【第40話】冒険者、そして碧の少女。(2)
「……何だって?」
「え? えっと、ユナさんって方で……あっ、凄腕の冒険者なんですよ!」
聞き間違いでは無さそうだな。つまり、レンの言うユナさんってのはあの人のことなのか?
“ユナさん”と呼ばれている凄腕冒険者が他にいなければの話だけど。
「もしかして、その人ってだぼっとした上着を着てたりする?」
「はい、着てます!」
「一人称がボクだったり?」
「そうです!」
「赤髪……?」
「そうですそうです! ご存知なんですか!?」
はい、確定。
「うん……知ってる、かな」
「どこにいるかとかも分かりますか?」
「居場所は分からないけど、近々会う約束してるんだ」
「そうなんですか!? もしかしてハルお兄さんってすごい人……?」
「偶然知り合っただけだよ」
ユナさんと知り合ったのは、偶然時臣さんと出会ったからで、偶然あの事件が起きていなければそれっきりだったかもしれない。
「……偶然、ですか」
「うん?」
「い、いえ……」
「遠慮しなくてもいいのに」
僕がそう言うと、少ししてから口を開いた。
「……おかしな話に聞こえるかもしれませんが、わたし、人生に偶然なんてないと思ってるんです。どんな出来事にも必ず因果関係があって、意味があるんじゃないかなって……」
そう言うと、軽く微笑む。
「へえ……面白いね、それ。僕とレンが出会ったのも必然で、意味があるってことだ」
「そ、そういうことになりますね……!」
なかなか面白い考え方をする子だな。僕がこの子くらいの時は、もっと年相応のことを考えていたのに。
まあ、その頃の記憶はないんだけど。
(笑っていいのか分からぬ微妙なラインの冗談はやめろ……)
記憶喪失ジョークだよ。
(重いわ!)
「それじゃ、“運命”っていうのは偶然と必然、どっちに近いと思う?」
少し考えた後、レンは再び口を開く。
「えっと……やっぱり必然、ですかね? 運命の出会いとかも、それこそ“特別な出会い”ですし。いつもと違うということは、何かしら理由があるわけで────」
「あはは、じゃあこれも運命の出会いって奴かもしれないね。結構変わった出会いだし」
「えぇっ!? えっと、あの……もしかしてわたしのこと口説いてますか……?」
「え、いやそういうわけじゃ……」
ほんの雑談のつもりだったんだけど。
(……)
……本当だって。
しばらく気まずい空気が流れる。
幸いなことに、もうすぐ目的地であるファレリアに到着する。恐らく、これこそ必然なのだろう。
この空気を見兼ねた世界が気を遣ってくれたのだと、僕は密かに思った。
僕たちは馬車を降りて、真っ直ぐ冒険者協会へ向かう。
「レンはテオルスに来たことあるの?」
「はい、任務と依頼で何度か……ですが、この街に来たのはこれが初めてです」
「ああ、そういえば冒険者だったね。何が得意なの?」
「職業は格闘家なんです。ですから、基本的には前衛ですね」
か、格闘家? てっきり後方支援系なのかと……まさか、こんな可愛らしい容姿でバリバリの武闘派だとは思わなかった。
「三ヶ月くらい前ですかね? 森の調査をしてほしいとの任務がありまして……わたし一人で向かったんです」
「じゃあ、この辺は初めてじゃないのにあんなとこで彷徨って眠ってたんだ」
「そ、それは、あまりに必死だったので……」
ん、待てよ──三ヶ月前に、森だって? あまりにも身に覚えがありすぎる。あれって、魏刹でも調査任務が出るくらいの大事件だったのか。
いや、新しい魔王が生まれただなんて、普通に考えたら国を挙げての大混乱だな。
「そういえば、ユナさんと約束をされてると仰ってましたけど……」
「ああ、うん。魏刹に行く予定だったんだ、一週間後だけどね」
「一週間後……ですか」
「……もしかして、一刻を争う緊急事態だったり?」
そう尋ねると、レンはゆっくりと頷いた。
さて、どうしたものか。急ぎの用だとは分かっていたけど、予想以上にギリギリらしい。約束の日まで悠長に待っている時間はないということだ。
