【第28.3話】雷帝、そして蒼の魔法使い。
ハル君が追放されてから六日目の三時過ぎ。あれから王都デルク周辺で彼の姿を見ていないし、王都内でも彼についての話を聞くことはなかった。
……更に、数日前には聖騎士団と宮廷魔道士が大規模なパーティを組んで遠征に行ってしまった。
今の俺には止めることが出来なかった──ニファレに合わせる顔がない。
俺のせいで、聖騎士団や宮廷魔道士だけでなくエレストル国民を危険に晒してしまうことになる。レルムスが攻勢に出てしまえば、国主やS級冒険者のような『圧倒的な個』という戦力を持たないこの国は一巻の終わりだろう。
「大丈夫ですか? セインさん、大分思い詰めたような顔をされてますけど……」
「……ああ、すまない。大丈夫だよ、少し考え事をしていてね」
俺の予想が正しければ、そろそろ教会側の勢力が動き始めるはず。かなり後手だが、先手を打たれて失った分は必ず取り返さなければならない。
しかし、俺にそれが出来るのか?
「あの、私に何かお手伝い出来ることはありますか?」
「なあフェイ、もうこれ以上危険な事に首を突っ込むのは止めてくれねーか?」
「レイシャちゃん、でも……」
「危なっかしくて見てらんねーよ。ハルの件はアタシだって納得いってねーけどさ、これ以上フェイが危険な目に遭う必要はないだろ?」
「彼女の言う通りだよ、フェイ君。それに、何よりハル君がそれを望んでいないだろう」
彼はフェイ君が少しでも傷付くなら自分が、と考えるような人だ。
「私……」
フェイは俯く。
「──ハルさんに何回も助けて貰ったのに、何一つ返せてません。このままお別れなんて、絶対にイヤです」
「彼は見返りを求めるような人じゃ……」
すると彼女は突然立ち上がり、
「そんなの私だって分かってます、私が一番分かってます! だからこれは私のワガママです。私が勝手に返したいんです、勝手に力になりたいんです!」
「……」
……そうだな。たしかにフェイ君はそういう娘だった。分かり切っていたのに、俺は何を恐れているんだ。
「それに、ハルさんはこんな私の魔法を綺麗だって言ってくれました。まだ足りないですか?」
なるほど、覚悟は最初から決まっていたらしい。
俺から言うことはもう何もあるまい。
「そこまで言われちゃもう止めらんねーな……でもよ、今更どうにかなる策があるのか?」
策、か。ハル君の追放を取消にし、尚且つこの国に巣食い、渦巻く闇を打ち払う策。
「レイシャー! ちょっとこっち手伝ってー!!」
「あーはいはい、すぐ行く!」
ミネルヴァさんに呼び出され、レイシャは駆け足でその場を離れていった。
「……策なら、ある」
「本当ですか!? 私も──」
──バンッ!!
その時、突如宿屋の扉が激しく開かれる。
そこに居たのは王都に残された数少ない騎士だった。
「皆さん! 魔族の襲撃です!!」
「何だって?」
ついに教会が動き始めたか。
「って、雷帝様!? どうしてここに……」
「それより状況は?」
「す、すみません! 今は四つの大きな避難所に国民を避難させています、皆様も早く避難を!」
……四つだと?
「ど、どどどうしましょう!!」
「フェイ達も早く逃げるよ!」
ミネルヴァさんとレイシャ君が奥から戻ってきた。
幸いにも、今日は二人以外の店員は休みを取っている。既に避難していると良いのだが。
「避難所は四つなのか? 緊急の避難先は本来、五つあったと記憶しているが」
「それが、教会が既に占領されているらしく……」
教会が既に占領されている? どこから魔族が入り込んだかはともかく、真っ先に教会だと? 戦力の穴を突かれたとでも言いたいのか?
流石にあからさますぎる。
いや、誘っているのか? 誰を? この異変の黒幕に気付いている人間か?
まさか、口封じでもするつもりなのか────?
「セインさん、大丈夫ですか? また思い詰めた顔を……」
「ああ、いや──それより俺たちも早く避難しようか」
そうして客の避難誘導を終わらせた俺達は宿屋を出て、避難所へ向かった。
★ ☆ ☆
現在、デルク城前の庭園。この庭園は普段から公開されている場所で、誰でも簡単に立ち入ることが出来る。
避難所には既にそこそこ多くの国民が居た。無理もないが、突然の事に皆混乱しているようだった。
その為、数時間ほど避難所の設営や国民の誘導を手伝うことにした。
「一体、何が起きてるんでしょうか……」
今デルクを襲撃している魔族というのは、全て教会と繋がっている奴らと考えて良いだろう。
先程はああは言ったものの、彼女を巻き込むべきか? いや、巻き込むという言い方は良くない──協力を仰ぐべきだろうか。
「…………俺にもよく分からない」
今の俺には、彼女を守り切れる自信がない。
もし、この娘に何かあったら。
……浮かぶ理由はどれも自己保身ばかりだな。結局は、俺が責められたくないだけじゃないか。
何を正当化しようとしているんだ、俺は。
「緊急の用事を思い出したから、少し行ってくるよ」
「えっ、大丈夫ですか? 危ないですし、私も着いていきま──」
「いや、フェイはここに居てくれ。もし知らない誰かが俺を探しているようだったら、見回りに出たとでも伝えてくれ」
これ以上は、彼女に対する罪悪感でいたたまれない。
彼女は覚悟が出来ているというのに。
「では、お気をつけて」
「もし魔族に襲われても、返り討ちにするさ」
「ですね!」
ニコッと笑みを浮かべるフェイ君。
すまない、俺が不甲斐ないばかりに、君には辛い思いばかりさせてしまっている。
「それじゃ、また──」
俺はいつから、こうなってしまったのだろうか。
失うのが怖い。だから俺は聖騎士団を辞めた。いずれ訪れるそれから、皆を守り切れる自信がない。
だから、人と深く関係を築くのが怖い。
俺には、覚悟が出来ていない。
「俺にはまだ、やるべきことがある」
俺は教会へと足を進める。
俺が雷帝である内に、出来ることを。




