【第47話】冒険者、そして冒険者たち。
「はい、大量の冒険者が神洛山の麓に集まっています! 恐らく、例の討伐作戦が開始されましたっ!!」
ざわざわと、動揺が広がっているのが見て取れた。
「予定通り、でしょ?」
元々、レンから話は聞いていたんだ。今来たからといって、別に不都合はない。
「そうね。どうせ、今日か明日には来るって話だったし。予定通り、ワタシとハルで百人ずつで行くわよ」
「はあ、なかなか骨が折れそうだ」
「古龍と戦うよかマシでしょ?」
「違いない」
僕とミラは伝令係の人に付いて行き、その場を離れた。
「ガルグとその娘よ。実のところ、貴様らがどうなろうと妾の知ったことではないが……」
「我が主様の期待を裏切るでないぞ──」
──シュンッ……
「……お父さん、私も行かなくちゃ」
『ああ、俺も漸く覚悟が出来た──』
俺も、そろそろ変わらなければいけない。
『──継承の儀を始めるぞ、蓮花』
シャトラ、お前は変わらないな。その異常と言ってもいいほどの、“主”に対する忠誠心は。
お前はどこまでも主の影であろうとする。主がそれを望んでいようが、いまいがお構いなしだ。
あの青年に誰を重ねている? 災厄の魔女か?
それとも……いや、いずれにせよ、だ。
俺が変わるように、時代も変わっていく。
世代交代だ、シャトラ。俺やお前の時代は、既に終わったんだ。
『……まったく、影の魔人とはよく言ったもんだ』
「お父さん、何か言った?」
『いや、何でもない』
あの二人の出会いが“運命の出会い”でないというのならば、俺はこの世界に運命の出会いなど存在しないと、断言出来る。
▲ ▽ ▲
「どうする? いっそ二手に分かれた方がよさそうだけど」
「ワタシはそれでも構わないわよ。もしワタシの方に天黎が現れたら、派手に魔法をぶっ放すから早く来なさいよ」
「了解」
ラティもそれで大丈夫? 天黎との戦闘、任せることになりそうだけど。
ラティ?
「あっ、さっきの場所にラティ置いて来ちゃった」
「ちょっと、何してんのよ」
「まあ、ラティなら僕のいる場所ぐらい分かるだろうし大丈夫か」
「貴方たちのことはよく知らないけれど、契約してるんならもっと大切にしなさいよ……」
「普段、滅多に影の外に出ないから完全に忘れてたんだよ」
それから、すぐに僕たちは二手に分かれた。
相手は僕たちの存在を知らない、これは大きなアドバンテージになる。うまく行けば、僕が認知される前にかなりの人数を持っていけるかもしれない。
勿論、みねうち。戦闘はやむを得ないが、命を奪うまでは出来ない。怪鳥と戦った時のように、作戦が終わるまで動けなくすれば十分だ。
ドオオオオオオンッ……!
「……」
なんだ今の爆発音。まさかミラ、早速天黎と──いや、流石にそれはないか。
……ってことは、片っ端から冒険者に喧嘩売ってるのか? 普通にヤバすぎだろ……いや、ミラにとって、あれが一番効率の良いやり方なのかもな。
僕たちが登ってくる時に通った道を、複数の冒険者が歩いて来ているのに気付く。
数は十五──先頭の剣士、あれは間違いなくA級冒険者だな。その後ろにいる魔法使いと弓士も恐らく腕が立つだろう。
だけど、僕相手に“先手を取られる”というのは、数の差を覆し兼ねないディスアドバンテージだ。
「僕も、僕のやり方で行かせてもらおうかな」
──サァァァァ……
空は既に、灰一色。
『潜影』
「それにしても四神、生で見ると迫力が違うな!」
「集中して、リーダー」
「それで言うならやっぱ天黎様だろ!!」
「はあ……まったく、二人はヨシュア様の良さをなんにも知らないんだね」
「レナもこの話に入ってくるのかよ──」
「うわああああああっ!!」
「っ! どうした?!」
「まずい……私たちの後ろに続いてたパーティがやられた」
「何だって? 俺たちからほんの数メートルしか離れてないんだぞ、弓士の俺の索敵にも引っ掛からずにそんな……」
「落ち着くんだ二人とも、相手はただの魔物じゃないらしい。それだけ分かれば十分だ、戦闘態勢!」
「やっぱり、君たちは優秀なパーティだね」
「な、なんだ……うわっ!」
「レナ、ウェグ、見えたか……今の?」
「なにか……黒いのが一瞬で通り過ぎて……」
「また後ろの奴らが持っていかれたっ!!」
『ハイサーチライト!』
とても強烈な光が辺りを照らす。
「明るっ!」
「ああいう魔物は光に弱いの!」
「なるほど、たしかに昔戦った魔物に似たような奴が……」
「魔物だなんて、ちょっと傷付くな」
「上だっ!」
「これでも、この間までは人間だったんだけどね」
『アローレイン!』
『月詠──』
──そして、暗転。
無駄な思考をしない。それは能力の発動に繋がり、体力を消費してしまうから。
今はただ、これだけで良い。
『“弾け”』
僕に向けて放たれた大量の矢は、一瞬の内に勢いをなくし、そのまま下方へ落ちていく。
僕もそれに合わせて真下に急降下する。
『剣光一閃!!』
『纏影』
その鋭い一撃を何とか防御しつつ、三人の冒険者の中心に着地する。
「今日は生憎の天気だね」
「くっ、魔族かっ!!」
「正解」
──月が沈む。
『影縛り』
A級冒険者が相手でも、正面からやり合わなければいくらでもやりようはある。
まあ今回は、相手の実力がA級になりたて程度だったっていうのもあるんだけど。
「……君は、一体何が目的なんだ?」
僕はA級であろう剣士の冒険者をぐるぐる巻きにし、質問に答える。
「君たちが依頼でここにいるように、僕も依頼でここにいるんだ」
「依頼……? 古龍討伐作戦を阻止したい勢力がいるというのか? それに、君ほどの実力者を雇ってまで……」
「誰にだって大切な人はいるでしょ? そういうこと。それじゃ」
「ま、待ってくれ!」
十五人の冒険者はそれぞれ気付かれにくい場所で縛ったし、助けが来るとしてもだいぶ先になるだろう。
もし最後まで助けが来なくても、全てが終わった後に影縛りを解除すれば問題ない。
そんな訳で、僕は彼らを放置してその場を後にした。
【──ステータス加速上昇:筋力・防御力・敏捷性・魔力・体力】
「さて、ミラは大丈夫かな──」
木々の間を通り抜け、素早く移動していると、突然、視界の端に赤く燃え盛る閃光。
「何だ今の……っ!」
その赤い閃光は、気付けば眼前にまで迫っていた。
そして、その閃光は一瞬にして人の形へと姿を変え──、
「やあ、魔族君」
反応が遅れた僕は、その謎の人物が放ったであろう炎魔法をモロに食らう。
「熱っ!」
「あれ、灰にするつもりだったんだけどな」
咄嗟に纏影で炎上箇所をカバーし、最初の一撃以外のダメージを防御することに成功する。
「僕、肌弱いんだから勘弁してよ」
「あっはっは! 良いね、君」
「何も良くない……それで、貴方は?」
その男は、背中から炎の翼を広げており、全身の至る所から炎が溢れていた。
「僕は魏刹国主直属部隊、“四神”の一人でね──」
「────名は、朱雀だ」