(お主が手伝えば良いではないか)
ん? 現在進行形で手伝ってるじゃないか。
(そうではない。赤髪の娘が解決する予定のものを、お主が解決してしまえば良いではないかと言っておる)
……なるほど、その手があったか。
「レン、君がユナさん探している理由は、彼女くらいの腕利きの冒険者じゃないと解決が難しいからだよね?」
「えっ? そ、そうですね……魏刹では今、かなり大規模なパーティが組まれていて────」
「────それさ、僕に任せてよ」
流れたのは数秒の沈黙。
「……ええぇっ!?」
■ ▽ ●
「ヘレンさん、ただいま帰りました」
「あっ、ハル君おかえり!」
やっぱり、なんだかんだこの場所が一番落ち着く。
「知ってること、全部話してもらうからね! 聖エレストル、今大陸中ですごい話題になってるんだから」
どうやら、聖エレストルでの出来事は大ニュースになっているらしい。噂の広まる速度があまりに早すぎる気もするけど。
当然だが、僕が魔族になったということを、ヘレンさんはまだ知らない。
(何故、今更角を隠す? 先程まではまるで気にしていなかったではないか)
……何となく、ヘレンさんにバレるのはちょっとね。
(基準がよく分からぬな)
「はい、分かってます。分かってますけど、それはまた今度ということで……」
「……どういう意味? まさかとは思うけどまた────」
それを言い切るより前に、僕のそばに佇んでいるレンに気付く。
流石ヘレンさん、そのまさかです。
「ハル君、キミねえ……次から次へと、少しは落ち着いたらどうなの?」
「すみません。僕、冒険者なので」
「……そうだね。君に大人しくしててって言う方が野暮ってものか」
言って、肩を竦めるヘレンさん。
「それで、今度は一体何に首を突っ込もうとしてるの?」
「えっと……それはまだ分かりません」
「……」
「……」
「……すみません、わたしがどうしてもって頼んだんです。どうしても助けが必要で……」
その言葉を聞くと、ヘレンさんは苦笑を浮かべた。
「それならこの人に頼んで正解だね。ハル君は困ってる人を見かけたら、助けずにはいられない人だから」
「ふふ、たしかにそんな感じしますね」
嬉しいことに、どうやら僕は良い人に見えるらしい。これも日頃の行いのおかげだろう。
(……)
「あれ、そういえば二人はどこで知り合ったの?」
「それはたしか……わたしが寝てるとこを拾われて──」
「──待って、端折りすぎてる。それじゃまるで誘拐だ」
誤解されるような言い方はやめてくれ。
「この子は、ここに帰ってくる途中で倒れてるとこを拾ったんです」
(……あまり変わっておらぬぞ、それ)
あれ?
「ハル君──もしかして、そういう趣味なの?」
「待ってください、本当に違うんです。倒れてたとこを保護したんですよ」
事の経緯をもう少し詳細に話し(都合の悪い部分は省略)、誤解を解いた。
「そうだ、ヘレンさん。一つ言伝を頼んでもいいですか?」
「うん、もちろんいいけど」
「ありがとうございます。大体一週間後、ここにユナさんが来ると思うので……」
「ユナさん──え、ユナさんってあの?」
「はい、そのユナさんです」
「いつの間にそんな仲になってたのね……私は何を伝えれば良いの?」
「“楽しみすぎて先に魏刹へ向かいました。待ってます”、と伝えてください」
ははは、ユナさんの反応が目に浮かぶ。
(おい、日頃の行いとやらはどうした)
普段は良いことばっかしてるし、たまにはいいでしょ。まだ怒られないよ。
(善行悪行はそんなプラマイの話ではないと思うが……)
「それじゃ、行ってきます」
「気を付けてね、無茶はしないように!」
「はい、出来るだけ」
「そこは嘘でも『無茶はしません』って言うの!」
「無茶はしません、嘘になるかもしれないですけど」
「……」
祝、四十話です!ここまで読んでくださっている皆様、本当にありがとうございます!
これからも引き続き頑張りたいと思います!




