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影の冒険者、最強を目指す。 〜影の魔人と契約した僕は、最速で世界を駆け上がる〜  作者: ねひつじ
四章 魏刹編・後

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【第86話】進化し続ける者たち。


 「おれにとっちゃァ嬉しい誤算だった──オマエ達みてェな強いヤツがいるのはな。目的の達成の邪魔になるからって、ゼノがS級冒険者を全員飛ばしやがったんだ。ひでェ話だろ?」


 と、その男、エイヴンは言う。


「飛ばす……っていうのは、具体的にどうやったんだ?」


 まあ答えるはずもないだろうけど、一応訊いてみる。


「『天空神(ウラノス)』、それがアイツの能力だ」


 え、言うの?


「詳しくは言えねェが、とにかく全部アイツがやったんだよ。まあ、あの機巧戦士と兄妹だけは、別の方法で無理矢理引き剥がしたみたいだがな──ゼノの天空神とは相性がすこぶる悪ィんだとよ」


 機巧戦士はギルのことだよな……もう一人は、ラスタリフさんか?


「……えっと、それじゃあ一応、全員無事ってことでいいのか?」

「当たりめェだろ? S級冒険者の連中っていうのは、殺そうと思っても殺せない、そんな奴等なんだよ。ゼノが帰って来た時なんて、全身ボロボロだったんだぜ? ウケるよな」


「……いや、別に」


 と、こんな風に会話をしているが、絶賛殺し合い中である。


 お互い、一つ選択肢を間違えれば即死、そんなやり取り、応酬が繰り広げられていた──おっと危ない。


「というか、君が僕を殺したら、能力の条件は満たせないんじゃない?」 

「心配すんな、瀕死にしてから仲間に殺してもらうさ」

「そりゃいいね。逃げる時間が出来そうだ」


強奪吸収(フラソーバー)

「……」


 先程からエイヴンは、ほんの少しの隙が生まれる度に吸収を発動している。


 ──正直、そろそろキツくなってきた。


 このままじゃいずれ負ける。月詠を使うのも一つの手だが、もし決め切れなかった時、それは完全に僕の負けを意味する。


 エイヴンを仕留められるだけの力を使った代償を払った後に、まともな戦闘が出来るとは思えない。


 残り二つの戦場でも、次々に魔物が倒されていくだろう。更に言えば、強奪吸収の範囲内では今も、人が、魔物が、誰かが、何かが死んでいる。つまり、エイヴンの吸収に終わりは来ない。


 いやまあ、この世界から誰もいなくなれば、流石に終わりは来るだろうけど。


 ただ、ラティにあんなことを言われ、「もちろん」と返してしまった手前、死ぬ訳にもいかない。元よりそんなつもりはないが。


「さて、どうしたものかな」

「おいおい、もしかして万策尽きたのかァ? おれァまだまだやれるぜ?」

「ちょっと静かにしてて、今考えるから」


 ここまで待ったアリの殺し合いなんてのもなかなかお目に掛かれるものではないだろう。


 まあ別に待ってくれてはいないんだけど、相手も下手に押しの一手は打てないし、突破口はジリ貧しかないから、勝手に膠着気味になっているという感じ。


『強奪吸収』

「……」


 エイヴンが繰り出す魔法の威力、そしてエイヴン自身の速度や攻撃の重さも上昇し続けている。


 何より平原では影が少な過ぎて、影術を活かしきれない。天蓋で無理矢理影を作っても、この弾幕ではすぐに壊されてしまうだろう。



 いい加減、覚悟を決めるか。



 どうせ、最初からこれしか勝算はなかったんだ。開幕ぶっ放すか、最後にぶっ放すか、それだけの違いだった。


 ただ、()()は、本当に最終手段だったんだ。


 だけどやっぱり、エイヴンを確実に仕留める方法は、これしかない。



「……エイヴン。君はこれから、人生最高の戦いをすることになると思うよ」

「そりゃ楽しみだな、ガッカリさせんなよ?」


 エイヴンの動きはキレを増し、先程よりも更に加速する。


 あれでまだ本気じゃなかったのか?


「ギアを上げてくぜェッ! 『強奪吸収(フラソーバー)!!』」


 一度攻撃の手を緩めたエイヴンは、地面を強く踏み込み、こちらに突撃してくる。


 その背後には直前に放っていた魔法やスキルが散乱しており、つまりはそれらの攻撃を置き去りにするほどの、圧倒的加速。



「──そして、君にとって人生最後の戦いにもなる」


 あるいは、僕にとっての。



月詠(ツクヨミ)


──そして、暗転。


 空には、一つの月が昇る──。



「オマエはおれが喰ってやるッ!」

「喰うのは、僕だ」


 僕はありったけの強化(バフ)を自身に掛ける。


『無限再生』『物理・魔法攻撃耐性・大』『全ステータス上昇・大×5』、etc(エトセトラ)……。


 まだ足りない。


『全ステータス上昇・超大×10』『超重撃』『超頑丈』、etcetc……!


 ──まだだ。


 『全ステータス上昇・極大×15』『超加速(アクセル)』『増減加速(アトラネーター)』、etcetcetc……!!


 ────もっと、僕に力を。



 進化しろ、適応しろ、目の前のコイツを超えられるくらいの──いや、そんな生易しいレベルじゃない、圧倒的で、絶対的な力を────!!



【──強力な“願い”を検知。この瞬間のみ、『影の魔神化』の最大出力を“100%”まで引き上げます】



 ああ、それだ──それを待っていたんだ。



 完全に視界は暗転し、僕の世界には月が一つのみとなる。直感する、これが限界なのだと。これ以上の強化は、月詠の強制解除に繋がってしまう。


 次の瞬間、時間にして三秒──数百、数千にも及ぶ攻防が繰り広げられる。

 周囲に積もった灰はあっという間に四散し、本来あったはずの地面が露出する。


 ヤバいな、これは──この代償は、高く付く。もう既に視界が赤く染まって、昇った月すら紅く見えてきた。


 僕の()()は今、どうなってる?


 時間にして一秒──数千、いや数万にも及ぶ熾烈を極める攻防。


「マジかよッ! これに着いてこれんのかよオマエ!!」

「……」


 時間にしてわずか0.1秒──たった一回の攻防。


 しかしそれは、間違いなく、期せずしてこの戦いの命運を分ける最後の一手への布石となる────。



無月(むげつ)

深淵の星々(シデラビス)!』



 二人の距離、わずか1m──その距離から繰り出される、お互い全力、そして最高最大火力の一撃は、当然ぶつかり合い、両者を殺し合う。



「オマエはおれの、最高の好敵手(ライバル)だァッ! 史上最高に全力全開(フルスロットル)だぜェッ!!」

「ここまでやったのは、僕も君が初めてだよ──エイヴン」


 もう、何も見えない。視界は全て、真っ赤に染まり切っていた。


 それが、この目の前で起きている史上最高の、()()()()に匹敵し()る技のぶつかり合いによるものなのか、はたまた僕の眼の限界が近いのか、僕には分からない。


 でも多分、その両方なのだろうと、僕は思う。


 エイヴンが現在進行形で『強奪吸収』で進化し続けているように、僕も『成長者』で進化し続けている──それはもう、かつてないほどに。



「はあああああァァッッ!!!」

「っ──!!」



 ありがとう。人生最高の戦いになったよ、エイヴン。殺し合いを心から楽しいと思えたのは、これが初めてだ。


 今の僕なら、神にすら手が届くと、本気でそう思える。



 ────そして、決着は突如として訪れた。



【──レア相伝スキル『影術:月詠』は消失しました】


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