【第30話】冒険者、そして目覚めた魔人。
な、ななななななんでラティが!!??
(何で、と言われても目が覚めたからでしかないんじゃが……)
てっきり、まだしばらくは目が覚めないのかと思ってた! 姿を見せておくれ!
(な、なんじゃお主……どこかに頭でもぶつけたのか? 一旦落ち着いたらどうじゃ──)
落ち着いていられるか! どれだけ心配したと思ってるんだ! それに、すごい心細かったんだからな!!
(それはその……悪かったとは、思っておるよ)
「ハル君、大丈夫かい? かなりソワソワしているようだけど」
「あ、すみません……大丈夫です」
(ほう、此奴はなかなかじゃな。流石魔王と言ったところか)
いや、まだ話は終わってないんだけど……もう大丈夫なのか? 色々とさ。
(お主よ、妾を誰だと思っとるんじゃ? これくらい、あの結界さえなくなればどうってこと無いわ)
それに魔族は夜になると回復力が高まるからな、と付け加えるラティ。
(それで、今回の黒幕はこのディエスとかいう小僧なのか? 一度会ったことがあるな)
多分黒幕だと思う。今はなんか、古代の遺物? かなんかの説明をされてる途中なんだけど、よく分からないんだよ。
(……古代の遺物、か)
そう、それで八割がなんだとか言ってたけど……。
(ああ、それは────)
(────彼奴がいう『曇りなき信仰を持っている者』、とやらの割合じゃろうな)
……ってことは?
「まずは慣らしと行きましょうか」
その言葉と同時に、ディエスは突然宙に浮き始める。
「ちょ……」
あれは確か浮遊魔法──習得はともかく、人が扱うにはかなり難易度の高い魔法のはずなんだけど。
(彼奴は今、エレストル国民全体のその八割程の数だけ、『願いの信仰』を使用可能という訳じゃな)
いやいや、滅茶苦茶すぎるだろ! あの浮遊もその遺物の力ってことかよ!
「参ったな。最初からこの為に僕の部下は利用されたのか」
今までの自作自演は、全て『信仰』を高める為だったのだろう。
そして今この瞬間から、ディエスが遺物を発動するたびに誰かの命が失われていくということになる。
「えっと……流石に止めさせて貰うよ、ディエス」
僕の言葉に、不敵な笑みを浮かべるディエス。
「貴方に止められると良いですね?」
いかにも悪役みたいなこと言いやがって。
(というかお主、何故魔力回路にストッパーが掛かっておるんじゃ?)
……え、今? 勝手に心でも除いて、好きなだけ笑っといてくれ。
(なになに……ぷっ、魔力の全放出じゃと?くくく、はーはっは!!)
咄嗟に他の方法なんか思い付かなかったんだよ。それとその魔王みたいな笑い方やめろ。
(そもそも、潜影でも何でも使って人目に付かず移動出来たじゃろうに)
あ、その手があったか──ってそれ、入る前に言ってくれよ!
(立ち入り禁止にされておるというのに悠々、闊歩とは! これが『面白いもの』とやらか?)
くそ、だるすぎる。今はこんなのに構ってる場合じゃない。というかもうその辺まで遡ったのかよ。思い返してみると結構恥ずかしいな。
(アレも使ったのか……ん?)
そうこうしている内に、既に戦闘は始まっていたらしく、何やら応酬が繰り広げられていた。
『侵略支配』
『“弾け”』
シリウスさんがディエスへ向けたはずの右手は、見えない何かに腕を掴まれているかのように違う方向へ逸れていく。
『“吹き飛べ”』
『三重魔力障──ッ!』
シリウスさんが詠唱し終わる前に、その身体は後方へ吹き飛ばされ、衝突音が響いた。
「シリウスさんっ!」
「詠唱から発動、命中までの時間差がゼロとは──驚きでござるな」
ディエスの詠唱が終わってから防御に移っても遅いってことか……ますます滅茶苦茶だな。
(おい、まだ決着しておらんのか?)
