【第71.5話】再び交錯する思惑。
「お兄ちゃん、何書いてるの?」
「これは手紙だよ」
「手紙? 誰に?」
「んー……知り合い、かな」
僕は例の彼に向けた手紙を書き終え、ペンを置いた。
「アリス、先に荷物の確認をしておいてくれる?」
「了解!」
そう言うと、アリスは足早に去って行った。
「時臣さん、クロエさん……貴方たちは一体、今どこにいるんですか?」
あの二人に限って、命の危機に晒されてるってことはないと思う。だけど、僕たちのように身動きが取れないなんて状況になってるとも思えない。
本当に自分が情けない。こういう事態に対処する為に、S級冒険者としての僕がいるというのに。
「マルタさん、少しいいかな」
「ん、珍しいね、君がここに来るなんて。どーしたの?」
「……もしS級冒険者に、マルタさんの命令が通らない状況になったら、この紙を太珪の冒険者協会に送ってください。それと、この手紙もお願いします」
今はまだ、ただの保険にすぎない。僕が真っ先に狙われたということは、黒幕は僕のスキルを知っているのだろう。
このままノアさんとユナさんに何事もなければ、あの二人に対抗する手段を持っていると考えるのが妥当だけど……ここまで用意周到にやっておいて、S級冒険者と正面切って戦うとは到底考えられない。
よって、S級冒険者は直に魏刹から一人残らず居なくなる、というのが僕の推測。そしてこの予想は、ほぼ間違いなく的中するだろう。
「りょーかい。もう行くの?」
「はい、少しばかり遠くへ」
「その眼、使いすぎないでね。また倒れちゃうかもしれないから」
「……はい」
彼女はどこまで視えているのか、どこまで知っているのか。ただそこには、いつもと変わらない様子の彼女がいた。
何も言わない彼女は、この物語の結末を知っている。
★ ■ ●
「全く、君は人使いが荒すぎやしないかい? 僕は暇じゃないし、便利屋でもないんだけどな」
「……ダンテ、緊急事態だ。今すぐ魏刹に向かってくれ」
「そのくらいのことなら、君を慕っている優秀な部下にでも頼めばいいじゃないか」
「これは、お前にしか頼めない」
「そんな顔をするなんて、らしくないね。一体何があったんだい?」
「動けるS級冒険者が居なくなった。このままだと魏刹が崩壊しかねない」
「…… 君もたまには面白い冗談を言うんだね」
「……」
「……はあ、にわかには信じ難いね。こと一対一において、彼らに押し勝てる力が存在するとは思えない。それにそもそも、魏刹には人類最強の武神がいるじゃないか」
「正確には戦っていない。ただ、彼らが魏刹に近付けないように“外の力”が働いているんだ。それに天黎の腕は確かだが、これをアイツ一人で捌き切れるかどうか……」
「更に言えば、今回の件で未来演算が命を落とす可能性もある」
「……次から次へとサプライズばかりだね。僕の記憶が正しければ、未来演算の迎撃能力は法の主やあのティファレトに匹敵するって話だけど?」
「それでも、だ。だから、お前のアレを──」
「それは却下だ」
「……」
「これを知っているのは、君と未来演算だけ。無闇にひけらかすようなことは出来ない」
「そうか……」
「──ただ、出来る限りのことはしよう。どうやら、君に大きな貸しを作るチャンスらしいからね」
「……すまない、感謝する」




