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【第36話】冒険者、再び目を覚ます。


 ふと目を開け、辺りを見渡すとそこは教会の中だった。さっきまで教会の外で戦っていたはずなのに。


 教会のその奥、そこに人影が一つ。

 

 間違えようのない、嫌というほど脳裏に焼き付いている。


「……ディエスさん」


 外はやけに明るく、ステンドグラスから差し込む鮮やかな光が彼を照らしていた。いつの間に夜は明けたのだろうか。


「いやはや、今回は私の負けのようですね」

「残念ながら、もう次はありませんよ」


 思えば、どうしてディエスが生きていて、今僕の目の前にいるのだろう。

 そして、どうしてこの状況を、受け入れてしまっているのだろう。


「ええ、私に次はありませんが……()()はまだ生きています」


 そう言って、ディエスが差し出した掌には古代の遺物(アーティファクト)“願いの信仰”が乗っていた。


 記憶が正しければ、これは彼と融合したはず……。


「これは、しばらく貴方に預けることにします。遺物としての効果はほとんど失われてしまいましたが……壊れるよりはマシでしょう」


「そして、然るべき時が来れば──私は再び貴方の前に現れます」

「……」


 この人は、一体何をしたんだ?


願いの起源(オリジン・メア)は戦闘の中でしか成長しないのですが……まさかピンポイントで“(コア)”を持っていくとは思いませんでしたよ。どうやら、貴方はよほど()に愛されているらしい」


「拙い未来視で()()を知った私は、最後の瞬間……貴方が私の身体を削り取ると同時に貴方の身体へ“遺物の核”を融合させました」


「この力を失うのは、少々惜しいですからね」

「……遺物の核を僕に? そんなこと出来る訳が──」


 核というのは、彼と遺物を繋いでいた部位(形として存在するのか分からない)のことだろうか?

 しかし、その核とやらを他人と融合させるなんて、とてもじゃないが信じられない。


「──出来たのですよ、私には」


 その言葉の意味を理解するのに、時間は要さなかった。


「……なるほど、本当に間一髪の決着だったわけですね」


 彼は最後の最後で成功していたのだ。

 願いの起源(オリジン・メア)の進化に。


 もし、ほんの少しでも僕がディエスを攻撃するのが遅れていたら。

 もし、僕が“核”とやらを攻撃出来ず、ディエスに能力を使う隙を与えていたら。


「背筋が凍るような話ですね」

「ははは、勝利の女神は貴方に振り向いてしまったようですがね」


「ですが、次はそうは行きませんよ」

「……出来れば、二度と貴方と戦いたくないんですけど」

「おや、手厳しいですね。当分先の話ですが──その時は、また全力で()り合いましょう」


「待たせすぎると、手に負えないくらい強くなっちゃいますけど」

「ははは。では、なるべく早く戻って来れるよう努力しますよ」

「……やっぱり勘弁してください」



 僕は、心の何処かで自分とディエスを重ねていた。



 あの人に憧れ、最強を目指す僕と──、


 神を願い、神に成ろうとしたディエス。



 手段は違えど、目的にあまり差異はない。


 ディエスは最後の最後でその目的を成し遂げた。神になろうなどという、一見すると馬鹿げたその大きな目的を。



 彼は、しっかりと『自分を生きた』のだ。



「名残惜しいですが、直に貴方は現実世界で目を覚ますでしょう」


「ここでの出来事はすべて忘れてしまいますが……再び貴方と出会う時、それが素晴らしい時間になることを願っていますよ」


 辺りを見ると、周囲の風景が崩れ始めていた。教会の外は一面広大な草原になっていて、青空には太陽が一つ、この世界を照らしている。


 僕は理解する。

 この崩壊は、この時間の終わりを告げているということを。


「貴方は間違いなく僕の敵で、少なくとも僕からすればどうしようもない悪者だって分かってますけど……」


「その信念を貫く生き様だけは──尊敬に値します」


 僕がそう言うと、ディエスは今までにない柔らかな笑みを浮かべた。

 