あんな化け物相手に、ものの数分で決着するわけないだろ。
(はあ? その男がいるというのに、逆に決着せん理由がどこにある?)
その男って、時臣さんのことか? S級冒険者だろうとアレ相手には流石に厳しいんじゃ……。
僕が時臣さんに視線を向けると、
「──準、といったところか」
何か呟いていたが、僕にはその意味を汲み取ることは出来なかった。
(それよりお主よ。この干渉痕に心当たりは──)
それより僕が気になったのは、時臣さんは何故か自身の武器であるはずの刀を抜いていないということ。
「時臣さん……武器、持たなくて大丈夫ですか?」
(おい、話を──)
「……ああ、ハル殿。大丈夫でござる、何も問題はない」
その笑顔に、僕は得体の知れない何かを感じた──いや、寧ろ何一つ感じなかったのか?
『腹の底が読めない得体の知れないS級』
ミシュさんの言葉が脳裏に過る。
この人は一体、何者なんだろう。悪い人ではない……と思うけど。
それでラティ、話って?
(……はあ、もう良いわ)
何やら機嫌を損ねてしまったらしい。
ディエスは相変わらずこちらを見下ろすような位置にいた。
「どうせなら、全員同時に掛かって来てもよろしいので──」
『──残響暗夜』
突然、後方から一つのレーザーのようなものがディエスに向かって放たれた。
『“弾け”』
そのレーザーは弾かれ、横の壁に命中する。
「不意打ち、たしかに素晴らしい戦略ですね。ですが──」
──シュン!!
先程弾いたはずのレーザーがディエスの右手を貫く。
「おや……」
「本当だ。不意打ち、良いね」
シリウスさんが後方から戻ってきているのが分かった。何らかのスキルの影響か、吹き飛んだ時のダメージはあまり大きくないようだった。
「僕の“残響暗夜”は、壁で威力を上げて何度か反射する特性を持った魔法でね。弾かれるなら、もう一度反射してしまえば良い」
すごい、ディエスに攻撃を通したのか!
「ははは、なるほど……これは一本取られましたね」
そう言ったディエスの右手は、気付けば再生していた。
あれ? 詠唱をした気配はなかったのに。
(お主は少々、古代の遺物の力を甘く見ておらんか?)
いや、そんなつもりは全くないよ。だって願いを叶えるなんて、そんなの最強じゃないか。
(お主の言う最強というのは一体何じゃ?)
そんなの、アイツみたいに何でも出来て魔法やスキルだって……、
……まさか。
(そう、そのまさかじゃ)
アイツ、スキルまで創り出せるっていうのかよ!?
(ああ、あれは再生系統じゃろうな。レアスキルじゃないところを見ると、普通のスキルまでが限界らしいがな)
止めるとか言ったけど、マジで手に負えない奴じゃん……どうするの、これ。
(はあ……)
ラティはため息を吐きつつ、影の中から半分だけ姿を現した。
「おい、お前。さっさとその刀を抜け。何を躊躇っておる?」
それは時臣さんに向けられたものだった。
すると、傍にいたシリウスさんは少し困惑したような顔を見せる。
「……ハル君、君は影の中に魔人を潜ませているのかい?」
「潜ませているというか潜まれているというか……まあ大体そんな感じです」
同じくディエスもこちらに視線を向ける。
「おお、貴方が報告にあった魔人ですか……」
ん、報告──? 僕がディレを倒した時点で、そこのラインは切れていたはず。じゃあ一体、誰が報告を?
あの場に、ラティの索敵を潜り抜けるほどの隠密能力を持った誰かが存在したなら或いは……。
「昼以来でござるな、ラティ殿。確かに拙者ならば、今すぐこの騒動を終わらせることが出来るでござるが……」
「えっ」
さっきまで色々考えてたことが、全て吹き飛んでしまった。
「────これを抜いてしまえば、彼を殺してしまう」




