【第29話】冒険者、いざ教会へ。
現在、ミシュさんに別れを告げて言われた通りに真っ直ぐ進んでいる。
一応敵ではあるので、鵜呑みにするのはどうかと思ったが、騙されてたらもうしょうがないので考えないことにした。
教会へ近付くにつれ、先程までそこそこあった横へ逸れるような別れ道も少なくなってく。
「……」
ふと、さっきの出来事が脳に過る。
僕が結界魔法だと思ってたのは結局ミシュさんの幻覚魔法だった。そこまでは良いとして、それならあの時現れたキリエさんは一体何だったんだ?
最初は結界魔法の境目とかなんとか考察していたけれど、幻覚となれば話は変わってくる。キリエさんは僕の幻覚に介入してきたのか? そんな話、一度も聞いたことがない。
出来るとすればそれは特殊スキル、或いはそれ以上の話に──……。
「……考えるだけ無駄かな」
あれはキリエさんだから、ということで納得しておこう。あの人なら、なんか出来そうな雰囲気あるし。
色々考えている内に気付けば教会が目の前に聳え立っていた。
分かってはいたけどかなり大きいな──いかにも『何か計画が進んでいますよ』みたいな造形をしている。
「何かを企むにはうってつけだな」
しかし、やけに静かだ。
道中、ミシュさんのような警備を配置しておいていざ本拠地が無防備なんてことあるのか?
「お邪魔しまーす……」
一応の挨拶。不法侵入とか思われたら嫌だし。
扉を開け中に入ると、最初に目に飛び込んで来たのはとてつもなく広い大聖堂と、月の光によって淡い光を放っているステンドグラス。昼ならば、また少し違った光景が広がっていたのだろう。
そして、左右に続く短い通路の先にはそれぞれ扉がついており、教会に疎い僕にはその扉が何処へ繋がるものなのか見当がつかなかった。
「あ、あれは……」
大聖堂の奥の方、そこには三つの人影。少し距離があったが、それが誰なのかはハッキリと分かった。
一つは時臣さん、変わった格好をしているので分かりやすい。もう一つは魔王シリウス……そして最後の一つは、デルク城で一度会った教皇ディエスだった。
「おやおや、漸く役者が揃ったようですね」
くそ、ワンチャンバレてないと思って横の通路へフェードアウトしようと思ったのに。
「思ってたより早かったね」
と、魔王シリウス。
「ミシュ殿を上手く突破したようで何よりでござるよ」
上手く突破した……のか? ほぼ無理矢理突破したせいで魔力使用制限に掛かってるんだけど。
「ははは、ここに辿り着けているのなら過程に差はあれど、結果に違いはないでござるよ」
そうなのかな。魔力が使えるのと使えないのとじゃかなり結果が変わりそうだけど。
「……」
僕は大聖堂の奥に進みながら教皇ディエスの方へ視線を向ける。
ちなみに、お前よくもやってくれたなという意味の視線だ。しかし当の本人は穏やかな表情を崩さない。
僕が二人の傍まで近寄ると、
「君は冒険者なんだってね、さっきは勘違いしてしまって申し訳ない」
「いえ、助けていただきましたし……その節はありがとうございました」
初めてシリウスさんに会った時、僕の変装魔法は解けてなかったはずだけど……やっぱり魔王にもなると魔族だって見抜けるのかな。
「……」
かなり雰囲気が張り詰めている。もうクライマックスなのかな。僕、来てからまだ数分くらいしか経ってないんだけど。
「あの僕……結界止めに来ただけなので、帰っても良いですか?」
最初は結構やる気満々だったけど、この人たちの戦闘に巻き込まれたら間違いなく命が危ない。
「その必要はないよ、ハル君。そろそろ結界は止まると思う」
「結界の方はユナ殿が処理してくれているのでござるよ」
「それに今デルク内にいる魔族は、ディレが全て撤退させているんだ」
与り知らない所で事が進み過ぎている。僕、何も知らないんだけど……え、なんだって?
「ディレ……って──」
「ハル殿が倒したという魔族は生きていたのでござるよ。先程、上手くこちら側に引き込んで事態の収集に尽力してもらってるのでござる」
これがS級冒険者、あまりに騒動慣れしている! 魔族勢力と教会勢力の協力関係が拗れてたのは分かるけど、どうやったら引き込もうという発想になるのだろう。
「驚きました。彼はまだ生きていたのですね」
その事実が全く不都合でもないかのように言うディエス。
……?
何か、違和感がする。僕は何かを見落としている気がする。それはとても重要なことのようで、そうでもないような……。
「 、 」
……そうだね、まだ気にしなくても良いか。それよりもやるべきことがあるみたいだし。
「おや、役者だけでなく舞台も整ったみたいですね」
その言葉と同時に、突然体がすっと軽くなる。
間違いなく、結界が止まった。そう感覚で分かるくらい、体に掛かっていた負荷が無くなった。
すると、ディエスは懐から何かを取り出す。
「ところで御三方、これが何かご存知で?」
その手に乗っていたのは、宝玉のようなものだった。見るからに霊験あらたかな、美しい宝玉。
「古代の遺物……だね」
シリウスさんのその言葉に、僕はイマイチピンと来なかった。
「流石ですね、知っていましたか。これは『願いの信仰』と呼ばれる遺物でしてね。少し前、とある筋から入手したもので──」
「──有する力は、『願いを叶える』というとてもシンプルなものです」
願いを叶える? 何だそれは。いや、意味は分かるんだけど……。
「────して、その代償は?」
と、時臣さん。
「ええ。当然この遺物には代償があるのですが、それゆえに少しばかり……いえ、非常に扱いが難しいのです」
その話が本当だとして、『願いを叶える』という奇跡とも言える力を扱うのだから、デメリットがあるというのは当然のことなのだろう。
「代償──それは『命』です」
「そして当然、その『命』にも条件がありまして……それは『願いの信仰の使い手に対し、曇りなき信仰を持っている者』、というものでした」
ディエスは続ける。
「ご察しの通り、これらは私が試して発見した法則なので正しい情報とは限りませんがね」
「……幾つでござるか?」
「そうですね、八割ほどでしょうか」
……?? 要領を得ない二人の会話。一体の何のことを言ってるんだろう。
「なるほど。これはなかなか厄介な相手だね」
どうやら、話に付いて行けてないのは僕だけらしい。
つまりどういうことなんだ? えっと、まず遺物の使用には代償が必要で……その代償にも条件があって──。
(──はあ、この話の流れで分からんとはな……)
そんなこと言われても……。
「……?」
(ふん、少しも成長しておらぬのではないか?お主よ)
「…………!?」
それは嫌というほど聞き慣れた、影から直接頭に響くような若干の幼さが残った凛とした声。
まだ少ししか経っていないのに、ひどく懐かしく感じるその声は────、
(数時間ぶりか? 短い眠りじゃったわ)
────その声は、ラティのものだった。




