【第52話】武神、そして冒険者たち。
『覇道』
その両の瞳には菱形の模様が浮かんでいた。
天黎は構えを取る──。
「あれは……皆さん、攻撃に備えてくださいっ!」
『──瞬風』
気付けば天黎はミラの目の前まで接近しており、今すぐにでも蹴りを繰り出しそうな勢いだった。
「魔法使いは接近されてはいけない、これは常識だ──」
『外界を断つ氷の鳥籠』
『月詠──』
──そして、暗転。
月詠で一瞬だけ最高速度に達した僕は、素早くミラの前に飛び出し、天黎の蹴りを同じく蹴りで相殺、周囲に強烈な衝撃波が発生する。
「重っ──!」
なんだよこの蹴り、脚に1トンの重りでも入ってるのか?
背後に目をやると、ミラの周りには彼女を守るように氷で造られた鳥籠が出来ていた。どうやらヨシュアの魔法によるものらしい。
「ミラ、気を抜くな」
と、ヨシュア。
「……ワタシってお姫様だったっけ? これじゃ何もできないんだけど」
「大人しく守られててよ、魔法使いさん」
僕はそう言うと、一度天黎から距離を取った。
「はぁっ!」
その天黎の背後にはいつの間にかレンがおり、鋭い拳を繰り出していた。
しかし、レンの攻撃は天黎の腕で防がれる。またしても強烈な衝撃波、それはレンのその一撃の強力さを物語っていた。
『影掌底!』
僕はその隙を逃さず、素早く距離を詰めて技を繰り出す。
月詠で威力を底上げし、更に加速による最大速度で繰り出された最高威力の一撃──。
『流水』
にも拘らず、その一撃は軽く流されてしまった。
「速いが、まだ軽い」
腕を掴まれ、勢いを利用されて投げられた僕の身体は宙に浮き、思い切り地面に叩きつけられそうになる。
『“止まれ”』
「……!」
天黎の動きが停止した瞬間、地面にもう片方の手をつき、そのまま蹴りを繰り出す。結局、この蹴りも命中する直前で防がれてしまった。
──月が沈む。
「くっ……」
流石に限界か。
それに、反動のせいで月詠はもうこの戦いじゃ使えそうにないな。
「君も使えるのか」
「……何の話ですか?」
「その眼の話だ」
「眼……?」
反動によって生じた痛みの残った左眼に手を置く。
もしかして、天黎のあれも似たような力なのか?
「妾を前に雑談とは、いい度胸じゃな」
『影の踊り子』
『流水』
ラティの繰り出した無数の斬撃は流され四方に飛んで行き、命中した樹木を両断していた。
僕たち当たったらどうするんだよ……。
『失われた光』
「わっ、何も見えません……!」
「ちょっと、巻き込んでるわよ!」
突然、何かに腕を引かれる僕。
『影蝕』
『飛花流落』
闇に包まれていたその空間は次の瞬間、轟音と共に崩壊する。
ラティによって奪われた視界が元に戻ると、驚きの光景が広がっていた。
辺り一帯の樹木がすべて、綺麗さっぱり両断されていたのだ。
「彼女は本当にハルの仲間なのか?」
ヨシュアが言う。
次の瞬間、いつの間にか僕たち全員を囲んでいた鳥籠は、音を立てて真っ二つに崩れ落ちた。
「な、何が起きたんだ……?」
そこに立っていた天黎、その腹部には斬撃痕があり、血が流れていた。
「……防ぎ切れなかったか」
「誇って良いぞ、この技を受けて五体満足だった奴は貴様で三人目じゃ」
「まさか仲間すらも巻き込むとは──完全に予想外だった」
「当たらぬよう調整するつもりではあったが、その必要はなかったようじゃからな」
つまり、この鳥籠が僕達への攻撃を防いだってこと
か。
「この魔法が一撃で壊されたのは初めてだ。まだまだ改善の余地アリだな」
ヨシュアは言った。
さっき僕の腕を引いたのはヨシュアだったのか。流石の判断力だな。
「はあ……死ぬかと思ったわ」
「すごく怖かったです……」
今まで僕が見たラティの技の中で一番の大技だった気がする。
それに、天黎はどうやってあの攻撃によるダメージをあそこまで抑えたんだろう。
「さて、この状況でもまだ戦うつもりか?」
「ああ、俺はまだ生きているからな」
「お前のような奴は、そう遠くない内に死ぬぞ」
「承知の上だ。だが、それは今日ではない──」
『業火炎拳!』
その聞き覚えのある詠唱と共に現れたのは、四神の朱雀だった。
こちらへ向かってくる朱雀、真っ先に反応したのはレン──翼で朱雀の方へ一直線に飛んでいくと、相殺するように拳をぶつける。
「お引き取り願えますか……! 今、貴方と戦ってる場合じゃないので!」
「ちょっ、今カッコいい登場シーンだったのに!」
と、朱雀。
龍の心が馴染んで完璧に扱えるようになったら、とんでもないことになりそうだな。翡翠の紋章というのもまだ発現していないらしいし……。
「がっはっは! 漸く我らの出番のようだな!」
「もう一度戦う機会が訪れるとはな……白銀、琥珀!」
盾を持った大柄な男と先ほど戦った青龍が現れ、更に冒険者がこの三人に続くように集まってくる。
例の作戦に参加している冒険者全員というわけではないだろうが、それでもかなりの数だ。
「げっ、またアイツ? しかも玄武までいるし……」
「場所が開けて戦い易くはなったが、流石に数が多いな」
まだまだ冒険者が集まってくる可能性を考えたら、なるべく長期戦は避けなければいけない。
月詠が使えない今の僕で、どこまでやれる?
「決戦と行こう、影の魔人」
「ああ、幾らでも相手してやるぞ────」
「ストーーーーーーーーーップ!!」
その時、とても大きな声が響き渡った。
僕だけでなく、その場にいた誰もが動きを止め、その声の方を見る。
「何これ、どういう状況なの?」
僕は思わず息を呑む。
まさか、こんな場所で再会するとは思わなかったから。
そこにいたのは、S級冒険者のユナさん──そして、同じくS級冒険者のノアさんだった。




