【第73話】冒険者、明揺にて。(2)
門前はそこそこの数の人が並んでいて、僕たちの番が来るまでに数十分の時間を要した。
「何か身分を証明出来るものはありますか? 滞在証明書の発行をせずに済みますが」
「あ、これで」
冒険者カードを門番の人に手渡す。
「おや、A級冒険者の方でしたか。明揺には典礼への参加がお目当てで?」
「あー……大体そんな感じです」
「ははは、やはりそうでしたか。今年の天下武神典礼は大いに盛り上がりますよ、観戦席のチケットが一瞬で完売したほどですから」
「何かあるんですか?」
「典礼には毎回A級冒険者相当の実力者が集まるんですが、今年は特に粒ぞろいらしいんです」
「へえ、そうなんですね……」
参加するつもりはなかったけど、そう言われると気になってくるな。もしかしたら、冒険者ギルドの他メンバーにも会えるかもしれない。
今のところ、冒険者ギルド本部で会うことの出来たA級冒険者は、セトさんを除けば六人だけ。
個人的に驚いたのが、ミラが冒険者ギルドのメンバーではなかったということ。
あの野生の天才を放っておくのも勿体ない気がするけど、僕なんかが勝手に勧誘するわけにもいかないし、一体どうしたものか。
ミラといえば、当の本人にこの状況についてさらっと伝えたら、「大変そうね、頑張って」とだけ返ってきた。
レンとフェイも最初こそ驚きはしたものの、そこまで重く受け止めている様子でもなく、その余裕が一体どこから来るのか、僕には分からなかった。
「なので、優勝を狙うとなるとかなり厳しい道のりになるかもしれませんね。優勝者には国主と戦う権利が与えられるので、ぜひとも頑張ってください」
前も聞いたけど、それは罰ゲームじゃないのか。あの人と戦う権利とか普通に要らないし、皆はどういうモチベーションで参加してるんだ? レンは“滅多にない機会だから”とは言ってたけど……。
「長話が過ぎましたね、どうぞお先へ。貴方のご活躍をお祈りしています」
「どうも」
門が開き、僕たちは首都明瑶へ足を踏み入れた。
■ ■ ◆
「人多すぎ……」
門を潜った先は、先ほどの馬車の利用状況からは考えられないないほどの人波でごった返っていた。
「いかにも首都って感じですね! 早速ですけど、どこに行きますか? やっぱりまずは──」
一人ではしゃぐフェイ。気持ちは分からないでもないけど、とりあえず放っておこう。
「レン、天黎さんがどこにいるのかとかって分かる?」
「天閻宮にいると思います。明揺の中心に建っているあれですね」
「ああ、あれか……」
遠目で見ても確かにそれだと分かるような、圧倒的な存在感を放つ建物があった。
「そこそこ距離あるし、この人混みであそこまで行くのはなかなか骨が折れそうだね」
(飛べば良いじゃろ)
それだとフェイを抱えることになるし、目立っちゃうからさ。てか、ちゃっかり影の中に戻ってんな。
(別に目立たんじゃろ、あちこちで既に魔族が空を飛び交っとるぞ)
まあそれはそうだけど。
「天黎さんに用があるのは僕だし、二人はどこかで時間潰しててもいいよ」
「天閻宮に入るには色々と手続きが必要なので、わたしは付いて行った方がいいかもですね」
「ありがとう、助かるよ。フェイはどうする?」
と、フェイがいたはずの方を見ると、忽然と姿を消していた。
「あれ、フェイ?」
「も、もしかして人混みに流されたんじゃ……」
「そんな、フェイは子どもじゃないんだから」
僕は少しだけ身体を宙に浮かし、俯瞰して辺りを見渡してみると、とても目立つ蒼髪の少女が路地裏に入っていくのが見える。
そして、その少女の手を引く男の姿。
「いい度胸してるね」
(まさかの拉致とは、人混みに流されていた方がまだマシじゃったな)
「レン、あの路地裏の方だ。先に行ってる」
「はい!」
僕は潜影で素早く群衆の影を縫って路地裏まで辿り着く。
人の気配が五つ──それに、魔族もいるな。
「人様の友人攫っといて挨拶もなしとか、僕に何されても文句言うんじゃないぞ。一応忠告、今すぐ投降するなら全員龍の拳一発ずつで許さなくもない」
もしかしたらレンのパンチの方がヤバいけど、まあいいか。
しかし、数秒経っても返事はなかった。
むしろ敵意というか、殺気が強くなった気がする。
「忠告はしたよ」
これ言う側ってこんな気持ちなんだ。
『閃光』
『火属性付与』
『致命刺突』
物陰から二人、屋根上から一人が飛び出してくる。
「まったく、気が早いな。祭りはまだ先なんだけど」
『影蜘糸』
幾つかの指を動かし、既に張り巡らせていた糸でその輩たちを拘束する。
「ぐっ……!」
「あまり暴れない方がいいよ。君の身体がボロボロになってもいいなら別に止めないけど」
「──はぁッ!」
すると、背後から更に別の輩が飛び出し、短剣を振り下ろす。
「良い奇襲だけど、攻撃するときに声を出しちゃ意味ないじゃん」
糸によって振り下ろされた腕は宙で停止する。
隱密は上手な方だけど、僕が気付けないほどじゃない。
「……」
上空から一切の音もなく一人が飛び掛ってくる。
「君は偉いね、ちゃんと隱密と奇襲が出来てる。でも残念、仲間を連れてるのは君たちだけじゃないんだ」
「──ッ!」
空中にいた輩は路地裏の奥の方まで吹き飛ばされていく。
それは当然、レンの蹴りが炸裂したからである。
「ありがとう、レン」
「いえ……わっ、蜘蛛の巣みたいになってますね」
レンは翼が糸に引っ掛からないように慎重に地面に着地した。
「で、僕の友人を攫った魔族はどこ?」
フェイを攫ったのは残った魔族で間違いないだろうけど、戦闘中に完全に気配がなくなってしまった。
「誰が教えるか──」
「待って、発言には気を付けた方がいいよ。この子、怒ると何するか分からないから」
そう言って、僕はレンの肩を掴んで前へ差し出す。
「わ、わたしですか!?」
「はっ、そんなガキ、怖くもなんとも──」
「ああ、言い忘れてた。僕も何しちゃうか分からないから、本当によーく考えて発言してよ。身体が恋しい思いをしたくないなら尚の事、ね」
輩の首に巻き付いた糸を少しキツくする。
「言っておくけど、僕に人を殺す罪悪感とかないから。目の前で幾つ首が飛ぼうが、『おー』くらいにしか思わないよ」
流石に嘘だけど。
(ハッタリが適当過ぎぬか?)
こういうのが意外と一番効くんだって。
「クソッ、化け物め!」
「やめてくれ……!」
ほら、めっちゃビビってる。
(……)
【──ステータス上昇・極小:筋力・敏捷性】
【──パッシブスキル『光属性耐性・小』を習得しました】




