【第62話】超A級ダンジョン、その存在理由。
「災難だったね、まさか十層のボスが悪夢だなんて……ボクとラティちゃんには効かなかったみたいだけどね」
「本当に助かりました。もしユナさんも悪夢を見てたたら危なかったですよ……僕の命が」
「あはは……悪夢本体はそんなに強くないんだけど、油断すると全滅とかザラだからね」
実際、このダンジョンに潜っていたのが僕とレンだけだったら、かなりヤバかったと思う。
それと、この霊剣アストベルグ。悪夢のような霊体の魔物に特攻効果を持っているらしく、二体目はこれで攻撃してみたが、かなりの効果だった。
そして『影嵐』。これを語るにはまず、この『剣糸』から話さなければいけない。
これは僕が考案したもので、糸を剣に結び付けて動かすことで剣のリーチと扱える剣の最大本数を補うことができるという画期的な技だ。デメリットとしては、直接手で扱うより威力が下がってしまうこと。
影嵐は、剣糸を最大限活かすために生み出した技で、影嵐自体は影刃を付与した影蜘糸を振り回して攻撃するというただただ暴力的な技。
剣糸と併用することで威力の底上げや、攻撃のタイミングや威力にムラを出すことでウザさを増すことが出来るというわけだ。
「十層のボスも倒したことだし、冒険者の皆を呼びに行ってくるよ!」
ユナさんが冒険者たちを連れて来ると、いつの間にか現れていた扉の先へ進んでいく。
その部屋の中央には宝箱、その横には魔法陣が描かれていた。
「まさか、生きてる内に超A級ダンジョンの最下層をお目にかかれるとは……」
「ライゼンさん達が来なければ、俺らの冒険者人生はあそこで終わってただろうしな……」
「じゃ、君たち。それは持って帰っていいから、気を付けて帰るんだよ!」
と言うのも、冒険者たちには持っていた荷物をそのまま譲ることにした。
僕もレンもそれほどアイテムに興味はなく、気になるものは自分で持っているので特に問題はなかった。
「ええっ!? 助けてもらったのに、その上こんな……」
「いいからいいから。その代わり今日のことをしっかり反省して、もし誰かが君たちと同じ轍を踏みそうになってたら、絶対に止めてあげてね!」
強く念を押すユナさん。
「分かりました! ありがとうございます!!」
冒険者パーティのリーダーのような男は、深くお辞儀をすると、こちらへ向き直る。
「お二人も、本当にありがとうございました! お二人の活躍、知り合いの冒険者にも伝えておきます!」
「……それはしなくてもいいかな」
「それでは御三方、お先に失礼します!」
十数名にも及ぶ冒険者パーティは、魔法陣に乗ってその場から姿を消した。
「それじゃ……宝箱、壊しちゃおっか」
「そうですね、僕がやります」
僕はグレリアスで容赦なく宝箱を叩き斬った。
「よし、行こっか。十一層……本当の最下層に」
「……」
宝箱を壊すと、魔法陣の奥に階下へ繋がる階段が現れる。
まさか、君たちは超A級ダンジョンがこれだけとか思ってたりしないよね?
