【第4話】冒険者、城趾へ行く。(2)
「これから俺達が向かうのは今から数百年前、この辺がまだ栄えてた時代。貴族が住んでいたとされている城の跡地だ」
「いかにも、冒険って感じだね」
今初めて知ったけど、昔はこの辺も昔栄えていたらしい。
僕がファレリアで目を覚ました時にはこの国はもう小国だったから、昔からこんなもんだと思っていたし、意外だった。
「テオルスは大昔、今よりもさらに一回りも二回りも大きかったらしいですよ。私達が住む街以外にも、いくつも大きな街があったみたいですし。今は、聖エレストル王国や、魏刹に領土が渡ってしまいましたが……」
「なんでも、一、二位を争うくらいの大国だったらしいぜ。そんな大国がこんなんになるなんて、世の中何が起きるかわかんないよな」
諸行無常、盛者必衰。そんな言葉が僕の脳裏に浮かんできた。
使い方が合ってるかは分からないけど。
「テオルスが滅びた理由については諸説ありますが、有力なのは『災厄の魔女』がもたらした災禍が原因という説ですね」
災厄の魔女──かつて、魔物狩りによって魔人、魔女が迫害されていた時代、一人の魔女によって国が幾つも滅ぼされたという。その魔女というのが、災厄の魔女。その悪名は僕でも知っている程に轟いていて、災厄の魔女が世界に与えた影響は計り知れない。
現在、生死は確認されていないが、一般的にはもう死んでいるということになっている。
「へえ、難儀な時代だったんだね。今でこそ、魔物の国なんてのもあるけど、ちゃんと統治されているみたいだし」
なんて、僕はありきたりな感想を述べた。
「魔王によって、魔物が統治されているんですよね。人間の敵であるはずの魔王によって人間の安全が守られているなんて、おかしな話ですね」
これも時代による変化なんでしょうか、と笑うシェリカちゃん。
「魔王の統治する国と国交を結んでる国もあるみたいだしな。それでも、人間の魔物に対する恐怖が完全になくなった訳でもねーが……」
そもそも、僕達冒険者だって任務や依頼とはいえ魔物を狩っているわけだし──大人しい魔物からしてみれば、いつ人間に襲われるか分からないというのは恐怖そのものだろう。
ただ、魔物の国と国交を結んだ国では、魔物の討伐は必要最低限、自衛の時のみと決められているらしい。それだけでなく、特産品や技術等、様々な交流があるとのこと。
やはり、魔王の統治によって時代が変わってきているのも確かなのだと思う。
ヘレンさんに聞いた話だと、魔王の数は純系含め八にも上るという。
「話を戻すけど、このアグルス城跡地でまだ探索されていない部屋が冒険者によって発見されたんだ」
それがつい昨日の話だ、とユアン。
「一昨日、あんな事があったから誰も行きたがらなくてね……それで俺達は君を誘ったというわけなんだ」
「それは分かったけど、ユアンたちはどうしてアグルス城跡地に行こうと思ったの? もしかしたら、本当に外がまだ危ないかもしれないのに」
「そりゃ、未探索っていったら宝があるに決まってるだろ! 宝がないにしても、何か珍しいもんが見れるかもしれねぇしな」
なかなか冒険者志向の強い人達だな。見倣うべきものがある。
◇ ◇ ◆
「跡地っていう割には、中はまあまあ綺麗だね」
「そら、色んな冒険者が何度も来てるからな。多少は整備されてるんだろうよ」
言われてみれば、たしかにその通りだ。
「冒険者協会の話によると、地下に隠し部屋があるらしいんだ」
「隠し部屋なんて、冒険心くすぐられるな……」
僕はこれまで野外での任務をメインに受けていたので、こういう探索は新鮮でワクワクする。これを機に探索メインの冒険者になろうかな。
「やっぱ、道中はほとんど探索済みだなあ。魔物の一匹も残ってねぇや」
つまんねーの、とリルド。
「大量の魔物に追われるよりかは、こっちの方が良いじゃないか」
違いない。
程なくして、僕達は目的の地下に辿り着いた。思ったより広く、牢獄のようなものが大量に並んでいた。当然、どの牢獄にも人は入っていない。
「さて、隠し部屋探しと洒落込みますか!」
「ここは広いから、各々別れて探索しようか」
その一言を合図に、僕達はそれぞれ探索を始めた。
探索を開始して暫くすると「おーい! あったぞー!」という声が聞こえてくる。
思ったより早く見つかったな。折角の探索だから、もう少し調べてみたかったんだけど──この壷とか、大分古いけど売れそうじゃないか?
「おーいハル、何してんだ?早くお前もこっち来いよー!」
普通に考えて、価値のある物が残ってるはずないよな。それに、僕達の目当ては隠し部屋だ。
「ああ、ごめん。今行くよ──」
【──スキル『解析』を習得しました】
「──え?」
なんだ、今の。スキルだって?
僕は素早くステータス画面を開き、スキルの項目を見る。そこには確かに、『解析』のスキルがあった。
「ま、まじかよ……」
今までスキルとは全く無縁だった僕のステータスに(特殊スキルはあるけど)、ついにスキルが!!
「おいおいどうしたんだ? 固まっちまって。足でも痺れちまったか?」
「いや……そう、足が痺れちゃってさ。はは」
わざわざ言う事でもないよな……? 僕にとっては凄い出来事だけど、リルド達にとっては何でもないことなんだろうし。
「冗談のつもりだったんだが、マジなのかよ。ほら、肩貸してやるよ」
「ありがとう、リルド」
足が痺れていることになった僕は、リルドの肩を借りて隠し部屋のある場所へ向かう。
──そこには、壁。なんの変哲もないただの壁だった。
「えっと、ただの壁にしか見えないんだけど……」
「へへっ、ハル。お前はまだまだだな!」
リルドはそう言うと、シェリカちゃんに目線を送った。シェリカちゃんは壁に近づき、手を当て──、
『──術式解除!』
そう唱えると、壁があったはずの場所に扉が現れていた。
「おお、凄いね」
「だろ?」
リルドが得意気に言う。
僕はシェリカちゃんに言ったつもりだったんだけど。
「展開からかなりの時間が経っていて、結界術式自体が弱っていたので私でも解除することができましたが──元々はかなり強い結界だったと思います」
「へえ……」
そんな強い結界が張られているなんて、一体どんなお宝が眠っているというんだろう。
「ここから先は未開の地、どれくらい広いかも、どんな敵がいるのかも分からない。油断しないように、気を引き締めて行こう」
ユアンが言う。
その通りだ。お宝に浮かれて危険な目に遭うんじゃ間抜けすぎる。お宝は手に入れるまでが大変だからお宝なんだ。
ユアンが隠されていた両開きの扉を開く──その瞬間、得も言われぬ感覚に陥った。
「……」
「……」
「……」
それは他の三人も同じだったようで、不安げな表情をしている。
何があるかはわからないが、確実に何かがある。
「今更引き返すなんて、ありえないよね」
僕がそう言うと他の三人も頷き、直ぐに扉の中へと足を踏み入れた。
【プチ補足】
魔法は主に初級、下級、中級、上級、最上級、超級、究極、そしてそれとは別に特殊を含めた八つの段階に分かれています。