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【第9話】冒険者、そして蒼の少女。(1)


 「助かったよ、本当にありがとう」

「いえ、これくらいは全然……」


 僕を助けてくれた魔法使い。

 蒼色の髪に、蒼色の目を持つ、年端もいかない少女だった。


「いやいや、正真正銘命の恩人だよ。僕に出来ることならなんでもするよ」


 実際、彼女が来なかったら今頃僕はあの魔物の胃の中だったに違いない。


「そんな、大袈裟ですよ……私はあの魔物に用があってたまたまここに来ていただけなので」


 どこまでも謙虚な子だな。


「それよりお兄さん、どうしてあんな所に? 見た感じ、冒険者の方ですよね──もしかして、任務ですか?」

「そうだね、軍狼上位種を倒すってやつなんだけど」

「軍狼上位種の討伐って、B級の任務ですよね? パーティの方はどちらに……あっ! すみません!!」


 突然口を噤む目の前の少女。


 一体なんだと思ったが、僕の仲間が既に殺されてしまったと思ったのだろうか──僕にはそんな仲間、元から居やしないんだけど。


「んーと、僕は一人で来たんだ……」


 それを口にするのは少し恥ずかしかった。


「えっ、ホントですか!?」


 どんな憐れみの視線が向けられるのかと少し怯えていたが、思っていたのと違う反応が返ってくる。


「実は私も一人で来たんです!」


 目を輝かせながら彼女は言った。


 この子も一人でここに? 僕が言うのもなんだけど、かなり危険じゃないか。


「君はどうして一人で? 君の言った通り、パーティを組むのが普通だと思うんだけど……」

「えっと、私──パーティを組んでもらえなくて」


 ……組んでもらえない? それじゃあ、僕みたいに望んで一人でいるわけじゃないのか。

(そんな奴、お主くらいしかおらんじゃろ)


「実は私、ちょっと変わってるんです。それで、皆さんから距離を置かれることが時々ありまして……」


 彼女はそう言うと、哀しそうな顔をする。


「先ほど見たと思いますが──私の炎、青色なんです」


 言われてみれば、先ほど僕を救ってくれた炎は青色だった。

 魔法どころかこの世界に疎い僕では、全てがそうだとは言い切れないが、通常、炎魔法というのは赤色だ。


 だけど、それがどうして距離を置かれる事に繋がるんだ? 変わってるとは思うけど、綺麗で良いじゃないか。


(……青色の炎というのは、かつて世界に暗黒を齎した災厄の魔女が扱った炎の色と同じでな──恐らく、そのせいじゃろ)

 ああ、そういうことか。たしかに聖エレストルみたいな、災厄の魔女による被害をもろに受けた歴史があって、魔物を敵視している国ではそういう差別もあるのか。


「少なくとも僕は良いと思うよ、それ。僕、青好きだし」


 順位で言うと三番目くらいだけど、まあ嘘ではない。


「ですよね!? 青、すごく良いですよね!!」


 すると突然、水を得た魚のように表情に活力が溢れ出る。


「デルクの冒険者は見る目がありません! どんな歴史があろうと、青は綺麗でカッコよくて、可愛いんですよ!! お兄さんも同じ考えですよね!!」

「う、うん……良いと思──」


──ガシッ!!


 僕が言い終わる前に、先ほども見た輝く表情で僕の手を掴んだ。


「私たち、気が合いますね! 目的も同じみたいですし、このままパーティ組みませんか!?」

「ええ……?」


 ──と、困惑はしたものの、それは僕としてもありがたい申し出だった。先程のような予想外の状況に直面した時、仲間がいた方が対処もしやすいだろう。


(お主、さっきは一人の方が良いとかなんとか言っておったではないか)

 女性に誘われたらちゃんと応えるのが男というものなんだよ、ラティ。それに、こんなか弱そうな女の子を一人にするなんて僕には考えられないね。


(ふん。そのか弱そうな娘に助けられたのは、一体どこの誰なのやら)

 いいんだよ。女の子と仲良くなれる機会なんて、この先二度と来ないかもしれないんだから。

(ついに本性を現しおったな!)



