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影の冒険者、最強を目指す。 〜影の魔人と契約した僕は、最速で世界を駆け上がる〜  作者: ねひつじ
三章 魏刹編・前

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【第46話】冒険者、そして古龍。


 現在、正午過ぎ。先ほどまでは清々しいほどの登山日和だったというのに、いつの間にか空には少しずつ暗雲が立ち込めている。


 僕たちは神洛山の翡翠一族の集落を取り囲む竹林の奥にある、鬱蒼とした森林で、それでいて神秘的な雰囲気を感じられる場所。

 ひらけた所に出たと思えば、そこには神殿のようなものがあった。


 しかし、神秘的な雰囲気を引き出しているのは、かつての栄光を感じる廃れた神殿でもなく、木々の隙間から差す一筋の淡い光でもなく、その光が差している()()()()だった。


 そして、その傍には一人の女性。


「で、デカいわね……」

「あれが、古龍ガルグ──」


 先の怪鳥、エアロウスを軽く凌駕するその巨体。そして、辺りにとてつもない量の魔素が満ちているのが分かった。道中で全く魔素を感じなかったのは、仙術によるものなのだろうか。


「お父さーん! お母さーん!」


 レンが小走りで駆けて行く。

 するとまもなく、


『おお、戻ったか蓮花(リェンファ)……怪我はないか?』


 地面が震えるような声が辺りに響いた。これは恐らく、古龍ガルグのものだろう。


「あら、蓮花。それに族長たちもいらっしゃってるじゃない」


「──まさか、お前が子煩悩になるとは、あの時代のお前からは到底考えられぬな」


 気付けば、ラティが姿を現していた。


 族長たちはとても驚いている様子だったが、なんだか面白そうなので説明はしないことにした。


『そ、その声はっ……シャトラか?! お前なのか!?』

「久しいな、ガルグ。調子はどうじゃ?」

『おお……会えて嬉しいぞ、我が盟友!』


 シャトラ……? もしかして、ラティのことを言ってるのだろうか。というか普通に仲良くない?


