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影の冒険者、最強を目指す。 〜影の魔人と契約した僕は、最速で世界を駆け上がる〜  作者: ねひつじ
三章 魏刹編・前

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【第54話】冒険者、束の間の休息。(1)


 「ふぁ……おはよ、ラティ」


(早いな、よく眠れたか?)

「良い感じ」


 僕たちは次の日、神洛山近くの〈太珪(タイケイ)〉という街で目を覚ました。


 流石大国と言うべきか、首都でない街ですらかなりの大きさを誇っていた。先日の作戦に参加していた冒険者の大半はこの街で宿を取ることが出来たくらいだ。


 早朝、僕は観光ついでに散策しようと、変装魔法で角を隠してから街へ繰り出した。

 見慣れない景色に知らない文化──美味しい食べ物を探すのも楽しそうだな。


「げっ……」


 しかし宿から出ると、早速見覚えのある赤髪の冒険者。どうやら出待ちされていたらしい。


「ちょっと! “げっ”て何??」


 おっといけない。昨日、こってり絞られたばかりなので反射で口から出てしまっていた。


「いえ、何も……おはようございます、ユナさん」

「……うん、おはよう」


 ちょっと不服そう。


「今日暇ならさ、一緒に見て回らない? オススメのお店とかあるよ!」

「え、いいんですか?」


 それは願ってもない申し出だった。剣も新調したいし、折角ならユナさんにアドバイスしてもらおうかな。

 一人より二人、以前の僕ならこんなことは考えもしなかっただろう。


(ああ、そういえば一人の方が気楽とか言っておったな)

 よく覚えてるな、いつの話だよ。

(言うほど前ではないが……)


「わたしもご一緒してもいいですか?」


 その声に振り返ると、そこにはレンがいた。


「もちろんだよ。あの二人はまだ寝てるの?」

「はい、恐らくは」


 二人共昨日は頑張ってくれたし、しっかりと疲れを取ってほしい。


「ノアちゃんも起きるの遅い方なんだけどさ、もしかして魔法使いって皆そういう感じなのかな?」

「もしそうなら面白いな……」

「ふふ、要検証ですね」


 今度フェイにも聞いてみよう──あ、そういえばフェイも頑張って付いてくるって言ってたけど、どうなったんだろう?


 その旨をユナさんに伝えると、


「フェイちゃんはもう少ししたら来るって言ってたよ。ボクがデルクまで迎えに行くんだ」

「それなら僕も付いて行きますよ。途中まで一人じゃ寂しいでしょうし」

「気遣いの出来る男、素晴らしいっ! でも大丈夫だよ。折角魏刹に来たんだし、しっかり楽しんでほしいからね!」


 どこまで良い人なんだろう、この人は。絶体絶命のピンチにも駆け付けてきてくれそうだな。



 それから暫く街の中を歩いていると、やたらと冒険者が多いことに気付いた。昨日の事件の影響かと思ったが、元々太珪は魏刹の中でもそこそこ冒険者活動が活発らしい。


「太珪の近くにはダンジョンが出来やすいので、その影響ですかね?」

「あー、ダンジョンか……僕、行ったことないんだよね」


 ダンジョン──それは、強力な魔物の魔素によって現れ幾重(いくえ)もの階層からなる、いわば地下迷宮のようなもの。

 ダンジョンのレベルにもよるが、最下層まで行けば非常に価値の高いものが手に入るという。


「えっ、そんなに強いのに? もったいないなあ、今度一緒に行く?」

「ユナさんがいるとすぐに終わりそうなので遠慮しときます」


 でも、どうしてこの辺にはダンジョンが多いんだろう。古龍の魔素の影響ってことはないはずだし。


「そうですね。たしかにお父さんのいるあの場所の地下には大きなダンジョンがありますが、この辺りのものは関係ないと思います」

「ああ、あの神殿っぽいとこ……」


 古龍ガルグの魔素から出来たダンジョンとか、どんな高難易度ダンジョンだよ。第一層でも即死とかあり得るんじゃないか。


(今度行ってみぬか?)

