【第51話】冒険者、合流する。
「気になったんだけど、ヨシュアって冒険者じゃないよね? なんか、雰囲気が冒険者っぽくないっていうか…… 」
急いであの二人の下へ向かう道中、現在に至るまでの大まかな経緯を伝えるついでに雑談をしていた。
「その通りだ。俺は魔導連盟に所属していて、普段はそこ経由で任務を受けている」
魔導連盟──冒険者にならない魔法使いは、そのほとんどが魔導連盟に所属している(例外はある)。
冒険者協会と比べて、より魔法に関する能力の専門性の高い任務が多い為、冒険者よりこちらを選ぶ魔法使いも多い。
近年、剣士や弓士がある程度魔法を扱うようになったのは、パーティ、ギルド単位の魔法使い冒険者の減少も背景の一つなのだ。
そして、魔導連盟にも冒険者協会と同じく、「級」が存在する。僕の記憶が正しければ、上から、プラチナ、ゴールド、シルバー、ブロンズだったはずだ。
「あと一つ、プラチナの上に“ダイヤモンド”というランクが存在する。ダイヤモンドになるには“創作の究極魔法”を習得する必要がある為、ほぼ伝説上のランクになっているが……」
究極魔法とは、魔法の中でも最も階級の高い文字通り究極の魔法。当然、それを使ってるのを目撃したことはないし、オリジナルなんて以ての外だ。
あの人なら或いは……。
「ここだけの話、俺はダイヤモンドを目指しているんだ」
と、ヨシュアは言った。
「応援してるよ。運の良いことに、ダイヤモンドランクの魔法使いの友人枠はまだ空いてるからね」
「ああ、その枠は俺が埋めてみせよう。俺も魔族の友人枠を埋めてもらったことだしな」
「アンタなら本当に成りかねないから怖いわ……」
それから少しして、焼痕のある木へ辿り着いた。これは僕が朱雀と戦った時のもの。
しかし、そこにあの二人の姿はなかった。
「……いない」
「戦闘中に場所が変わるなんてそんな珍しくもないわよ。天黎とあの子が戦って、この程度の損壊で済んでるのは不思議だけどね」
ミラの言う通り、辺りには一箇所だけ強くへこんだ地面があるが、それ以外に目立った戦闘痕はなかった。
ここで何があったんだ? 何があれば、あの状況でここで何も起こらずに済むんだ?
「……五人だ」
「え?」
「ここで戦っていたのは五人だ。異なる足跡が五つある」
五つ……? 僕と朱雀、そしてラティと天黎。
それじゃあ、あと一つは一体誰のものだ?
「先ほど聞いた話だと、ハルの仲間は小柄とのことだが──ここに残された小さな足跡には、靴を履いた者とそうでない者の足跡がある。君の仲間はどっちだ?」
「ラティは靴を履いてないはずだから……」
そして、思い当たる節が一つ。
小柄な人物で、尚且つここに現れる理由として納得がいく人物。
「レン……?」
僕はその思い当たる人物の名を口に出す。
「……あり得るわね」
「君たちに依頼をしたという少女のことか」
話が変に拗れてなければ、レンは既に龍の心を継いでいるはず──レンはここに加勢に来たのか?
