね。冒険者は続けるよ」
「それを聞いて安心しました! もし世界征服でも始めようなんて言われたら、どこまで手を貸そうか考えることになってましたよ!」
「それはぜひ止めてくれ」
「それで、明揺での会談はもう終わったの?」
「大方ね。後の処理は天黎さんがやるみたい」
あの後、ディオーソさんが来て、これからの魏刹についての話し合いになった。
字面だけ見ればかなりシリアスな雰囲気なのだが、中身は各地の復旧や天下武神典礼について、少し話し合った程度。
ちなみに、ディオーソさんは僕が魔王に成ることについて、とても愉しそうにしていた。
「へえ、国主ってのはやっぱり大変なのね」
「結局延期になった典礼も、もうすぐやるみたいだし──天黎さんなら何があっても大丈夫でしょ。あの人が執務に追われてるとことか、想像出来ないね」
「言えてる」
ふふっ、と軽く笑うミラ。
「だーりんはどーするの?」
「どうするって……どういうこと? 魔王会談ってのが来るまで、前みたいにファレリアで依頼とか任務でも受けようかなって思ってるけど」
「マルタも付いて行っていい?」
「そりゃもちろん。まだ、果たせてない約束もあるしね」
「ん、ありがとー」
そう言うと、マルタはベッドの上でごろんと横になる。
まるで自分の部屋みたいに寛いでるな……別にいいけど。
「あ、わたしも付いて行きます」
「……え?」
さらっとそんなことを言うレン。
「大丈夫ですよ、もう両親には伝えてあるので」
準備が良すぎるだろ!
「ふ、二人共、すごく羨ましいです……! 今からでも退学すれば──」
「待て、早計すぎる。別に遠くに行くわけじゃないんだし、すぐ会えるって」
流石にそれはダメだろ、人として。親が泣くぞ。
「天下武神典礼、折角だから見に行きたいんだけど──これ、まだ治ってないしな……」
僕は目元に手を当てる。
少しずつ治ってる気はするんだけど、完治は当分先になりそう。
「会場でわたしが実況しましょうか?」
「うわー、面白いだろうね。それ」
絵面が。
(さっさと魔王に成ってしまえば良いではないか)
え、魔王に進化したら治るとかあるの?
(今よりは回復速度が上がるかもしれぬ、という話じゃ)
ああ、なるほど。
それじゃ、成りますか──魔王。
● ◇ ■
そんな訳で、僕は神洛山の麓に広がっている森林に訪れていた。
森林といってもそこまで広くはなく、初見でも遭難のおそれはまずないだろうという程度──壊滅的に方向音痴でなければ。
「人目、無いよね?」
「別に見られても問題はないじゃろ。寧ろ、大々的に公表するべきではないのか?」
「何でだよ、魔王誕生の瞬間とか誰も興味……いやまあ、興味は湧くけど」
いずれにせよ、時が来れば僕の存在は世界に知れ渡るだろうけど、だからといって見せびらかす程のものでもないはずだ。相場とか知らないけど。
「……」
「……? 何をしとる、はよせんか」
「え、どうやるの?」
「……」
【──“魔王”へ進化する為の条件は全て達成されています。魔王へ進化しますか? →Y/N】
あ、それっぽいやつ来た──じゃあ、YESで。
【──“魔王”への進化に伴い、ステータスの超大幅上昇、そして特殊パッシブスキル『魔王結界』、『影の魔王』を習得しました】
【──種族『亜人族』から『半魔神』へ進化しました】
僕の身体が光ると同時に、そんな声が聞こえてくる。魔王結界……影の魔王? なんか、安直な名前のスキルだな。
それから十秒ほど待ったが、特に何も起こらない。
「……え、終わり?」
「お主は何を期待しとったんじゃ?」
「いや、なんかもうちょっとあるのかなって……あまりにもあっさりし過ぎじゃない?」
なんというか、拍子抜けだ。
「大体そんなもんじゃぞ。純系魔王への進化であれば、もう少し面白いものが見れたやもしれぬがな」
そうなのか……まあでも、力が溢れてくるのは分かる。ステータスも数倍跳ね上がってるし、謎の万能感がある。
「あれ、それに僕──種族が“半”魔神ってなってるけど……なんで中途半端?」
「……ふむ、単純に魔神化を未だに使い熟せていないからではないか?」
「そんなことあるの?」
自己紹介の時に“半”って付けるの嫌だなあ。
「ちなみに、『魔王結界』とは“一定の威力を下回る攻撃を完全に無効化”するスキルじゃな。魔王によってはその結界を改良して、独自のものにしとる奴もおるぞ」
「へえ、そんなことが……」
「『影の魔王』は、『影術』やそれ関連のスキルの練度が上がるといったところか。魔王へ進化すると、一番馴染みのあるスキルが大幅に強化されるからな」
「詳しいね。流石、長生きしてるだけはある」
「まあな」
「流石、長生きしてるだけのラティ」
「称賛から誹謗へと早変わりするとはっ!!」
それからしばらく、慣らし程度に身体を動かしたり、先日の一件で大量に習得したスキルを試して遊ぶことにした。
そして気付けば一時間近く経過し、日が沈みかけ、いわば夕暮れという時間になっていた。
「することもないし、そろそろ帰ろうか」
「いや待て──帰る前に、その阿呆みたいに漏れ出ている覇気をコントロール出来るようにした方が良い。街を混乱に陥れたくなければな」
「それ先に言ってよ。絶対さっきの時間をそれに割いた方が良かったじゃん」
「妾からすれば大した覇気でもないのでな、完全に意識から外れとったんじゃ」
悪気はないんだろうけど、ちょっと刺さるなそれ。
斯くして、覇気のコントロールを一時間弱で出来るようにした僕は、太珪に帰ることにした。




