【第35話】冒険者、再び共闘する。
「さて、どうするかな」
正直、ディエスに防御に徹されるとそれを突破するのは困難を極める。さっき仕留め切れなかったせいで、大分厳しい状況になってしまった。
今のところ唯一の突破口はシリウスさんの侵略支配だけか……。
ここにいる全員で畳み掛けるのもアリではあるけど、ディエスの防御網がどれほどなのかが分からない以上、それは危険すぎる。
(それじゃ、妾はそろそろ寝るからな。全部片付いたら起こしてくれ)
いつの間にか影の中へ戻っていたラティ。
いよいよだっていうのに自由すぎるだろ。
「とりあえず、危ないからフェイは離れてて」
「え、嫌です」
「分かった、それじゃあ──え?」
「何のためにここまで来たと思ってるんですか?」
たしかにそれはそうだけど……このタイミングで帰れというのも流れ的に変だ。
「それにハルさん。教皇様を倒す算段は付いてるんですか?」
「……まだ、付いてない」
ディエスの防御パターンは二つ。
一つは“弾け”などの願いによる呪言のようなもの、もう一つは自身に付与した大量の防御パッシブスキルによるもの。呪言の方は最悪数で押し切れるだろうが──問題は後者。
内容の分からないスキルを大量に積んでいる以上、攻め方も分からない。どうにかしてさっきと同じ“攻撃特化”のスキル状態に持っていかないといけないのだ。
いや、寧ろ──今が好機と見るべきか?
「だったら私も戦います!皆で戦った方がそれだけ勝てる可能性も高くなりますよ!」
それは、一般的に考えればの話。
だけど、今僕たちが相手してるのは……。
「……まあいいか」
僕は知っている、これは止めても無駄だ。
すごいやる気に満ち溢れた顔をしてるし……何より僕は、フェイに危険だから、とか言う資格はない。
「作戦会議をしてる時間もないので一言だけ……皆さん、なんとかあの防御を崩してください。後は僕がやります」
そう。防御さえ崩せれば、
今度こそ僕が終わらせる。
「ん、防御? とりあえず、ハル君が攻撃出来る隙を作れば良いんだね?」
「はい、ほんの少しだけでも」
「ふっふっふ。このボクを誰だと思ってるのかね?」
何やらとても得意げな様子のユナさん。
勿論、彼女がS級冒険者だというのは重々承知している。
「そんなもの、ボク一人で事足りるさ!」
な、なんだって?
『多重歩行!』
「いや、折角人手もあるので────」
言い終える暇もなく、ユナさんはさっさと突撃してしまった。
……? ユナさんの動き、なんだかブレてるように見える。速いことには速いんだけど、動きが飛んでるのか?
「はああぁぁぁぁっ!!」
ユナさんはそのまま何の変哲のないパンチを繰り出す────。
『──“弾け”』
しかし、予想してた通りその拳は呪言によって若干逸らされてしまった──が、
「甘いねっ!!」
すると、ユナさんは再び攻撃のモーションに入っていた。
な、なんだ今の……?
不意を突かれたディエスは攻撃を許してしまう。
「ぐっ!」
予想とは反し、二度目の攻撃はすんなり通った。
てっきり、バリアのようなものがあるとばかり……。
「うへーめちゃくちゃ硬いや! 普通だったら爆散してるレベルで殴ったのに!」
こちらも予想以上にガチで殴ってたらしい。
そのパンチを後方へ少し弾かれる程度の威力まで軽減したということか。積まれている防御スキルは軽減系統……多分だけど、シリウスさんのアレを防ぐ為にもかなりのスキルリソースを割いているのだろう。
「まったく……S級冒険者というのは化け物しかいないらしいね」
「これでも抑え気味なんだけどね」
「はは、尚更化け物だ」
『希望の明光』
本日何度目かの無数の光線、今の僕なら避けられる。
当然、ユナさんはその攻撃をすべて回避する。やはり、その動きは遅延と加速を繰り返している。
あれはユナさんのスキルなのだろうか。まるで時間が巻き戻ったり、早送りされているかような──というか実際している。
「もう一回行くよ!!」
再び跳び上がり、ユナさんは攻撃の姿勢に入る。
……なんて解析してる場合じゃないよな。折角時間を作ってくれてるんだ。宣言通り、僕が終わらせてみせよう。
「シリウスさんとセインさんは、ユナさんに合わせて攻撃を振ってください」
「任せて」
「了解した」
これなら囮役は足りる。
「私は! 私は何をすれば良いですか!?」
「えっと……良い感じに援護してほしいかな」
「分かりました!」
『蒼焔の加護!』
身体がふっと軽くなるのを感じた。もしかしなくても支援系魔法か……フェイに使えたことが驚きだけど、それより今、僕たち全員にバフを掛けたのか?
「とりゃぁぁっ!!」
空中では二人の激しい攻防が繰り広げられていた。どうやって滞空してるんだろう、あの人──人間だよな?
『残響暗夜』
『憤怒の雷龍!』
放たれた二つの攻撃はディエスの方へ真っ直ぐ飛んでいく。
『“弾け”』
「っと、そうはさせないよ!!」
詠唱を妨害しようと飛び掛かるユナさん。
『三重魔力障壁
聖なる剣光』
「うげっ、めんどくさ!」
しかし、ディエスの放ったそれらの魔法によって妨害は失敗に終わる。
「その魔法は────」
「────よく、覚えてる」
初めてあの人に会った時、僕が初めて見たあの人の魔法。あのとき見たそれは、これより何倍も強力で、何十倍も光を放っていた。
「貴方じゃ、神にはなれない」
僕は皆を囮にディエスの背後へ回っていた。
ディエスが中途半端に弾いた攻撃の衝撃に乗じさせてもらった。
「おや、いつの間に……ですが──」
「──止めれるもんなら止めてみてください」
『大食い』
右腕に全力で影を纏わせる。
その右腕は、あの時エドラナさんを喰らった怪物を彷彿とさせる。魔力障壁の一枚二枚など、容易に貫くだろう。
『“吹き飛べ”!』
残念ながら僕には────、
その類のモノは効かないんだ。
その能力は“願いの起源”による直接的なものじゃなくて、その創造物である“呪言”というスキルの一つだから。
恐らく、呪言スキルの補強にもいくつかスキルリソースを割いている。
防御系スキルを積んでいる今の貴方だからこそ、避けずに受けてくれると思った。
「今の貴方に、これを止める術はない」
「……参りました」
もう、回避は間に合わない。
【──警告、超越スキルへの進化を感知しました。迅速な撤退を推奨します】
なんだ、超越スキル……?
「はぁぁぁっ!!」
僕は気にせずそのまま腕を振り抜く。
「やはり、神はいないらしい────」
ディエスの顔には、笑みが浮かんでいた。
僕の右腕は、ディエスの身体を間違いなく抉り取った。