「まずい、天黎の目的は龍の心だ。このままだとレンが危ない……」
「天黎が龍の心を? 一体何のために?」
「なんか、力を手に入れる為みたいなことを言ってたよ」
「ふうん? でも、龍の心を継承するには古龍と血が繋がってなきゃいけないのよ?」
言われてみればそうだ。龍の心は、レンのように血縁だからこそ継承可能なもので、天黎の龍の心を継承出来るとは思えない。
「天黎はそのことを知らない、もしくは何かしら別の方法を知っている可能性があるな」
「そうだね、まずはあの三人を探さないことには始まらない」
とは言ったものの、痕跡が完全に途切れてるんだよな。戦闘痕がどこかに続いてる訳でもなく、足跡もこの辺を境になくなってるし。
「……空中戦の可能性は? 僕はあまり空を飛んだ経験がないから、それがあり得るのかは分からないけど」
「まあ、無いとは言えないわね。でも、あの二人はともかく、天黎って空を飛べるのかしら?」
「別に空を飛ぶ必要はない、この辺りには木があるからな。太い枝を足場にして移動も出来るだろう」
確かに、わざわざ地面を歩かなくても良いのか。天黎なら、木の上でも空を飛んでるラティと戦えそうな気もする。
でも仮にそうだとして、空で戦闘が起きてれば僕やミラ達が気付かない訳ないんだよな。
「俺が見てこよう」
「ワタシも行くわ、それじゃお先に」
ミラは先ほどからずっと発動している浮遊魔法で空中へ身を繰り出した。
『銀翼』
ヨシュアは氷で出来た翼を創り出すと、同じように上へ飛んで行った。
そして僕は、羽ばたきによって生じた冷気に当てられる。
「寒……」
見たところ、あれは浮遊魔法と氷魔法を組み合わせた、いわばオリジナルの魔法──あの翼で空中動作の速度と精度を引き上げているのだろうか。
「さて、僕もいろいろ探してみるか──」
ピキッ……
「え?」
突然、目の前の空間に亀裂が入る。
「なんだろう、これ」
何を思ったのか、僕はその亀裂に手を伸ばす。
バリィンッ!!
しかし、その亀裂は僕が触れるよりも前に消えてしまった。
いや、消えたんじゃない──広がった亀裂が僕を呑み込んだんだ。
「ハルお兄さん!? どうしてこの中に……」
「おお、先刻ぶりじゃな。元気か?」
聞き覚えのあるその二つの声は、予想に違わずレンとラティのものだった。
「びっくりした……あ、お待たせ。僕は元気だよ、そっちは?」
「見ての通りじゃな」
「やあ、レン──え?」
僕は目を疑った。
だって、僕の目に映ったレンは知っているそれとは違ったから。
尖った耳に龍の角、それに翼まで生えていた。
「それ、どうしたの?」
「これは、えっと……龍の心を継承した影響で──」
あ、八重歯だ……可愛い。
「まさか、あの古龍に子がいたとはな……君は知っていたのだろう、魔族の青年」
そこにいたのは天黎だった。なるほど、三人はこの場所に移動したから痕跡が一切残っていなかったのか……ここが何処なのかはよく分からないけど。
「天黎さん、龍の心は諦めてください。僕たちが来た以上、レンには手を出させません」
「僕たちだと?」
──バリィンッ!!
『白い闇』
途端に視界が真っ白になる。
これは──雪?
『三位魔力砲!』
周囲に轟音が響き渡る。
「ああっ、頑張って作ったのに……」
魔法の衝撃に耐えきれなかったのか、先ほどまでいた空間は消失し、僕たちは元の場所へ戻ってきた。
どうやらあの場所は、レンが作り出した結界の中だったらしい。
「ごめんね、レン。ちょっとやり過ぎたみたい、ヨシュアが」
そう言って、帽子に少しばかり積もった雪をぱんぱんと払い落とすミラ。
「待て、俺は目眩ましをしただけだ。吹き飛ばしたのはミラだろう」
「また増援か……まったく、アイツらは何処で何をしているんだ」
ミラの魔法は直撃していたはずだが、天黎は傷一つない姿で現れた。
「うわ、噂通りの怪物じゃない……」
本人の目の前であまりそういうことを言わない方がいいと思うんだけど。
「白銀、君は冒険者側で参加していたはずだが?」
「わざわざ直接許可を貰ったのにすまない。だが正直、こちら側に付いた方が面白そうだった」
え、国主に頼んで許可貰っといて寝返ったの?
「君がそう判断したのなら仕方ない。君の意思は尊重するし、この特別依頼には君を引き留めるほどの魅力がなかったということなのだろう」
「だが────」
「……っ!」
先ほどと同じ、強烈な殺気が僕たちを襲う。
身体が痺れるようなとてつもない覇気。
「たとえ何人で来ようと、俺には勝てない」
『────覇道』




