【第59話】冒険者、ダンジョンに入る。(4)
「何ですかその顔は……」
ダンジョンに入ってから休まず戦い続け、十層のボス部屋まで辿り着いた僕たちは、暫しの休憩をとっていた。
ユナさんはというと、なぜだか膨れっ面をしている。
「だって、簡単に攻略しすぎだし! 二人とも、短時間で強くなりすぎだし! あと敬語に戻ってるし!」
「良いことじゃないですか」
ちなみに、ユナさんにタメ口を使うと何故だが心がザワつくので辞めることにした。
「良くない! 二人共、全然ボクを頼ってくれないじゃん!!」
「居てくれるだけでも大分気が楽でしたよ」
「そうですね、いつもよりとてもやり易かったです」
「ホント? そんな調子のいいこと言っちゃって、面倒臭いからって適当言ってるんじゃないの?」
「そんなことないですよ! ね、ハルお兄さん?」
「そうなの?」
「……まあ、はい」
「ちゃんと目を見て言おうねー?」
「い、痛いれふ……」
ぐぐぐ、と両手で顔を挟まれ、背けていた顔を無理矢理戻される。
「君たち、このダンジョンに入る前より何倍も強くなってるね。ハルくんに至っては、最上位魔族って言われても信じちゃうくらいだよ!」
と、なんだかんだ言って嬉しそうなユナさん。
そういえば、僕みたいな亜人族の上位種って何になるの? スライムなら、キングスライムとかスライムロードとかあるけど。
(うむ、何に近いかによるじゃろうな。お主の場合は魔神が妥当ではないか?)
「理由は分からないんですけど、いつもよりステータスの伸びが良い気がするんですよね……」
「……」
(もしかすると、お主の“成長者”は周囲にも影響を与える可能性があるのかもしれぬな)
僕もそう思う。というか僕が知らないだけで、この成長者にはまだ何かありそうなんだよね。
(ほう、その心は?)
ただの勘かな。
(……まあ、可能性がないわけではないな。特殊スキルというのは文字通り“特殊”故に、すべてが未知数じゃからな)
あ、そうだ。ここに来るまでに結構な数のスキルを習得したから、ちょっと確認してみようか。
まず、二層のボス“キングボア”を倒したときに習得した『物理耐性』、これは物理耐性・小が進化したやつ。もう一つは『頑丈』。これは防御力の上昇と、攻撃を受けたときに体勢を崩しにくくなるというものだった。
次に、三層のボス“グレート・リッチ”を倒したときの『全属性魔法耐性・微小』と『全属性魔法強化・微小』。これは文字通り。
三つ目は、四層のボス“海竜シードラン”を倒したときの『水属性耐性・小』と『水中移動速度上昇』。
水に浮かぶ足場の上で戦うあれ、ちょっと楽しかったな。
四つ目は、五層のボス“イフリート”を倒したときの『火属性耐性・小』と『鎮火』。これは一定の威力を下回る火属性魔法を、触れることで打ち消すことができるというスキル。
どうやら魔法以外の火・炎にも作用するようで、意外と使い道がありそうだった。
五つ目は、六層のボス“魔物の大群”の『魔物特攻・微小』。
影蜘糸で大群を一掃したので、技の精度も上がったと思う。
六つ目は、七層のボス“武器の亡霊アルリット”を倒したときの『斬撃系攻撃威力上昇・小』と『霊剣アストベルグ』の入手。霊剣は今、僕の腰に提げている。
七つ目は、八層のボス“百腕のヘカトンケイル”を倒したときの『重撃』と『魔物特攻・小』。これはさっきの魔物特攻・微小が進化したもの。
重撃は、直接物理攻撃の重さ、つまり威力が増すというシンプルなものだった。
最後は、九層のボス“雷獣テルトレネル”を倒したときの『雷属性耐性・小』と『帯電』。
これは微弱な電気を全身に流し、反応速度と身体能力を上昇させるというスキル。どうやら雷属性の攻撃を受けるとしばらく効果が上昇するらしい。
大体こんな感じ。ちなみに、『頑丈』『鎮火』『重撃』『帯電』は、耐性系スキルや強化・上昇系スキルと同じパッシブスキルなので、詠唱の必要はないらしい。
(改めて、かなりの量じゃな……)
それだけ倒したからね。どのボスも強かったし、多分僕一人じゃ勝てなかったと思うよ。
ユナさん曰く、このダンジョンに出てくるボスは実在している、もしくはしていた魔物の模倣らしく、実物というか、本物ではないとのこと。
◯ ● ◆
見てこれ、古龍ガルグ。
(おお、やるな。よく似ておるわ)
やることもないので影蜘糸で色々なものを作って遊んでいると、
「よしっ! それじゃあそろそろ出発しようか!」
ユナさんが両手をパチンッと合わせてそう言った。
休憩時間は終わり、いよいよボス部屋に入ることになった。
まず僕たち三人が部屋に入って、ボスを倒したら冒険者たちを呼びに行く。この方法ならボスを復活させず、かつ安全に冒険者たちを先に進ませることができる。
僕が扉を開けると、そこには闇。一寸先は闇というか、たとえでもなんでもなく、文字通りなんにも見えなかった。
「これ、入っても大丈夫なやつですか?」
「んー分かんない! 多分大丈夫だと思うよ」
「……」
そこは嘘でもいいから「絶対に大丈夫」って言ってよ。
一抹どころか五抹くらいの不安を抱えながら、僕はその闇の中に足を踏み入れる。
中を歩き始めて数秒後、フワッと身体が宙に浮いているような感覚に陥る。
「……浮いてるっていうか──落ちてない?」
この臓器が浮く感覚……間違いない、僕は絶賛落下中だ。
ミラからちゃんと浮遊魔法を教わっておけばよかったな、とか考えていると、突然辺りが光に包れ、不意打ちを食らった僕は眩しさに思わず目を閉じる。
明るさに目が慣れ、改めて周囲を確認すると、目の前には全くと言っていいほど見覚えのない家屋が建っていた。
「……どこだここ」
何がどうなってるんだこれ。ラティ、分析よろしく。
……ラティ?
しかし、その呼び掛けに応えたのはラティではなく、別の誰かだった。
「ハル、家の前でぼーっとしちゃってどうしたの?」
その声は聞いたことがないはずなのに、とても温かく懐かしい。
「……」
間違いなく、記憶にない状況。
だけど、僕には分かる。
これは、僕の失くしていたはずの記憶だ。




