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影の冒険者、最強を目指す。 〜影の魔人と契約した僕は、最速で世界を駆け上がる〜  作者: ねひつじ
四章 魏刹編・後

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【第76話】冥炎の王、そして魔神。


 「超える、か……やってみたまえ、私をここから一歩でも動かせたら上々だ」


 目の前の魔族の青年は、先程までとはまるで別人のような雰囲気を帯びていた。

 天黎に似た眼を持つ青年、ただその本質は、彼とは全く別のモノのように感じた。


「一歩どころか、膝を突くかもしれないぞ」


 次の瞬間、青年は私の目の前まで迫っており、黒く染まった腕を振りかぶっていた。

 

 『(ゲヘナ)』では、自身の超強化だけでなく、魔法・スキルの無詠唱発動によるデメリットを一切受けなくなり、且つ自身以外の能力を著しく低下させることが出来る。


 つまり、彼が私に攻撃を当てることは不可能だということ。


「おい、そこの。早いとこ此奴(こやつ)を止めてくれ。妾の声も聞こえんようでな、お前のことしか眼中にないらしい」


 青年の影の中からそんな声が聞こえてくる。


 何か不思議な気配がするとは思っていたが、別の誰かがいたとは驚きだ。


「最善を尽くそう」


 確かに、これ以上戦えば彼の身体は壊れてしまう。それだけ無茶な戦い方をしているのは誰の目にも明らかだった。


 私は難なく彼の攻撃をいなすと、魔法で反撃に出る。


影歩(シャドウステップ)


 広範囲に及ぶ火炎。命中する直前、彼は姿を消したかと思うと、背後から気配。まるで瞬間移動をしたかのような変わった動き。


影の踊り子ダンサー・イン・ザ・シャドー


 無数の黒い斬撃がこちらへ放たれたが、それは私の火炎によって全て打ち消される。


「やっぱり強いな、アンタ」


 青年はそのままこちらへ直進し、十数秒に渡る接近戦が繰り広げられる。

 正確には私は触れていないので、彼の近接攻撃をその場で躱して火炎を繰り出しているだけなのだが。


「……」


 やはり、先程と比べてパワーやスピードが倍以上に跳ね上がっている。

 『冥』の影響を受けて尚、これだけの力が出せるのか。


 彼は一度飛び退き、糸を繰り出したかと思うと、彼の周囲に(おびただ)しい数の腕が作り出されていた。


破滅(ルーイン)


 案の定、その黒い拳はこちらに向けて放たれた。直感で分かる、あれを一撃でも食らえばただでは済まないと。


「つまり、当たらなければいいだけだ」


 私は数百回にも及ぶ数多の攻撃の連続、私は()()()()()()()躱し続けた。何ということはない、ただ見て、避けるだけだ。


 徐々に加速していくその攻撃は、ついに私に命中することはなかった。


大紅蓮(アルデンティオ)

魔力吸収(マギア・エフジオ)!』


 ……潮時だな。


 彼は私に急接近し、至近距離で攻撃を繰り出そうとしていた。私は右手の親指と人差し指を立て、彼に向ける。


 間違いなく彼は強い。()の彼は、最上位魔族の中でもかなり上位の方に匹敵すると言えるだろう。

 彼のような魔族が、今まで無名だったというのが信じられない。


 彼の強さは称賛に値する。

 しかし、このような戦い方は、美しくない。



影蝕(イクリプス)!』

『──熱破壊(ヒートショック)



 とん、と彼の額に人差し指が当たると、彼はその場に崩れ落ちる。




「……間一髪だな」


 私の左肩から先は見事に消し飛ばされており、胴体には浅い斬撃痕が続いていた。


「身の丈に合わない力を扱った代償、か。これではまるで、呪いのようだ」


 倒れた青年を見てみると、両の目元から頬にかけて黒い痣が広がっていた。



「すまない、助かった。まったく、だから止めておけと言ったんじゃがな」

「本当に焦ったよ! 『冥』がなければ、勝敗がどうなっていたか!!」

「さっきまでの落ち着いた雰囲気はどうした……」

「ハッハッハ! 私はいつもこんな感じだよ!」


 やはり戦闘すると、どうしても昔の名残が出てしまうな。


「我が主様に付き合わせて悪かったな」

「いや、私も楽しませてもらったよ。彼の強さの秘密は、キミにあるのかな?」

「まさか、主様の()()は素質じゃ。妾は、ほんの手助けをしているに過ぎぬ」


 彼女ほどの魔人が彼に仕えている理由は分からないが、とても愉快な関係のようだ。



◆ ■ ▲



【──ステータス加速上昇・大:筋力・防御力・敏捷性・魔力・体力】

【──パッシブスキル『火属性耐性・小』は、『火属性耐性』へ進化しました】



「ん……」


 その無機質な声で目を覚ますと、見知らぬ天井。

 確か、ディオーソさんと戦っていたはずなんだけど、途中から記憶がさっぱりだ。


 でも、結局負けたんだな。分かってはいたけど、やっぱり悔しいものは悔しい。


「あ、目を覚まされたんですね、ハルお兄さん」


 とても品質の良さそうな寝具の上で横になっている僕の視界の端に、碧髪の少女が映った。


 そこで初めて気付く、視界の違和感に。


「──暗い」

「え?」


 それに、両目周辺がズキズキと痛む。


「……やはりそうなったか。眼を酷使したことによる代償じゃ、(しばら)く安静にしておれ。治るかは知らんがな」

「あー、なんかやらかしたっぽいな……」

「ああ、思い切りやらかしたな」


 だよね。


「ああ、驚いた。まさかディオーソと一戦交えているとはな」

「ほんの腕試しですけどね──って、え?」


 それは、凛とした響くような声。聞き間違えるはずもない、記憶力の悪い僕でも覚えている。


 数週間前に聞いたばかりの、その声の主は────。



「無事、目が覚めたようで何よりだ」



 跳ねるように急いで起き上がり、暗みがかった視界で声の方を見る。


 そこにはやはり、天黎さんがいた。


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