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影の冒険者、最強を目指す。 〜影の魔人と契約した僕は、最速で世界を駆け上がる〜  作者: ねひつじ
四章 魏刹編・後

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【第72話】冒険者、明揺にて。(1)


 「……」

「……」

「……」


「あの、ハルお兄さん……?」

「どうしたの?」

「これは一体……」

「ああ、これはちょっとした治療だよ。気にしないで」


 次の日の早朝、僕は宿屋のベッドの上でレンの太ももに頭を乗せ、横になっていた。


 いわゆる、膝枕というやつ。


 突然魏刹の救出という重荷を背負わされ、今から天黎さんに会わなければいけないという二つの不安による大きな精神的ダメージを回復するために、最も効率の良い回復手段を取っているのだ。決して個人的なものではない。


「おい、いつまでそうしておるんじゃ。いい加減行くぞ」

「それでもいいけど、事件の解決か、僕のメンタルが壊れるか、どっちが先か楽しみだね」

「お主はいつからそんな軟弱になってしまったんじゃ……」


「あー落ち着く……眠くなってきたし、寝ていい?」

「ああ、構わんぞ。かなり強めに叩き起こすがな」

「いつも頑張ってますし、たまには良いと思いますよ。こういうのも」


 そう言って、僕の頭を優しく撫でるレン。


「ふふ、なんだかお姉さんになった気分です」

「レン、お主もあまり其奴(そやつ)を甘やかすでない」


 ラティがレンのことをちゃんと「レン」って呼んでるの、初めて聞いたぞ。


「レンの許可も下りたことだし、それじゃ」


 とりあえず寝よう。

 寝て、起きてから考えよう。


「忠告はしたからな」


 その不穏なセリフが聞こえたときには、もう遅かった。



★ ▲ ●



「……まだ痛むんだけど。マジで叩き起こすじゃん」

「目が覚めたようで何よりじゃ」


 あの後、容赦なく叩き起こされ(ちなみに蹴りだった)、僕たちは天黎さんがいるという首都明瑶(メイヨウ)に向かっていた。


「ミラと一緒に待っててもよかったのに」

「観光ですよ、観光! 魏刹に来たからには、首都である明揺は外せません!」


「その魏刹の存亡が僕にかかってるかもしれないんだけどね」

「天黎様なら、既に何かしらの策を講じてるでしょうし、そう深刻に考えなくても大丈夫だとは思いますけど……」


 あの手紙で、天黎さんについて一度も触れられていなかったのが少し気にかかった。

 魏刹のことなら、その国主である天黎さんが事態の収拾をつけるだろうし、本来は僕なんかが出る幕ではない。


 それなのに、ラスタリフさんは「()に魏刹を救ってほしい」と言ったのだ。しかも、もしも誰かを頼るならマルタを頼れとも言っていた。国主である天黎さんを置いて、だ。


 考えすぎだと言われればそこまでだし、ラスタリフさんに何かしらの意図があろうがなかろうが、僕にはそれを確認する術がない。

 だからこうして、直接会いに行くことにしたのだ。


「にしても、明揺行きの馬車なのに、僕たち以外に人がいないとは思わなかったよ」

「典礼の日が近付くと、他国から来られた方で満員になるはずなんですけどね……どうしてでしょうか」


 おかげで、他の乗客に色々(いろいろ)気を遣わなくて済んだし、ラッキーということにしておこう。


「正直、僕が馬車を浮かしてふっ飛ばした方が早く着きそうじゃない?」

「普通に飛んでゆけば()いじゃろ。態々(わざわざ)馬車をふっ飛ばす必要がどこにある」


 たしかに。


「ハルさんがいつの間にか浮遊魔法を使えるようになってるなんて……しかも、魔法使いの私より先に!」

「まあ、ミラに教えてもらったからね」

「私だって教えてもらってますっ! 全く習得出来る気がしませんけど……」


 ミラ、めちゃくちゃ驚いてるだろうな。ミラ自身も一日で習得したって言ってたし、最初に浮遊魔法を教えたのも僕だから、絶対に浮遊魔法の習得難易度を勘違いしてるぞ、あの天才は。


「はあ〜、レンちゃんが羨ましいよ。あのカッコいい翼で自由自在に飛び回れるんだから!」

「そうですね。近接が主体のわたしにとって、空中での機動力が高いというのは、大きなアドバンテージになるのでかなり助かってます」


 多分、フェイが言いたいのは利点とかそういう話じゃないと思うけど。


「でもレンちゃん、魔法も使えるじゃん……」


 そう、レンは近接戦闘が特別得意というだけで、その辺の魔法使いを軽く上回るレベルの魔法も使えてしまう。

 支援系魔法には疎いみたいだけど、仙術があるから問題なしときた。


「まあ、此奴には妾が魔法を教えとるからな」

「え、それ初耳なんだけど」

「実はハルお兄さんが居ないとき、皆で集まって魔法の勉強をしてるんです」


 なるほど、だからやけに仲良くなってたのか。


「レンの地・風属性魔法の習得速度は目を見張るものがある。龍の心があるとはいえ、流石地風覇龍(ガルグ)の血筋と言ったところか」


「へえ……僕も参加したかったな、それ」

「はあ? そもそもこれは、お主があの獣人娘に付きっきりであまりにも暇だったから始まったんじゃぞ」

「ああ、そっか」


 そりゃそうだよな。


「そういえば、レンもそろそろA級に昇格していい頃だと思うんだよね」

「お主の昇格は特例じゃからな……此奴がB級に留まる器でないことは、冒険者協会の奴らが一番よく分かっとるじゃろ」


 まあ、レンも僕と一緒に依頼・任務を荒らして回ってるしな。レンと通りすがるだけで恐れ慄く冒険者を見ると、かなり愉快な気分になる。

 レンはその度に複雑な反応をするけど、これまた面白い。


「うう、レンちゃんにも置いてかれちゃう……」

「フェイはとにかく、浮遊魔法なんかより支援魔法を極めた方が良いと思うけどね。オールラウンダーなんてのは、ミラみたいな天才だから成立するんだし」


「こればかりは妾も同意見じゃ。正直な話、浮遊魔法を扱えるメリットはそれほど多い(わけ)でもないしな」


「浮遊魔法は魔法使いのロマンなんですよっ!!」


 そんな他愛のない雑談がしばらく続き、それから数時間後の昼過ぎ、僕たちは首都明瑶(メイヨウ)に到着した。


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