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影の冒険者、最強を目指す。 〜影の魔人と契約した僕は、最速で世界を駆け上がる〜  作者: ねひつじ
四章 魏刹編・後

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【第85.5話】その男、人類最強につき。


 五年前のある日──天黎という男は、突然現れた。一言でアイツを表すのなら、正に“嵐”だ。

 嵐という言葉が、アイツを表す為に後から(つく)られたものだと言われても、私は信じていたかもしれない。


 それほどまでに、天黎の出現は衝撃的で、刺激的だった。当時の国民は天黎という男を持て囃していたし、私も彼に一目置いていた。


 この魏刹という国において、国主になる為に必要なものはたった一つ。


 それは、“強さ”。


 手段は問わず、その国で最も力を持っていることを証明出来れば、晴れて国主となることが出来るのだ。

 過去には卓越した商いの力を持つ国主もいたらしく、今の魏刹が商売の国としても名高いのはその名残によるもの。


 アイツは野心家だ、いずれこの時が来ることは私にも分かっていた。ただ、アイツの実力を目の前にした時、私は絶望したよ。


 ────こうも差があるのか、とね。



覇道(はどう)



 結局、私はアイツに傷一つ付けることは出来なかった。私だって仮にも国主、この国では一番強い自信があったんだけどね。

 あれは、人間という種族を逸脱していると言わざるを得ない。とはいえ、魔族だと言われても疑うくらいさ──立派な怪物だよ、アイツは。


 もし、アイツと張り合える“人間”がいるとすれば、それは現テオルス国主であり、()S()()()()()の“剣聖”、或いは現S級冒険者の連中くらいだろうね。


 「李杏(リーシン)さん、俺は貴方より強くなる」


 五年前──そんなことを言ったお前は、既に私より強かったはずだ。


「李杏さん、俺はこの天下武神典礼を制覇し、貴方と戦う権利を手に入れてみせよう」


 その時にはもう、勝利を確信していたのだろう?


 典礼も、私との戦いでさえも、お前にとっては茶番だったんだろう?


 ──その目を、その眼をやめてくれ。


 今でも、夢に出る。目を瞑っただけでも、お前のあの眼が脳裏を(よぎ)るんだ。



 あの戦いから程なくして、アイツは国主となり、“歴代最強”と謳われるような存在になった。

 誰もそうなることを疑わなかったし、誰もがそれを心から喜んだだろうさ。

 

 私はずっと考えていた。どうすれば、この悪夢から解放されるのかを。まあ、その答えは至極簡単なものだった──だって、元凶であるアイツを殺せばいいだけの話だったんだからね。


 「李杏、我々と組まないか?」


 その物騒な考えを行動に移すことを決めた最も大きなきっかけは、ある男からのそんな提案だった。その男は自分の正体を一切語らなかったし、私も別に興味はなかった。


 その男の目的は、“未来演算(ラプラス)”の回収。その能力は現在、一人の……いや、一体の機巧少女が保有している。

 冒険者ギルドという、ごく一部の者しか知らない、S級冒険者や極めて優秀なA級冒険者を抱えたギルドの、その創設者。


 回収といっても、その機巧少女を攫うのではなく、目的はあくまでもその能力。何やら、その男の仲間の能力で“強奪”することが出来るらしい。


 正直、そんな計画は心底どうでもよかったが、その男に協力するだけで私の計画に手を貸してくれるというのだから、断る理由もなかった。


 まず私は、国主時代に得た繋がりを全て駆使し、緻密な計画を企てた。

 四凶という()うの昔に失われた伝承を、偽りの情報と共にばら撒くことにした。これが大体半年前の話。


 天黎という男は、完璧主義のきらいがある。国内で怪しい動きがあれば、それを見逃さないし、すぐにでも問題を解決してしまうだろう。


 だから私は、それを逆手に取って、天黎が「李杏が黒幕である」という情報を掴めるようにした。


 天黎は、必ず私を追う。そして、あの男の計画実行当日、私が明揺で反乱を起こすという情報を流せば、その真偽がどうであれ、天黎はあの場所から動けなくなるだろう。


 S級冒険者のいない今、魏刹で私を倒せるのは、天黎くらいなのだから────。



■ ■ ■


「大間違いだな、何もかも」

「……」


「大前提として、俺は貴方のことを見下したことなど、ただの一度もない。貴方のことは敬っていたし、これからもそのはずだった──今日、この日が訪れるまでは」

「……」


「見下げ果てた。こんなくだらない理由で、かつて自身が愛し、治めていた国を混乱に陥れるとはな」

「……」


「言っておくが、各地で行われている反乱は既に鎮圧済みだ。俺の直属の部下と、信用出来る知人が出向いているからな」

「……まさか、あの天黎が人を頼るとはね。知ってるよ、クロノフェリアの国主、それに冥炎の王だろう?」


 流石にダンテが動いているとは思わなかった。あの男は、人助けをするような人間ではなかったと記憶している。

 恐らく、あの智慧の主が一枚噛んでいるのだろうね。まったく、どこまでも厄介なハイエルフだ。


「まあ、優秀な魔法使いと、変わった魔法使いも付いているが……後は、()()の相手をするだけだ」


 そう言って、天黎は貫くような鋭い視線を向けてくる。


「さあ、リベンジマッチだよ。典礼は明日だけど、構わないかい?」


 あの時とは、立場が真逆の二人。今度は、こちらが“挑戦者(チャレンジャー)”で、あちらが“王者(チャンピオン)”。



 ────この人類最強を、超える。



『覇道』



 天黎の瞳に、菱形の模様が浮かぶ。


「加減は不要だな」

「もちろん」


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