【第83話】いざ、開戦。(1)
「やばい、今になってすごい緊張してきた……」
「それは大変だ、未来でも視て落ち着いて」
「やったー、これで結末が分かって一安心……とはならないから。それに、僕は未来視なんて優れた技術は持ち合わせてないよ」
「絶好調だね」
「まあね」
あれから数日後の夕方。現在、僕たちは魔物群大行進の発生地の一つである〈南耀平原〉訪れていた。
位置的には、魏刹がテオルスの下にあるという見方をした時に、魏刹の左下付近。
そこそこ海が近く、かなり遠くの方には大陸最大の活火山〈イグニア・マウンテン〉が見える。
純系魔王イオ・サンライトの活動領域なのだが、あんな辺鄙な場所で生活をしていて不便しないのかと心配になる。
「イオ・サンライトとは、これまた懐かしい名じゃな」
「やっぱり知り合いなんだ」
「純系魔王の連中とは色々あったからな」
知り合いなのはいいんだけど、変な因縁があるとかやめてくれよ。
「にしても壮観だな……魔物の群れっていうのは、斯くも綺麗に見えうるものなのか」
僕は上空から見下ろすように地上を眺める。
そこには、まさしくパレードの名に相応しい数の魔物が一直線に前進していた。
進行方向には幾つもの街や村があり、少なくとも明揺に辿り着くまではその歩みを止めることはないだろう。
そう、今日はマルタと出会ってから丁度一ヶ月。ついに“その日”がやってきた。
「言っとる場合か、あと半日もすれば最初の街に到達してしまうぞ」
「分かってるよ。もう皆配置に着いたみたいだし、そろそろ始めようか」
しかし、やはり不安は残る。マルタの未来視の精度から考えても、“死”の未来を予見するというのはかなりの異常事態。
テレポートを持つマルタの命を脅かすというのは、そう簡単に出来るものではない。それこそ、不意打ちでもしないと不可能にすら思える。
「冒険者ギルドで待ってても良かったのに」
「マルタが近くに居ないと、だーりんが不安になっちゃうでしょ?」
「よく言うよ。僕からすればこの状況が一番の不安要素だっていうのに」
僕は小脇に抱えたマルタに視線を落とす。
最近知ったのだが、マルタは浮遊魔法がかなり苦手らしい(得意な人の方が少ないけど)。
テレポートを持続的に発動させれば似たようなことは出来るらしいのだが、常に座標を意識する必要があるので微妙に面倒臭いとのこと。
「まずは、先制攻撃といかせてもらおうかな」
──サァァァァ……
「じゃあね、ラティ、マルタ。お先に」
「ああ」
「いってらっしゃーい」
僕はマルタをラティに預けて浮遊魔法を解除し、後ろに倒れるようにそのまま宙に身を投げ出す。
強風に晒されながら、僕は地上に落ちてゆく。
逆さまに映る世界はとても新鮮で、沈む夕日に照らされていたのも相まって、より一層美しく感じた。
「さて、如何にしてくれようか」
僕は上を向き、ぞろぞろと呑気に行進を続ける魔物達を見る。
数にしてざっと千──いや、もっといるか。今までこの量の魔物を見たことがないため正確な数は計りかねるが、感覚では大体二千弱ぐらい。
「こりゃ大成長間違いなしだな」
僕は詠唱を飛ばして影蜘蛛を空中に放つ。
『月詠』
──そして、暗転。
真っ赤に染まっていた世界から一変、静寂の夜が訪れ、空には一つの月が浮かんでいた。
こういうのはやはり最初が一番肝心だ。
超広範囲の最高火力で、最大のアドバンテージを取る。そして、その為の最善最良の技は────。
『影羽々斬・五月雨』
宙に舞った無数の糸は、一瞬にして剣の形を成す。そして、月詠によってその数は指数関数的に増してゆく。
「──さあ、開戦だ」
次の瞬間、数百もの黒い剣は地上に向けて圧倒的な速度で放たれ、容赦なく魔物を貫き、蹂躙する。
十数秒経っても黒い雨は降り止まず、むしろ次第に激しさを増す一方。何せ、空には未だ千近い数の剣がある。
「雨垂れ石を穿つ、ってね」
──月が沈む。
それから一分ほど雨は降り続け、全ての剣がなくなったことを確認した僕は、辺りを俯瞰して見る。
「七割くらいかな……」
僕はゆっくりと地上に降り立つと、今度は地上から辺りを見渡す。
まだまだ魔物は残っているが、これだけ減らせれば上出来だろう。
「──おいおい、バカじゃねぇのか、オマエ」
と、魔物の死体の山から声が聞こえてくる。血溜まりを歩く音、そして人影。
「フザケんな、初撃でパレードを壊滅寸前まで持ってくヤツがどこにいんだよ?」
その声の主は、全身が黒で染まった人型の何かだった。ただの黒というわけではなく、夜の星空のような不思議な感じ。
その異質な容姿のせいか、はたまた別の要因があるのか、男からは禍々しいオーラが溢れ出ていた。
「君は?」
「おれァ、エイヴンって言うんだ。ま、知らねェだろうけどな」
「……彁羅か」
「はッ?! 何で知ってんだよ!?」
四凶の名前は聞いてるし、四凶じゃないなら後はそれぐらいしかないからな……まさか、こんなに早く対面することになるとは思ってなかったけど。四凶はここにはいないのだろうか。
「んだよォ、なら話がはえーな」
その男(?)が右腕を上に掲げると、近くに散乱していた魔物の死体が全て吸われていった。
「オマエを殺して、先に進ませてもらうぜ」
「話が分かりやすくていいね。それじゃあ僕も、君を殺して止めさせてもらうよ」
【──ステータス上昇・極小×201:筋力・敏捷性・魔力】
【──ステータス上昇・微小×78:筋力・敏捷性・魔力】
【──ステータス上昇・小×32:筋力・敏捷性・魔力】
【──ステータス上昇×8:筋力・敏捷性・魔力】
【──習得スキルの報告は数が多すぎる為、省略します。ご確認ください】
まあ、こうなるよな。倒した数より上昇回数の方が少なかったから、倒したことのある魔物も結構いたのかな──それでも、十分過ぎるくらいだけど。




