【第57話】冒険者、ダンジョンに入る。(2)
『爆・影刃斬り』
僕は勢いよく跳躍すると、振り下ろされたギガンテスの拳目掛けて全力の攻撃を繰り出す。
衝突によって生じるとてつもない轟音、数刻の後に再び爆発音が鳴り響く。
振り下ろさた拳は数秒停止、しかしギガンテスはそのまま拳を最後まで振り抜くつもりらしい。威力はかなり減少しているだろうが、それでも面倒なことには変わりない。
『影縛り』
僕は落下しながら影の糸をギガンテスの胴体に引っ掛けて、重心を下げて加速しながら弧を描いて上昇する。
「はぁっ!」
ドンッ! という鈍い音が聞こえたかと思うと、ギガンテスの腕は空中で静止していた。
不思議なことに、その腕は徐々に上方向へ押し戻されているようだった。
「ハルお兄さんっ! 後はお願いします──!」
え、あれレンがやってるの? 空を飛べるから滞空は良いとして、あれと力が互角なのは怖すぎるって。
まあでも任されたからには、やらなきゃな。
『月詠』
──そして、暗転。
屋内で使えるか多少の不安があったが、上を見てみると、そこには確かに月があった。
限界まで上昇した僕は剣に魔力を込める、それも火、水、風、地、光、闇の基本属性すべてを。これは初めてやるやつだけど、多分成功すると思う。
『──影華』
あちこちに張り巡らせた影の糸を足場にし、空中を縦横無尽に跳び回り、ギガンテスに無数の太刀を浴びせる。
身体能力の超上昇、そして超加速に筋力上昇、あらゆる強化での全力攻撃……その間、わずか五秒。
──月が沈む。
地面に着地して数秒後、ギガンテスの全身は色とりどりで美しく、しかし常人では到底数えきれないほどの斬撃に見舞われる。
「グアアアアアッ……!」
流石に応えたのか、ギガンテスは膝をつく。こうなれば、後は簡単。
『──影刃斬り』
僕は再び上へ跳躍し、ギガンテスの首に着地すると強烈な一撃を繰り出す。
しかし予想以上に首は硬く、一発で斬り落とすことは出来なかった。
『龍の一撃!』
背後から突然声が聞こえたかと思うと、レンがギガンテスの後頭部に向かってパンチを繰り出しており、その勢いでギガンテスの頭部は華麗に前方へ吹き飛んでいった。
「えっ、えぐ……」
──ドガァァァンッ!
吹き飛んだ頭が壁に衝突し、凄まじい音が鳴り響く。
まもなくギガンテスの身体は消滅し、それに伴い僕も地面に飛び降りる。
──サァァァァ……
拍手の音が聞こえて来たかと思うと、ユナさんが輝くような笑顔でこちらに走って来る。
「なに今のっ! あんなの初めて見たよ!!」
「極東の国にある“花火”とやらをモチーフにしてみました」
「あー繚苑の! あの国の文化はすごい面白いよね〜」
と、いうわけでこれが僕が考えた必殺技だけど、どうだった?
(威力もさることながら、必殺技の名に恥じない派手さで良かったぞ。だが、如何せん発動に時間が掛かりすぎるのではないか?)
たしかにその辺は要改善だね、既に案は幾つかあるんだけど。
【──ステータス加速上昇:筋力・防御力・敏捷性・魔力・体力】
【──相伝スキル『影術:影縛り』は、レア相伝スキル『影術:影蜘糸』に進化しました】
……案が増えたね。
(……)
「お疲れ様です、ハルお兄さん!」
立派な龍の翼を羽ばたかせながら、レンが戻って来る。やっぱり、空を飛べるっていうのは大分アドバンテージだよな……近接主体のレンなら尚更だ。
「うん、レンもお疲れ様。それにしてもすごいパワーだね」
「えへへ……ありがとうございます。まだ完全に扱えるというわけではないんですが……」
「まだまだ伸びしろがあるってことだよ! 今はまだ成長期だよ、成長期!」
そう、これからまだ伸びるっていうんだから本当にすごい。僕が言えたことじゃないかもしれないけど。
(全く以てそのとおりじゃな)
僕たちは、ギガンテスの討伐によって現れた階下へ繋がる階段を降りて行く。
先ほどとはまた違った雰囲気の迷宮エリア。今度は自然、というか森林がテーマなのだろうか。
「──おいお前ら! 人が……人が来たぞ!!」
「た、助かった……てっきりもう駄目かと……」
「本当に良かった……!」
二層に足を踏み入れた途端、辺りに十数名の冒険者らしき人たちがぞろぞろと集まって来た。
「え、何これ……」
僕がユナさんに視線を送ると、
「あー、多分あれだよ。帰れなくなっちゃったパターン」
……帰れなくなっちゃったパターンって何だ?
