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影の冒険者、最強を目指す。 〜影の魔人と契約した僕は、最速で世界を駆け上がる〜  作者: ねひつじ
四章 魏刹編・後

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【第75話】冒険者、そして冥炎の王。


「ほう……それは言葉通り、私と戦いたいということかな?」

「そういうことです」


 僕はディオーソとの戦闘を望んだ。理由はとてもシンプル、彼が強そうだったから。もしこの機会を逃せば、僕は一生後悔する。何故か、そんな予感がした。


(一応止めておくぞ。今のお主に勝てるような相手ではない、とな)

 毎度のごとく忠告感謝するよ。でも大丈夫、別に殺し合うわけじゃないんだ。ちょっとした腕試しだよ、今の僕が最上位魔族にどこまで通用するか、のね。


(腕試しは好きにすれば()い。しかし、其奴(そやつ)はあまり参考にならんと思うが……)


「レン、あれ頼んでもいい?」

「あ、はい。それはもちろん──でも、本当にやるんですか?」

「ハ、ハルさんがいつの間にか戦闘狂に……?」

「みんな大袈裟だな……大丈夫だって。それに、折角の機会だしさ」


 典礼で与えられる権利についてあれこれ言ったけど、僕も大概だな。


「龍の子と蒼炎の子はここで(くつろ)いでいてくれたまえ! ここなら、私の魔力による熱気の影響を受けないからね」


 言われてみれば、この部屋はさっきまでの猛暑が嘘のように涼しかった。どういう原理なのだろうか。


「それじゃ、レン。よろしく」

「はい……」


 どうやら、まだ納得のいっていない様子のレン。言いたいことは分かる。


 この圧倒的な魔力量──間違いなく、ディレとは比較にならないくらいに強いし、ディエスや天黎以来の強敵だろう。


八天空露(ハチテンクウロ)


 レンは手で数回印を結ぶと、不思議な正八面体が現れる。


「それではお二方、どうぞこちらへ」


 僕とディオーソはそれに触れると、あっという間に一面真っ白の世界へと飛ばされる。


 そう、これは神洛(シンラク)山での一件で、レンの仙術によって展開されていた結界。

 この結界の中に入るには先ほどの正八面体に触れる必要があるらしく、つまりあのとき、天黎は同意の上であの場にいたということになる。


「魔法とは少し違うようだけれど──なるほど、面白い」


 ディオーソは興味深そうに辺りを見渡している。


「それで、私は全力を出した方がいいのかな?」

「どちらでも構いませんよ。いずれにせよ、出すことになると思うので」


──サァァァァ……


「ハッハッハ! では、試してみようか!」


 ディオーソはパチンッと指を鳴らすと、


闇獄炎(ダークヘルフレイム)


 深く黒い火炎が放たれ、一瞬にして目の前まで迫ってくる。


「いきなり最上級魔法かっ──!」


影蜘糸(アラクネ)!』


 咄嗟に糸の壁を作り出し、黒炎を防ぐ。しかし、その黒炎は徐々に糸の壁を蝕んでゆく。


「っ!」


 僕は『剣糸(ソードリープ)』に浮遊魔法を合わせて発動し、壁から飛び退きつつ二本の剣で攻撃を仕掛ける。


 その二本の剣は、両手の人差し指と中指でパシッと挟むように止められてしまう。僕は強く糸を引き、剣を回収する。


「……私は二週間ほど前に、この明瑶(メイヨウ)にやって来た」


 ディオーソは先ほどまでとは少し違う、真面目な口調で語り始める。


「それは何故か──理由は単純明快、呼び出されたんだよ、君もよく知る天黎という男にね」


 ディオーソは指を振ると、僕の足元に炎の渦を発生させる。素早く移動し渦を回避するも、その先には既に炎の渦。


 僕は思い切り跳躍し、そのまま浮遊魔法で宙を飛び回り、的を絞らせないようにした。

 

影嵐(テンペスト)