(一体誰にマウントを取っておるんじゃ……)
実は、この十一層の話はダンジョンの途中でユナさんから聞いていた。
S級冒険者が世界中で活躍しているというのに、目撃情報が極端に少ない理由。そして、明確が基準のないというのに、何をもって“A級上位”とされているのか。
階段先の部屋にある魔法陣。その魔法陣を踏んだ先には、先ほどまでのダンジョンとはまるで雰囲気の異なる空間が広がっていた。
「ようこそ、ボクたちの秘密基地へっ!」
▼ ▲ ▼
〈冒険者ギルド〉、これがこの秘密基地(?)にいる冒険者が所属する組織の名称らしい。
具体的な活動内容は、異変を事前に察知して未然に防ぐというもの。そして、この冒険者ギルドに所属している冒険者は、全員がA級上位だという。
そう。A級上位とは、各地にあるいずれかの超A級ダンジョンを突破し、この場所に辿り着いた者たちのことである。
つまり、超A級ダンジョン自体がこの冒険者ギルドに為に造られたものだったのだ。
「あら、もう連れて来たの? いずれって話だったけど、まさか今日だとは思わなかったわ」
「やっほーノアちゃん! 二人ならもう大丈夫かなって思ってさー」
「ふーん……ま、ユナがそう判断したなら問題はないんでしょうけど」
朝から姿を見てないなとは思っていたが、どうやらここにいたらしい。話の流れ的に、てっきりまだ寝ているものとばかり……。
「君が噂の新人くんだね。こんにちは」
「あ、先生! 二週間ぶりだね」
「やあ、ユナ君。元気そうで何よりだよ」
現れたのは白衣を着た男性で、長い髪を後ろで結っていた。そこそこ若いようだけど……先生って呼ばれてたし、医者の方なのかな。
「紹介するよ、この人はDr.セト! 回復魔法とか、そっち方面のプロフェッショナルなんだよ!」
「初めまして」
「初めまして。何か困ったことがあれば、僕の所に来るといいよ」
レンの方を見てみると、分かりやすく萎縮していた。初めての場所に、初めて会う人、仕方ないか。
「じゃ、二人共また後でね。先にマルちゃんとギルくんを二人に紹介してくるから」
「ああ、ギル君は今外にいるよ。緊急の依頼みたいでね。もうすぐ帰ってくるんじゃないかな?」
「えーウソ、この時間は空けといてって言ったのに! 気が合いそうだし、ハルくんに会わせたかったんだけどなあ……仕方ないから、先にマルちゃんだけでも紹介しとこうかな」
「マルタは最優先で紹介すべきでしょ?」
と、若干怪訝そうな表情をするノアさん。
「いや〜見せたいじゃん? ギルくんのアレ」
それから僕とレンは二人に会釈をした後、ユナさんの後ろをついて行った。ノアさんとは話したい事があるし、また後で会いに行こう。
「……」
「レン、大丈夫? ずっとソワソワしてるけど……」
先ほどから、レンの視線が度々僕の影に向けられているのに気付いた。何か気になることがあるのだろうか。
(さあな、慣れぬ場所で落ち着かないだけじゃろ)
「あ、はい! 全然大丈夫です……!」
本人がそう言ってるならいいか。
(……)
「二人共、何か訊きたいことある?」
「さっきのセトさんもA級上位の冒険者の方なんですか?」
「そうだよ! 先生はね、元々町医者だったんだけど、幼馴染に誘われて冒険者になったらしいよ。誘われてというか、ほぼ強制だったって聞いたけどね」
町医者から冒険者ってすごいな……しかもA級上位の冒険者ときた。
「あの……もしかして、世界中の超A級ダンジョンからこの場所に繋がるんですか?」
と、レンが訊く。
「うん、超A級ダンジョンはボクたち……というか、マルちゃんが作ったものだからね。自然に湧いてる超A級ダンジョンなんてボクは見たことないかなあ……無くはないかもしれないけどね」
「そういえばさっき、僕と気が合いそうって言ってましたけど……どんな人なんですか?」
「んーとね、一言でいえばめちゃくちゃ良い人かなぁ。熱血で情に厚くて実力もある、物語の主人公みたいな人!」
すごいなそれは……是非とも会ってみたい。
「今から会いに行くのはマルタっていう子でね、小さい女の子だけどそりゃもうすごいんだから!」
目的の場所に辿り着いたらしく、ユナさんが扉を開ける。一体、どんなすごい子なんだろう。
「マルちゃーんっ! 連れて来たよー!」
その扉の先は別世界かと思うくらいに散らかっており、足の踏み場もないような状況だった。
そして、その散らかった部屋の真ん中に一人、女の子が寝そべっている。
何があったのか彼女の服は随分とはだけており、
「えっ、下着──」
突然、視界が誰かの手によって閉ざされる。
「……何も見えないよ、レン」
「見なくていいですっ!」
「ちょっとマルちゃん! 人来るって言ったじゃん!」
「んあ……あ、そうだった。忘れてたー」
僕の見間違いでなければ(数秒しか見てない)、彼女には獣耳と尻尾が付いていた。
つまり、その少女は獣人族だった。