(この様子じゃ、数だけ揃えてこのダンジョンに潜った結果、なんとか一層は突破出来たもののこれ以上先にも進めず後戻りも出来なくなったのじゃろうな)
そんなことあるんだ。普通に戻ればすぐに帰れるんじゃないの?
(ダンジョンというのは、完全踏破して出口に飛ばされるか、再びボスを倒して戻るしか帰還する手段がないんじゃ。ボス部屋に人が居なくなれば、すぐに復活するからな)
要するに、彼らは一層をギリギリで突破したけど、消耗が酷過ぎて戻ろうにも一層のボスが倒せないから詰んでたってことか。ボスを倒した時点で帰ればよかったのに。
(ま、大方ボスを倒して調子に乗ってしまったといったところじゃろ)
「もしかして、S級冒険者のライゼンさんですか!?」
「俺、本物初めて見た……オーラが見える……!」
流石ユナさん、人気者だな。
「……君たち、どれだけ無茶なことしたか分かってるの? このまま死んでたかもしれないんだよ?」
お、ユナさんの説教が始まった。面白そうだから眺めてよっと。
近くにあった倒木に腰を掛け、両足の間にレンをちょこんと座らせて成り行きを観察することにした。
「だって、超A級ダンジョンにはすごく希少な財宝が……」
「“だって”じゃないよ! 君たちのパーティにはA級上位の冒険者が一人もいないじゃないか。言っておくけど、超A級ダンジョンはそんな優しい世界じゃないんだよ」
思ったよりガチ説教だな……あれは完全に彼らの自業自得だし、擁護のしようもない。
ちなみに超A級というのは、またの名をA級上位であり、冒険者でいえばA級の中でも群を抜いた実力を持っている人たちのことを指す。身近な人物だと、ミラがそれに該当すると思う──戦ったことないから多分だけど。
「ホント、無事でよかったよ。これに懲りたら、二度とこういうことはしないでよね!」
「はい……」
十数名の冒険者たちは、S級からのお叱りにすっかりへこんでしまっていた。
「あんなに怒ってるユナさん、初めて見ました……」
「そうだね。まあ、彼らの為を思ってのことなんだろうけど」
「お待たせ、二人共! たまにあるんだよね、こういうこと。まったくもう、もっと自分の命を大事にしてほしいよ」
「えっとそれじゃあ、中ボスを倒しに戻りますか? 僕はそれでも構いませんけど」
僕がそう言うと、ユナさんは首を横に振った。
「ボクが彼らを送り届けてくるよ、二人に悪いし」
「……え、今更気を遣うんですか? 超A級ダンジョンに放り込んでおいて?」
「うっ、それは確かに……でも、それならタメ口も無しじゃない? ボクたち、もう気を遣い合うような関係じゃないってことだもんね?」
「たしかにそれもそうですけど──」
「はい、それ敬語です! 今すぐ敬語を止めなければ一生気を遣い続けることを宣言します!」
何だよその脅し文句。
でも、正直しんどいんだよなそれ。
「わ、分かったよ……」
「ふふん、それでよろしい」
(……お主よ、態々上に戻らずとも、さっさとここを踏破した方が早いのではないか?)
……たしかに、それで良いじゃん。