 二本の剣に加え、『影刃(エイジン)』を付与した無数の糸と、その糸でいくつか剣の形を模すことで、三種の武器による総攻撃を仕掛ける。


「彼は私にこう言った。『(しばら)くの間、魏刹を守ってくれ』、と」


 すると突然、辺りにとてつもない熱気が放たれ、無数の糸は全て焼け落ちてしまう。


「そんなんアリかよっ……!」


 火力が高すぎて、当然のように『鎮火』が通らないな。ディオーソさん相手じゃ、月詠前提のスキルじゃないか。


「私は百年と少し前、小さな国を一夜にして全て焼失させてしまったことがあってね。“冥炎の王”と呼ばれ、それはもう恐れられたものだよ」


 ディオーソは再び無詠唱で、十を超える量の炎の槍を繰り出す。


「半年前──そんな私を、ものの数分で下してしまった男がいたんだ。それはもう、興味が湧いたよ」


 僕は可能な限り飛行速度を落とさずに、その炎の槍を避け続ける。

 そして十五本目のそれを避けた時、目の前──いや、四方八方に魔法陣が展開されていた。


「──っ!!」


 大量の魔法陣から、一つ一つが上級魔法レベルの強烈な火柱が放たれる。無詠唱なので、実際に何の魔法を使っているのかは分からなかった。


「……」


 なるほどこれは──確かに、滅茶苦茶だな。こんなのと同じ括りにされている他の最上位魔族が可哀想に思えてくる。


 だけど、


月詠(ツクヨミ)


──そして、暗転。



 絶対に勝てない相手じゃ、なさそうだ。



五重魔力障壁(フィフス・バリア)


 重層系で、最も硬度の高いバリア。

 僕を焼き尽くすはずだった火柱は障壁によって打ち消され、バリアは二枚を残して全て焼滅した。


「──よく似ている。彼も、キミと同じような“眼”をしていたよ」


幻影華(ゲンエイカ)


 僕は文字通りの“影分身”を大量に生み出すと、その全てに月詠による強化(バフ)と施し、魔剣グレリアスと同じ効果を持つ武器を()てがう。


 それは熱によって焼けることはなく、全ての分身が張り巡らせた最大強度の糸を跳び回り、全方向からかつてないほど大量の斬撃が繰り出そうとする。


 発動までその間わずか一秒、回避不可の超威力範囲攻撃。


 その斬撃が命中する直前、


(ゲヘナ)


 ディオーソは、指先に一つの炎を創り出した。


 その火炎は、何色とも形容しがたく、至高の(よど)みを帯びた、まさに地獄の炎。


 その炎は瞬く間に膨張し、辺りを呑み込む。それに伴い、幻影華はあっという間に姿を消してしまう。


 僕は聞いたことも、ましてや見たこともないその魔法に、対応が一瞬遅れる。これは恐らく、超級の創作(オリジナル)魔法だ。


 気が付けば、周囲は禍々しく、地獄というものが本当にあるのならば、ここ以上に相応しい場所はないだろうという、そんな景色へと変わり果てていた。


 ──どうしてだろう。


「ここは私が支配する領域結界──魔王覇気の拡張のようなものだ。ここでは、私が()()だ。相手が魔王だろうが神だろうが、全てが等しく私の“下”となる」


 ────この景色に、()()()があるのは。


「ぐっ……!」


 ディオーソは何かを喋っていたが、僕はそれどころではなかった。


 頭が痛い──割れるような痛みと、徐々に暗くなっていく視界。


(精神が突然乱れ始めた……? おい、この戦いを今すぐ取り止めろ──)


「あ゛あ゛あ゛っ゛……!!」


 強烈な痛みとは裏腹に、僕の気分はとても高揚していた。

 それが目の前の強敵と、この異様で、どこか見覚えのある景色によるものだと、僕は直感した。


 この炎を超えたい。一度だけでも、一瞬だけでも、越えてみたい。



「このくらい、超えられる」


(……い! 目……せっ!!)



 誰かの声が聞こえる。だけど、何を言ってるのか全く分からない。


 まあいいか、()には関係ないだろ。



「……ああ、すこぶる気分が良い」



【──『影の魔神化』の最大出力が“35%”になりました】



「……おや、先程とはまるで別人のような目付きになったね」

「俺は、アンタを超えるよ」


 周囲の音も殆ど聞こえず、視界は完全な暗闇。


 この()()に映っているのは、空に浮かぶ真っ赤な月だけだった。


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