 いつかね。


 山登りから始まるの結構ヤバいんだよな。


「今度、適当なダンジョンに乗り込んでみようかな」

「まずはそのために、武器や道具を揃えないとね!」


 ということで、気付けば僕たちは大きな武器・防具屋の前にいた。多分、ユナさんはダンジョンの話題が出た辺りからここに来るつもりだったのだろう。


「……ガイドとか向いてるんじゃないですか?」

「ふっふっふ、熟練の冒険者になればこれくらいのことは造作もないのだよ」

「流石S級冒険者さんですね……!」

「レンに適当なこと吹き込むのやめてください」


 建物の外観通り、中は広く、かなりの数の冒険者がいた。どうやら、様々(さまざま)な職業に合った装備を置いているらしい。


「ここは太珪で一番人気(ボク調べ)のお店なんだよ! ここはいろんな人が集まるから、出会いが多いんだ〜」

「出会い、ですか……」


 ここにいるのは大体C〜B級の冒険者、それにほとんどがパーティで訪れているようだった。

 既にパーティを組んでる冒険者に話し掛けられるほど、僕のコミュニケーション能力は高くないんだけど。


「あ、あれっ……昔と比べて一人で来てる人が少ないなー……」

「……」

「あはは……」


 あはは、ってなんだよ。


「だ、大丈夫ですよ、レンがいますから……」

「……そうだね。そもそも、僕にはもう仲間がいるんだから、出会いなんて必要ないじゃないか」


 別に、あわよくばここでパーティメンバーを探して一緒にダンジョンに行こうとか、思ってなかったけど?


(誰に言い訳しとるんじゃ、お主は……)


「レンは良い子だね、一緒に見て回ろう」

「ま、待ってよー!」



 店内をいろいろ見物して回っていると、こちらに視線が集まっているのを感じた。


 原因は考えるまでもなく明確。


「おっ、これ新しいの出たんだ〜」


 と、ユナさんは商品を手にとってそう呟く。


 この人目立つなあ……S級冒険者だからということは言わずもがな、まあまあ珍しい格好だし。


「……」


 そんな視線をユナさんに送っても、ニコニコの笑顔が返って来るだけだった。


「ライゼン様の横にいる男知ってるか……?」

「いや、知らないな……どういう関係なんだ?」


 ……居た堪れないんだけど。

 別に誰が悪いってわけでもないし、仕方ないか。


「君たち、どうしたの? ずっとこっち見てるけど──あ、サイン欲しいの?」


 いつの間にか、僕の後ろにいたはずのユナさんが冒険者に絡んでいた。アグレッシブすぎるだろ。


「あっいや、あそこの人ってもしかしてパーティメンバーなのかなって思いまして! あ、サインは欲しいです!」


 ユナさんは僕たちの方を見ると、「あ〜」という表情をする。


「友達だよ、友達! 今日は暇だから、一緒に買い物に来たんだ」


 そう言いながら、その冒険者の鞄にサインをすらすら〜っと手慣れたような速度で書き終えるユナさん。

 サインって、やっぱり鞄とかにするのが王道なのか。


「あっ、ハルお兄さん、これ見てください!」

「ん、どれどれ……」


 やっぱり、僕とは住んでる世界が違うんだな。僕の知らないところで、途方もない量の任務や依頼を熟して、死線を幾度となく越えてきたんだろう。


「ごめん、ボクのせいで嫌な思いさせちゃったかな」


 冒険者と話し終え、こちらへ戻って来たユナさん。

 僕としたことが、気を遣わせてしまったようだ。


「まさか。寧ろ、“羨ましいだろ!”って感じですよ。もっと目立ってください」

「……そっか、ありがとね」


 たとえ、僕の知らない一面が無数にあったとしても、僕はそれを知りたいとは思わない。知らない一面、僕には見せない一面を含めて、僕の知っている彼女なのだから。


 人は誰しも、他者との関わりの数だけ面というものを────。


(待て待て、以前にも全く同じようなことを言っておったぞ。好き過ぎるじゃろ、そのフレーズ)

 あれ、そうだっけ?


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