「ハル殿……こ、こちらの少女は?」

「魔人ですよ。それもかなり偉い、ね」

「ま、魔人ですと……?!」


「ガルグよ、此度はお前に用があって来たんじゃ。現在、魏刹で何が起きているか、知らぬわけではなかろう?」

『……ああ、勿論把握している。だが、俺にはもうどうにも出来ないのだ』

「らしくないな。事が終わるまで、そこで(くすぶ)っているつもりか?」


「ラティさん……お伝えした通り、お父さんはもう戦えないんです……」


 そう、あの作戦会議をした夜。ガルグの協力を仰ぐという案を出したラティに、レンは“もう古龍としての力はほとんど残っていない”と答えたのだ。


 その理由というのが、


『五年前、ある人間に深い傷を負わされてな──この通りだ』


 ということらしい。古龍ガルグが翼を広げると、その胴に大きな傷があるのが分かった。


 なるほど、古龍といえどこの傷ならば戦えないというのも無理はない。ましてや、相手は魏刹国主なのだ。


「ふむ、では()()()をお前の娘に渡せ。まさか、その人間とやらに奪られたとは言うまいな?」

『蓮花を戦場に駆り出せと言うのかっ!? もし蓮花に何かあったらっ……!!』

「あ、あなた……恥ずかしいから止めてちょうだい」


 龍の心? 初めて聞いた言葉だな。


「もし、お前に傷を負わせた人間がこの討伐作戦に参加していたらどうするつもりじゃ? そんな怪物を相手に、ここにいる者では誰一人太刀打ちできぬぞ」

『ははは。“もし”も何も、アイツは間違いなく参加するぞ。特別依頼を発注したのは、その人間なのだからな』


「何じゃと?」

「……え、それじゃあお父さんにその傷を負わせたのって──」


『ああ……現魏刹国主、天黎だ』


 暫しの沈黙、その空気を最初に破ったのはレンだった。


「……ねえお父さん。その龍の心っていうのは何なの?」

『……』

「龍の心っていうのはね、古龍の扱う異質な力、その源みたいなものよ。一部では龍核とも呼ばれてるわね」

『よ、よく知っているな君……まあ概ねその通りだ』


 さすがミラ、博識だな。ちなみに、僕には何の話かさっぱり分からない。


「それだけではない、龍の心は()()が可能でな。勿論誰でも良いという訳ではなく、血が繋がっている者にしか出来ぬがな」

「え、それじゃあレンは……」



「────ああ、古龍ガルグの力を引き継ぐことが出来る」



 古龍の力──それはつまり、かつてこの世界を統べ、頂点に立っていた者の強大な力。


「古龍ガルグといえば、“地風覇龍”だけど……」


 古代四龍はそれぞれ地風覇龍、氷炎覇龍、雷水覇龍、光闇覇龍といった具合に、その力になぞらえた二つ名を持っている。


「地属性と風属性。この二属性を古龍レベルで扱うことが出来るようになるでしょうね」

「そりゃとんでもないな……」


 その“古龍レベル”がどれほどのものかは知らないけど、下手をすれば国家を揺るがすような次元のものだということは想像に難くない。


『しかし蓮花は……蓮花は、翡翠の紋章すらまだ習得していないんだぞ!』

「どうして出来ないのかなあ……わたし、頑張ってるんだけど……」


 しゅん、とするレン。


『ああいやっ! 蓮花が頑張ってるのは俺だってよーく知ってるぞ──』


「えっと……その翡翠の紋章っていうのは?」

「それは私が説明しましょう」


 僕の疑問にそう答えたのは、レンの母親だった。


「私たちに限らず、仙人にはそれぞれ“紋章”と呼ばれる模様が身体に浮き出るのです。

 翡翠の血を持つ者は緑色の“風”のマークなのですが──その紋章を発現させられるようになってこそ、この集落では一人前ということになっているのです」

「ご丁寧にありがとうございま──」


「それだけではありませんぞ!」


 話に割って入って来たのは族長。


「我々仙人には、身体能力を向上させたり“仙術”を使う為に必要な“気”というものが流れているのですが、翡翠の紋章が発現している状態ですと、その流れが非常に活発になるのです!」


 なるほど。分かりやすく言えば、一種の強化(バフ)みたいなものか。


「へえ、すごいわね。ワタシたちも使えるようにならないの?」

「はっはっは、それは難しいでしょう。気は我々仙人にしか扱うことが出来ないのです」


 そりゃ、誰にでも扱えるものなら普及してないわけがないよな。説明を聞いてる限りじゃ、冒険者なら誰でも欲しがりそうなものだし。


「お父さん……わたし、戦うための力が欲しい──」


 気付けば、あちらはなかなか良い感じの流れになっていた。


『し、しかし……』

「わたし、戦いたい。わたしの大切なものを守るために」

「くくく……流石はお前の娘じゃな、ガルグ。既に覚悟は出来ているらしいぞ」


 ふんすっ! という顔のレン。

 今までにないくらいにやる気満々だった。


「あなた、レンはもう十三歳なのよ。このままじゃあなた、子離れ出来ないわよ?」

美花(メイファ)……そうか、そうだよな……』


「大丈夫ですよ、ガルグさん。何があっても、レンは僕が護りますから」


「…………ふぇっ?!」


「あらあら」

「またお主はすぐそういうことを……さては天然たらしか?」

「ハル、貴方ねぇ……」


 古龍ガルグはのそりと体を起こす。


『ほう……? では試してみるか、若き魔族よ。本当に、貴様に蓮花を守れるかどうかをっ──!!』


 あれ? もしかして僕、なんかやっちゃった?


「貴方、さっきワタシに“古龍を怒らせるな”とか何とか言ってたわよね?」

「……うん」

「そうよね。で、これは?」

「……ごめんなさい」


 完全にやらかした。まさかこんな時に古龍と手合わせすることになるなんて……いやまあ、ちょっと楽しそうではあるけど──。


「ここに居られましたか、族長!!」

「どうしたのだ、そんなに焦って……まさか!」


「はい、大量の冒険者が神洛山の麓に集まっています! 恐らく、例の討伐作戦が開始されましたっ!!」


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