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【第8話】冒険者、軍狼と戦う。


 今現在、僕が向かっている“聖エレストル王国”はかなり歴史のある国で、かの魔法大国ハイナジトラに次いでの魔法国家である。それ故、魔法使いがそこそこ多い国なのだとか。


 何やら魔法学校というのもあるらしく、魔法が壊滅的に使えない僕でも使えるようになるのかとか、少し気になった。



「馬車なんて、どれくらい振りかな」


 ファレリアを発って数時間。聖エレストル王国の王都デルクに向かうため、僕は馬車に乗っていた。


 ファレリアと王都デルクは非常に近く(ファレリアはテオルスの北側、デルクはエレストルの南側にあるため)、入国審査を終えてエレストル領に入ると、直ぐに王都デルクは見えてきた。


 国にもよるが、テオルス──エレストル間の国境を越えるに当たって、商人や冒険者、旅人がよく通るような道にいくつかちょっとした関所が置かれているだけで、一応そこを無視して入国することも出来てしまう(あくまでも“国境は”の話)。


 とはいえ商人の場合、その関所をスルーすると本命の街などに入国出来なくなってしまうことが多いので基本的にはしっかりと審査を受ける。


 そして冒険者や旅人の場合も、関所が置かれていない場所はほとんど“魔物や盗賊が多い危険な場所”なので、「通ってもいいけど命の保証はないよ」というスタンスなのだ。


 道の舗装やその警備にとても力を割いているので、正規に入国する場合の身の安全性は非常に高い。



「冒険者の兄ちゃん、王都デルクの近くまでだったな。もう少しで着くよ」

「あ、はい」

「聖エレストルといえば、聖騎士団も凄いんだ。寄るなら一度でも見た方が良いぞ」


 聖騎士団──聖騎士といえば、魔法を扱う(主に光・聖属性)剣士、いわゆる魔剣士であり、対魔に特化しているというイメージがあるが、あっているだろうか。


「運が良ければ()()にも会えるかもな!」

「雷帝……ですか?」

「そう、雷帝。聖エレストル王国が誇る最高戦力だ。数年前まで聖騎士長だったんだが、今は何故か聖騎士団を辞めちまったみたいでな」

「へえ……」


 ちゃちゃっと任務を終わらせて、早く王都を見て回りたい。テオルスの外の国に来るのは記憶では初めてなので、とても楽しみだ。


(お主よ、そう浮かれておると本当に足元を救われるぞ? 気持ちは分からんではないがな)

 大丈夫だよ、分かってるから。


 今回の任務はB級、油断は必ず命取りになる──更に相手は軍狼、いざとなっても逃げるという選択肢は取れないだろう。


「それでも、僕が勝つよ」

(ふん、だと良いが)


