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影の冒険者、最強を目指す。 〜影の魔人と契約した僕は、最速で世界を駆け上がる〜  作者: ねひつじ
三章 魏刹編・前

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【第65話】獣人族の少女、そして冒険者。(2)


 「本当に……こんな時間まで……付き合ってくれてありがとう」


 気付けば既に日は沈んでいて、訓練場にいた他の冒険者の姿も見えなくなっていた。


 そして僕はというと──、

 

「なんとか……習得までこぎつけた……!!」


 魔力の使いすぎと精神的疲労によって限界を迎えていた。


 ちなみに、この後マルタに会いに行く予定がある。


(成長者を(もっ)てしても、習得だけでこれ程の時間を要するとはな……)


「おめでとう。コントロールのやり方も一通り教えたから、後は自分の好きなようにやればいいわ」

「マジでありがとう……超好き。ラブ」


 まさか、朝から始めてこんな時間まで付きっきり(二度も食事しに行った)で見てくれるなんて。


「別にそこまで感謝されるようなことじゃないわよ……ご飯も奢ってもらったしね」


 すごい、ミラが聖人に見えてきた。



 「そういえばヨシュアは?」


 現在、僕は訓練場を離れ、ミラを宿屋まで送っていた。


「さあ、ワタシが起きた時には既に太珪(タイケイ)を出てたわ。元々用事があって魏刹に来てたみたいなのよね──特別依頼はそのついでって言ってたし」

「へえ……忙しいんだね、ヨシュア()


「何よ“は”って?」

「いや、別に他意はないけど……」


 敏感すぎるだろ、本当に何も思ってないって。


「あ、そうだ。たしか一ヶ月後ぐらいだったかな、首都明瑶(メイヨウ)で国を挙げての大イベントをやるらしいわよ」

「大イベント?」


「そ、“天下武神典礼(てんかぶしんてんれい)”って言うんだけど……聞いたことある?」

「ない」


 僕が即答すると、ミラは「でしょうね」という風な反応をした。


「二年に一度、魏刹で最強の武人を決める大会が催されるのよ。出場条件は特になし、ハルみたいな魔族でも大歓迎らしいわよ」

「なにそれ、めっちゃ面白そう」


 出場条件なしってことは、世界中から強い人が集まってくるってことだよな。


「貴方ならそう言うと思ったわ。もしハルが参加するなら、ワタシも参加しちゃおうかしら」

「ほう、僕と戦うつもりかい? と言いたいところだけど、一ヶ月後か……」


「なによ、何か用事でもあるの?」


 一ヶ月後。それが意味するのは、()()日。僕はその頃、マルタと一緒にいるか、あるいはマルタはもう……。


「……用事、かな。それも結構大事なやつ」

「そう、なら仕方ないわね。折角どっちが上か理解(わか)らせてあげようと思ったのに」


 残念、と付け加えるミラ。


「それ、完全に理解らせられる人のセリフじゃん。悪いけど、流石にミラには負けないよ」

「はあ? 何なら今ここで始めてもいいんだけど?」


 と、あれこれ言い合いをしている内に宿屋に到着。冒険者業が盛んな為、太珪には宿屋が多いのだが、僕とミラは同じ宿屋に泊まっている。


 ミラがいつまでここに留まるつもりなのかは知らないけど、今の内に色々(いろいろ)頼らせてもらおう。


「命拾いしたわね。その命、大事にしなさいよ」

「こっちのセリフ・オブ・ザ・イヤーなんだけど。次会った時までには僕に(さわ)れる程度には強くなっといてね。おやすみ、今日は本当にありがとう」

「どういたしまして。それじゃ、おやすみなさい」


 そう言うと、ミラは宿屋の中に入っていった。


「……さて、マルタに会いに行くか」


(待て、妾を宿に置いてゆけ。お主と獣人娘が(むつ)み合うとこなど見とうない)

