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影の冒険者、最強を目指す。 〜影の魔人と契約した僕は、最速で世界を駆け上がる〜  作者: ねひつじ
三章 魏刹編・前

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【第53話】冒険者、依頼完了。


 「はーいみんなー! 落ち着いてーー!!」


 ど、どうしてここにユナさんが? 約束の日はもう少し後のはずなんだけど。そして何より、ノアさんがここにいることに驚きを隠せない。


「……」


 あっ、やばい……ユナさんと目が合った。めっちゃ何か言いたそうな顔でこっち見てる。


「おい、アレって……」

「調停者様じゃないかっ?!」

「その横にいるのも──」


 (みな)、その二人の登場に動揺を隠せないらしい。


 それもそのはず、この二人は大多数の冒険者にとって憧れの人なのだから。当然、それは僕も同じな訳で。


「ユ、ユナさんっ!」

「あっ、レンちゃん! ってその格好どうしたの!?」


 そう言ってこちらに駆け寄ってくるユナさん。


「あ、これは龍の心を継承した影響で……一応、元にも戻せますけど」

「可愛い! いいねー似合ってるよ!!」

「そ、そうですか? えへへ……」


 あの二人が来たならもう安心だ、直にすべて丸く収まるだろう。


 さてと、僕も早いところ退散しようかな。影の英雄は目立たない主義なんだ──。


ガシッ!


 と、その場を離れようとした僕の肩を、誰かが掴んだ。いや、それが誰かは分かっているんだけど、僕は敢えて振り向くことはしなかった。


 というか、直前までレンの所にいたよね? そこそこ離れてたはずなんだけど……?


「ハルくん、後でお話しようね!」

「今日は天気が良いですね、それじゃ」

「……雨降りそうだよ?」


 ぐぐぐ……と肩を掴む力が強くなり、どうしようもないので諦めることにした。


 魔神化してても普通に力負けするんだもんな。



「天黎。アナタ、まだ狙ってたの?」

「……俺は古龍ガルグの魔素によって国が脅かされていたから対処したまでだ」

「脅かされていた? あのね、言っとくけど古龍ガルグの魔素は一切周囲に影響を与えてないから」

「何だと?」


 やっぱりそうだったのか。翡翠の一族の仙術で抑えられていた古龍の魔素──それなのに外に影響を及ぼすなんておかしいと思ってたんだ。


「先日、俺が秘密裏に討伐した翼竜の変異種は魔素の影響を受けていたはずだが」

「ラスタリフの話じゃ、あれは第三者の介入があったらしいけど?」


 とりあえず、騒ぎになる前にラティを影に引っ込めよう。さっきまでは雰囲気で何とかなってたけど、改めてラティの存在を認知されるのはまずいし。


 二人の登場によって完全に毒気を抜かれたラティを、こちらに来るよう手招きをして影に押し込み、僕は魔神化を解除した。


(……不完全燃焼じゃ)

 勘弁してくれ、ラティが完全燃焼なんかした日には、山が一つ無くなっててもおかしくないんだから。


「それは魔素が与える悪影響については何の弁明にもなっていない。そもそも、古龍の魔素がなければ第三者の介入もなかったのだからな」

「その第三者の発生を防ぐ為に私たちみたいなのがいるんでしょ?」

「……解せんな。もし俺にお前のような力があれば、今すぐにでも天下を平定するだろう」


 天黎のその言葉に、「ふっ」と小馬鹿にしたように笑うノアさん。


「忘れてた。アナタみたいなのが出てこないようにするのも、私たちの役目だったわね」


 めちゃくちゃ険悪な雰囲気なんだけど、大丈夫かこれ。第二回戦の開幕とかやめてくれよ、本当に。


「ちょっと二人共! 喧嘩しに来たんじゃないんだからさー……はい、二人は今すぐ事態の収拾にあたってください!」

「あのユナさん……いつまで捕まってれば良いんですか、僕」

「えっ、そりゃお話が終わるまでだよ」


 助けて。


「あれ、アナタはあの時の……」


 ユナさんに引き摺られている僕を見て、ノアさんが言う。


「え、覚えててくれてたんですか?」

「この間、時臣から話があったのよ。ハルっていう子が注目株だって。それで思い出したの」


 あ、そういうことか。

 それに確か、ユナさんには言伝を頼んだんだった──ん、言伝?


「それで、いつか私に追い付くとか言ってたんだって?」


 うわー、言った。


「いや、それは言葉の綾というかなんというか……」

「なんで言い訳するのよ。私は応援してるわ」

「……え?」


「追い付くんでしょ、私に。勿論、追い付かれる気はないけど──宣戦布告されたからには、受けないわけにもいかないでしょ?」


 なんだそれ、カッコ良すぎるだろ!


「あの時と比べたら見違えるほど成長してるみたいだし、いつの間にか魔族になってるし……まあ、その調子で頑張ればユナくらいならすぐに追い付けるわよ」

「精進します!」


「えぇっ!? ボクだってハルくんに追い付かれるつもりはないよっ!!」


 そんなユナさんを見て、くすくすと笑うノアさん。

 二人はとても仲が良いんだな。


「ふう。天黎、とりあえず今日のところは諦めたら? お仲間さん方も、あまりやる気がないみたいだし……あ、アナタ一人で続けるつもりならどうぞご自由に。私が邪魔をしない保証はないけどね」


 ノアさんの言う通り、先ほどとは打って変わってピリピリとした空気は無くなっていた。

 戦いを続けるということは、S級冒険者二人を相手するようなものだから、仕方ない。


 それどころか、ミラとヨシュアにサインを貰おうとしている魔法使いや、ユナさんやノアさんに話し掛けたそうな雰囲気でこちらを見ている冒険者もいた。

 

「……朱雀、神洛山にいるすべての冒険者へ通達しろ。“現時点を(もっ)て特別依頼、古龍討伐作戦を終了とする。直ちに撤退せよ”、と」

「し、しかし本当によろしいんですか……天黎様」


「ああ、俺達の負けだ。これ以上はリスクとリターンが釣り合わない」

「……分かりました」


 朱雀は炎の翼を広げ、空へ飛び立って行った。

 あの人、天黎の前だと雰囲気が全然違うな。


「魔族の青年、それから影の魔人──俺は君たちに興味がある。いずれまた会うことになるだろうが……その時は改めて、対等な立場で語を交えよう」


「──そして、古龍の娘よ。今回の件は俺が早計だったようだ、すまない」


 それだけ言うと、天黎()()は背を向けてこの場を去って行った。


「……」


 レンは複雑な表情をしていた。その心中をある程度察することは出来るが、それを口にするのは野暮というものだろう。


「お疲れ様、レン」

「……はい。何から何までありがとうございました、ハルお兄さん」


 こうして依頼は無事に完了し、多くの人を巻き込んだ事件は幕を下ろした。



【──ステータス加速上昇・大:筋力・防御力・敏捷性・魔力・体力】

【──パッシブスキル『物理耐性・小』を習得しました】

【──『影の魔神化』の最大出力が“15%”になりました】



★ ◆ ★



 「よかったの? ハルくんの()について、何も訊かなかったけど」

「んー……そりゃ気になりはしたけど、何か事情があるんでしょ? マルタも把握はしてるだろうし、何も言わないってことは心配には及ばないってことよ」


「優しいね、ノアちゃん」

「私たちにはまだ戦力が足りない。あの子たちが仲間になってくれるなら、それに越したことはないわ」


 昼頃から絶えず立ち込めていた暗雲。

 雨が降り始めたのは、完全に日が沈んでからだった。


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