 昼過ぎ、僕は目的の森に到着した。



□ ◆ □



 早速、目的の軍狼を探すとしよう。痕跡を辿って軍狼の居場所を突き止める、ただそれだけだ。


「やはり、なんとも地道な作業じゃな」

「そう思うなら手を貸してよ」

「索敵は苦手でな、今回ばかりは諦めてくれ」


 じゃあ何の為に出てきたんだよ。今回ばかりはって、いつもは手伝ってるみたいな言い方はやめろ。


「折角妾が話し相手になってやろうというのに……まったく、お主は気遣いというのを知らんのか」


 なんだかんだこういう時間は退屈なので、なんともありがたい話だった。


「じゃあ今までのも全部……」


 感動だ。

 まさか、僕を想ってのことだったなんて。


「ふん、別にお主の為ではないわ」


 そのタイミングのツンデレは流石に無理があると思うけど──でも、王都に着いたら何かご馳走してあげよう。



「大分奥の方まで来たと思うんだけど……」


 道中、魔物が数匹現れたが、なんの問題もなく倒すことが出来た。


「なかなか目当ての魔物が現れんな」


 ラティの言う通り、ここまで軍狼一匹見ていない。

 それになんだか、魔物の数も少ない気がする。


 ……この流れ、なんだか嫌な記憶が蘇る。流石に二度もあんなことにはならないだろうが、警戒してしまう。魔王はないにしろ、めっちゃ強い魔物とか出てきたらどうしよう。


「──お主、魔物の気配がするぞ」


 ラティに言われてはっとする。


 少しすると、奥の方から複数の影がこちらに近付いてるのが分かった──いや、索敵出来るじゃん。


 と、ツッコミを入れる間もなく、ラティは僕の影の中へと戻っていた。


 僕は背中に提げていた剣を抜く────。


 同時に奥から軍狼の群れが現れた。数は二十匹程だろうか、群れの規模としては十分すぎる。むしろ想定していたより少し多いぐらいだ。


 その群れの中に、一匹だけ一際大きい個体がいる。恐らくあれが軍狼上位種だろう。思っていたより一回り大きいが、問題はない。


 僕は剣を構える。

 そう、練習通りにやればいい。



『──影刃(エイジン)!!』


 僕は意識を集中させ、軍狼を何体かをラティから教わったスキルで切り裂いた。



 〝スキル〟は、魔法とは異なり魔力の消費はほとんどない。というか、一部例外を除いて全く消費しない。


 ただ、デメリットが完全にないという訳でもなく、強力なものを発動したり、長期的な発動、連発をしすぎると体に負担がかかるらしい──が、基本的にはどれも許容範囲内のレベル。



 僕はすぐさま軍狼上位種に走って近付き、群れのトップである個体の首を狙う。

 いくら軍隊でも、統率が取れてなきゃそこまで脅威ではない。


 剣が首に当たる直前、軍狼上位種は身体を引いて攻撃を避けた。


「……やばっ」


素早い動きに反応しきれなかった僕は、その勢いでバランスを崩し、地面に片手を着いてしまった。


「──!!」


 そして、突然身体に走る違和感。

 なんだ? 身体が少しも動かせない。


(おお、これは『呪い』じゃな)


 頭が混乱している中、ラティの声がする。

 呪いだって?


「 ……がはっ!」


 なすがまま軍狼上位種に吹き飛ばされ、再び軍狼の群れの中へと戻される。


 どうやら、僕はかなり危機的状況のようだ。


(恐らく解呪しないと動くことは出来ないじゃろうな)


 これは完全に僕のミス、僕の落ち度。


 だけど、僕が知る軍狼上位種はこんな行動を取らない。それに、軍狼上位種が『呪い』系統の魔法を使えるはずが────。


(おい、目の前のことに集中しろ)

「っ!」


 軍狼達は僕を囲んでおり、数秒後には飛びかかって来てもおかしくない殺気をこちらに向けてきていた。


(急いで解呪せんと命はないぞ、お主)


 解呪とか言われても、残念ながら僕は解呪の魔法なんて使えない。


「さて、大ピンチだ。どうしよう」


(じゃからあれほど仲間を探せと、あの娘は言っとったろうに……)

 僕が悪かったから助けてくれよ。このままじゃ三ヶ月ちょっとで契約終了じゃないか。


(力を使うと痕跡が残るじゃろ。この辺は厄介な気配が多くてな、なるべくそれは避けたいんじゃ。安心しろ、いざとなれば助けてやるわ)

 そのいざが今だと思うんだけど。


(今回は妾が出るまでもないわ。相変わらず運の良い奴じゃな)


「それはどういう……」


 僕がその言葉の意味を訊こうとしたその瞬間、突然声が聞こえてきた。



蒼き火焔(イアサント・フランマ)!!』



 その声が聞こえたのと同時に、眼の前が蒼色の炎に包まれる。


 そして、眼前まで迫っていた軍狼達はその炎に飲まれ、消滅した──跡形もなく。


「うまくいった方だったんですが、上位種まではやれませんでしたか……やっぱりダメダメですね」


 去っていく軍狼上位種を尻目に、その人物は僕の方へと駆けつけてきた。


「大丈夫ですか? 立てますか?」


 相変わらず、僕は身体に力が入らなかった。

 なんて情けない状況なんだ。


「これは呪いですね……このレベルのものであれば、このアイテムで解除出来そうです」


 こうして、僕は突如として現れた魔法使いに助けられた。


【補足】

 基本属性とは火、水、風、地、光、闇の6つのことを指しており、誰しもがこの6つの内どれかの「潜在的な属性」を持っています。

 潜在属性と同じ属性の魔法は習得が早くなりますし、潜在属性と発動する魔法の属性が一致していると、通常より威力や精度が高くなります。

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