「あ、今更なんだけど──君の名前は?」

「私はフェイ・シルファリアです。フェイとお呼びください」


 先程と打って変わって冷静な対応。感情の起伏が激しい子なんだろうか。


「僕のことはハルって呼んで」

「はい! よろしくお願いします、ハルさん!」


 満面の笑みを向けられる。


 元気で良い子そうじゃないか。この子を疎むなんて、王都の冒険者達は見る目がないにも程がある。


 そもそも冒険者は、実力至上主義じゃないのか?


 何はともあれ、そうして僕達は一時的にパーティを組むことになったのだった。



▲ ○ ▼



 僕らは一度、王都に戻ることにした。


 既に日は暮れていたし、夜の森は想像以上に危険だ。それに、夜の森にはあまり良い思い出が無い──というか寧ろ、あれはトラウマになってもおかしくない出来事だった。


「実は僕、王都デルクに入るのこれで初めてなんだよね」

「ええっ! そうなんですか? では、どこから来られたんですか?」


 僕達は王都の出入り口で、ちょっとした入場検査を受けながら雑談を交わしていた。


「テオルスのファレリアってとこだよ。特に有名なものはないけど、良いとこだよ」

「えっ、ファレリアって()()?」


 何かあったっけ、あの街。まあ、テオルスで一番栄えてる街ではあるけど……あ、高難易度ダンジョンが幾つかあったっけ。


「つい最近、ファレリア近くの森で魔王が出たって話があったんですよ!」

「あー、それね……」

「やっぱ知ってますよね、何せあの“調停者”様が直々に向かったって話ですから!!」


 調停者──その言葉を聞いたのはこれで二回目だ。そんなに有名なのか? ノアさんのことを言ってるんだと思うんだけど。


「──その顔、もしかして知らないんですかっ!?」


 うっ、まさか表情でバレるとは。そんな分かりやすかったかな。


「う、うん。良かったら教えてよ。調停者っていうのはどんな人なの?」


 僕が尋ねると、フェイは誇らしげに語り始めた。


「調停者様はS級冒険者で、世界が誇る史上最強の魔法使いです! 私のような魔法使いや、冒険者達の憧れなんですよ!!」


 分かり切ってはいたけど、やっぱり只者じゃなかったのか。何だか、僕も誇らしい気分だ。


「今から大体三年前ですかね、調停者様が活動を始めてすぐに魔族達の活動が抑え気味になったんです。そのおかげで、魔王勢力とのパワーバランスが拮抗状態に戻ったんですよ! それが、調停者様がそう呼ばれるようになった所以なんです!」

「へえ、そりゃ凄いね」


 一個人でそれだけの影響力を持ってるのか。それに、史上最強の魔法使いと来た。ラティはどう思う?

(ここで妾に振るのか? どう、と言われてもな……直接見てないから何とも言えんわ)

 そりゃそうか。


(──ただ、お主が目指す場所は、お主の想像以上に高いということじゃな)

 そうだね。甘く見てた訳じゃないし、最初から目標の高さは承知してたよ。

(どうした、怖気付いたか?)

 まさか。それでこそ、燃えるってもんさ。


(くくく、この身を捧げたんじゃ。退屈させてくれるなよ)


 最初に契約の全貌を知った時はめちゃくちゃ驚いたけど……今となっては感謝ばかりだ。ラティとなら、僕は更に上を目指せる。


 愉しすぎて、二度と離れたくなくなるかもね。

(はっ、抜かせ)


「噂によると、調停者様と共闘して魔王を倒したC級冒険者がいたらしいんですよ! 勇敢な人もいるんですね〜」

「……」


「……そういうのは、蛮勇っていうらしいけどね」

「え?」

「いや、何でもない」


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