 別に睦み合いに行くわけじゃないんだけど……まあでも、そう言うことなら別に止めないよ。


 そういうわけで、僕はラティを宿屋に置いて冒険者ギルドで向かうことにした。

 冒険者ギルドのメンバーは、超A級ダンジョンの一層にある抜け道で簡単に十一層に移動することが出来る。



「マルタ、いる?」

「いるよ、だーりん」


 部屋の扉を開けると、マルタは寝転がって作業をしていた。


「……その“だーりん”って呼ぶの、やっぱ()めない?」

「どーして?」

「どーしてもだよ。なんか、むず痒いっていうか……」


 すると、マルタはしゅんとした表情を浮かべる。


「マルタ、せめて最後にこういうことしてみたかったんだけどな。今まで恋人とかいなかったし……」

「……分かった、じゃあそれでいいよ」


 そのカードを切るのは反則だろ。


「いえーい、公認だ」

「……」


 我ながら分かりやすい策にまんまと嵌ったが、何も言わないでおこう。


「今日は何するの?」

「んーとね、今日はこれ」


 取り出されたのは至極普通のチェスボードだった。


「一つ聞きたいんだけど、これって僕に勝ち目ある?」

「何事もやってみなきゃ、だよ」


 一理あると言いたいけど、これじゃ一理どころか普通に無理だ。だって、チェスやったことないし。



 ルールを聞いて一局やってみると意外と楽しく、すぐに二局目を始めた。

 それから一時間近くずっと指し続け、気付けば夜は深くなっていた。


「また負けた……」

「惜しかったね。どうする? もう一回やる? 次は勝てるかもよ?」

「……やる」


 気付かないわけがない。この接戦がマルタに仕組まれたものだということに。

 そして同時に、マルタも僕がそれに気付いていることに気付いてない訳がなかった。


 だから、僕は意地になっていた。毎回ギリギリで負かされるのは癪なので、一局だけでも勝って鼻を明かしてやりたい。


 マルタも当然、そんな僕の考えを見透かしているのか、回を追うごとに接戦度合が増していく。つまり、完全に遊ばれていた。



 それから更に数時間、はたして僕が勝つことは一度もなかった。


「ふっふっふ、結局マルタの全勝だったね」

「無理だ……勝てる未来が見えない」

「マルタは視えるよ、未来」

「未来演算ジョーク?」

「そう、面白い?」

「好き」


「……ねえ、今日泊まっていかない? もうこんな時間だしさ」


 マルタはチェスボードを端へ避けると、声色を変えてそう訊いてきた。


「うーん、宿屋で待ってる人がいるから難しいかも」

「それならだいじょーぶ、マルタに任せて」


 すると、マルタは一瞬の内にその場から姿を消した。



 暇なのでマルタの部屋を見て回っていると、デスクの上に大量の機巧らしきものと、一枚の写真が伏せるように置いてあった。


 別に隠してあったものでもないので、僕は躊躇なくその写真を表にしてみる。


 そこにはマルタであろう女の子と、似たような年齢の子供たちが写っていた。

 子供たちの後ろには、今のマルタと同じような白衣を着ている男性がおり、(みな)楽しそうな表情を浮かべている。


 ……なんだろう、この違和感は。もしこの写真を見ているのが僕でなければ、その違和感の正体に気付くことが出来たかもしれない。


「……」


 何年前の写真なのだろうと思い、写真をよく見てみると、その端に文字が綴られているのに気付いた。


『2XX8/04/09−“末日”』


 それは今から七年と三ヶ月くらい前の日付。マルタは今十四歳らしいので、この写真を撮った当時は七歳ということか。


 末日……一般的にそれが意味するのは“月の終わり”だけど、この日付は月の終わりどころか始まりだしな。


 このメモを残した本人でもないので、その言葉の真意を汲み取れるはずもなく、僕は考察を断念することにした。


「ただいまー、てあれ? どうしたの、そんなところで」

「ああ、おかえり。暇だったから、ちょっとね」

「そっかー。あ、そうだ、許可取ってきたよ」

「許可?」


「そう。影の魔人さんに会って、“一日だーりんをお借りしても良いかな?” って」

「……許可は降りたの?」

「ううん、全然。だから、一つ()()をして許可してもらったの」


「約束?」

「うん、でもだーりんにはヒミツだよ」


 僕のあずかり知らないところで何かしらの約束が成立していることに不安を覚えたが、ラティのことだし、特に心配する必要もないだろう。


 でも、一人にさせちゃったのは申し訳ないな。帰りに何か買っていこう。


「そういえば、ベッドってどこにあるの?」

「わお、気が早いね。もしかして期待してた?」

「どこで寝てるのか気になっただけなんだけど……」


 先ほど部屋を見て回ってたときに、僕は寝具がないことに気付いた。あるのは機巧と、散らばった書類だけ。


「マルタは寝なくてもへーきだから、ベッドは置いてないんだよね」

「そうなんだ、それなら仕方ないね」


 寝なくても平気という言葉の真偽はともかく、僕はとりあえず上着を脱ぐことにした。


「わ、わー……ち、ちょっと待ってね。マルタ、まだ心の準備が……」


 分かりやすく動揺するマルタ。

 正確には本人ではなく、尻尾に動揺が表れていた。


「あ、これを床に敷いて寝ようと思ってたんだけど、もしかしてなんかマズかったかな」

「……」

「……」


「……もしかして、マルタを揶揄(からか)ってるの?」


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