「……さようなら。そして────」



 その笑顔は、かつて神を信仰し、仕えていたという事の証明。


 何が、彼を変えてしまったのだろうか。



「──────貴方に祝福がありますように」



 今となっては、それを知る術はない。



【──ステータス加速上昇・超大:筋力・防御力・敏捷性・魔力・体力】

【──レア相伝スキル『影術:月詠(ツクヨミ)』を習得しました】

【──パッシブスキル『再生』を習得しました】

【──パッシブスキル『ステータス上昇・小』は『ステータス上昇』へ進化しました】



★ ◯ ●



 ふと僕が目を開けると、そこには見覚えのある天井があった。

 どうやら、ここは一週間前にも来たことのある治療施設のようだ。


 なんだか、少し長い夢を見ていた気がする。


「起きました! 皆さん、ハルさんが起きましたよ!!」

「う……」


 起きて早々、フェイの大声はとても頭に響く。

 このまま二度寝した方が幸せになれそうだ。


「ハルさん! 大丈夫ですか!! どこか痛みますか!!??」


 やばい、このままだと頭痛で死ぬかも。二度寝どころか、永眠になりかねない。


「おい、魔法っ娘よ。あまり大声を出すな……頭が痛くなる」

「あっ、すみません……」


 よくやった、これはもう命の恩人といっても過言ではない。まったく、ラティには命救われっぱなしだな……。


「おはよう、二人とも。良い朝だね」

「お主が眠っている間に、事後処理はほとんど終わったぞ」

「簡潔にお願い」

「教皇の死亡、君主制崩壊、国主制導入、それに伴う国家方針の変更……」


「……ごめん待って、詳しく聞きたい事が多すぎる」


 君主制崩壊って、王による統治じゃなくなるのか?

 どうしてこんなタイミングで……そもそも国主制って、一体誰が国主に?


 ガチャ、と扉の開く音。


「目が覚めたかい、ハル君」

「やっほ! 数時間ぶりだねー!

 そこにいたのは、シリウスさんとユナさんだった。

 魔王にお見舞いされる冒険者というのは前代未聞だと思う。


「よくやってくれたね、ハルくん。君がいなかったらもっと被害が拡大してたかも!」

「いえ……僕だけじゃどうにも出来ませんでした。これは、皆で頑張った結果ですよ」


「……今回の件は、僕の監督不行き届きが原因でもある。本当に申し訳ない」

「シリウスさん、僕が言った“皆”には貴方も入ってるんですよ。それこそ、シリウスさんがいなかったらヤバかったくらいです」

「そう言ってくれると、いくらか気持ちが楽になるよ。ありがとう」


 実際、シリウスさんには命を救われてるし。ていうか僕、最近よく死にかけては救われてる気がする……。


「あ、そうだ。国主制になるって聞いたんですけど、誰が国主になるんですか?」


 僕がそう尋ねると、フェイがぐいっと身体を乗り出してくる。


「なんと、セインさんです!」

「……え? フェイ、今なんて?」

「聖エレストル王国改め、エレストル! その国主は雷帝、セイン・バルザードさんなんです!」


「な、なんだってー…………まあ、妥当か」

「ああ、妥当じゃな」


 セインさんなら、実力的にも、国民人気的にも全く問題ないだろう。


「本人は、『あくまでも代理として』って言ってましたけどね」

「代理?」

「はい、セインさんは現聖騎士団長のファルゼ様を国主に推しているそうです。ただ、今はまだ遠征中で……」


 セインさんが元団長なら、そりゃ現団長もいるか……国主にするなら現団長の方がやり易いこともあるだろうし。


「その遠征なんだけど、直に隊は帰ってくると思うよ。さっき、フロセラ……知り合いの魔王から連絡があってね。『遠征隊を見つけたからしばらくちょっかい掛けてたら帰った』って言ってたよ」

「ええ?」


「多分、フロセラに足止めを食らってる途中で国の危機を報せる伝令が来たんだろうね」

「フロセラっていったらあの暴風君主(サイクロン)だよね? たしかに大人数でアレを相手するのは厳しいね……ボクもあんま戦いたくないし」


 少し都合が良すぎる気もするが、おかげで余計な被害は出ずに済んだ。

 この遠征もすべて教皇(ディエス)の筋書き通りならば、ロクでもない内容だったに違いない。


「とりあえず、一件落着ってことで良いよね」

「それじゃ、やることは一つだね!!」

「えっと、そんなお決まりみたいな奴ありましたっけ?」


「はい! おめでたい時にやることといえば一つですよね!!」

「ははは、若いってのは羨ましい限りだね」

「本当に、よくそんな元気が残っておるな……」


「ハルくんの快復祝いも兼ねて、レッツ! 祝宴だーーー!!」


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