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【第3話】冒険者、城跡へ行く。(1)


 現在、僕は冒険者協会に訪れていた。


「ヘレンさん、この任務の受注お願いします」

「『ゴブリンの討伐』ね。分かったわ。それにしても、一昨日までは新しい任務だ〜とかなんだって騒いでたのに、良いの? こんな簡単なやつで」


「そうですね。僕にはまだ少し、早かったみたいです」

「私から言わせてもらえば、ハル君は十分強いと思うよ。ハイオークなんかに苦戦するようなタマじゃないでしょ、君は?」

「……買い被りすぎですよ」


 一昨日、僕はノアさんと別れた後、冒険者協会に寄ってハイオークの討伐任務を破棄した。

 依頼と異なり、冒険者協会が直々に発注しているものが任務なので、仮に放棄しても誰かが迷惑するという事は基本的にない。


「それに僕、目標が出来たんですよ。そのためには遠回りでも、着実に進みたいんです」

「目標? なになに、聞かせてよ」

「嫌ですよ。どうせ笑われますし」

「そんな事しないって! 気になる〜教えてよ〜!」

「嫌ですって」

「教えて!」

「嫌ですよ」

「じゃあ教えなくていいよ!」

「嫌です」


 ……あ。


 へへへ、と悪そうに笑うヘレンさん。


 しまった、騙された!


「────僕を助けてくれた人がいるんですよ。その人みたいになりたいな、って。ただ、それだけです」

「助けてくれた……っていうのは、もしかして先日の?」


 一昨日、ノアさんによって救われ、生還した討伐部隊による報告で正式に事は明らかになった。

 僕は関係者として、冒険者協会に色々と聴取(ヘレンさんには説教)されていたのだ。そして、今はその帰りである。


「ノアさん、ねえ……」

「知ってるんですか?」

「そりゃ、冒険者協会(ココ)で働いてて知らないっていう方が無理があるよ」

「そんなに有名な人なんですね……」


 まあ、あれだけ強ければ有名じゃない方がおかしいか。


 ノアさんが最後に使ったあの魔法──アレは間違いなく超級魔法、あるいはそれより上でもおかしくない。

 完全ではなかったとはいえ、魔王を葬り去ったのだから。あんな大魔法を使える魔法使いなんて、そうそういないはず。


「すごいやる気みたいだし、目標にするのを止めろっていう訳じゃないんだけど……あの人に追い付くのはなかなか厳しいんじゃないかな」


「ハル君、魔法もスキルも使えないし」

「……」


 痛いとこを突かれてしまった。何を隠そう、僕は冒険者歴約半年──しかし、未だに初級魔法すら使えない。

 剣や戦斧、メイスがメインの冒険者だって最低でも初級魔法ぐらい使う。魔剣士なんて職業があるくらいだ。


 ちなみに冒険者とは、“冒険者協会”が発注した依頼・任務などによって生計を立てている人たちのこと。近頃は、その人気と需要が大きく跳ね上がっているという。


「どうして使えないのかな? ハル君、魔力は全くないってわけでもないよね」

「ええ、まあ。人並みにはあるはずなんですけど」


 絶望的なまでにセンスがないということなのだろうか? だったら、そう言ってくれたほうが幾分か気が楽なんだけど。


「ま、努力は怠るべからずだよ、ハル君! いつ魔法が使えるようになるかわからないんだからさ」

「それもそうですね。精進します」

「うんうん。これでも私、君には期待してるんだからね!」

「ありがとうございます。いつか、応えて見せますよ」


 僕がそう言うと、ヘレンさんはにへらと笑った。


「それじゃ、行ってきます」

「いってらっしゃい。気を付けてね」


 ヘレンさんに見送られ、僕は冒険者協会を後にした。



◇ ◇ ◆



 「スキルも使えない……か」


 冒険者協会を出た僕はステータスを確認し、スキルの項目にある、とある文字に目を向ける。


「特殊パッシブスキル、ね……」


 特殊スキル──レアスキルやスキルとは別の、自分しか持たない能力(スキル)。先日、ノアさんと別れた後に習得したらしい。理由は全くもって不明だけど。


「これに期待するなってのも、無理な話だよな……」


 スキルの詳細を見ようとしても、詳細不明のまま。今まで特殊スキルどころか、スキルすら持ったことがないので、何をどうすれば良いのか分からない。


 ちなみにスキルとは、〝技能〟として能動的に発動する“スキル”と〝状態〟として常時発動している“パッシブスキル”の二種類が存在する。

 前者はあくまでも“技能”なので、スキルとして発動しなくとも同様の動きが可能なものが幾つか存在するのだが、その精度には大きく差がつく……らしい。


「そもそも、どうやって発動するのかすら分かんないし……」


 パッシブだから、今も発動してるってことでいいんだよな……? 何も分からないんじゃ、宝の持ち腐れじゃないか。

 というか、この〝ステータス〟とかいうのが出せることすら、ヘレンさんに教えてもらって初めて知った。


 筋力、防御力、敏捷性、魔力、体力スタミナ──筋力と敏捷性、それに体力は兎も角……防御力とか、騎士や冒険者のような戦うことが多い人にしか確認出来るメリットがないと思うんだけど。


 農業系スキルや商業に有利なスキルというのも存在してるらしいから、スキルを確認する手段はまあ必要だとして、だ。


 ほぼ全ての記憶を失っている僕にとって、この世界の情報はほとんどヘレンさん頼み。


 今度、もう一度色々聞いてみよう。

 今の僕には、“その知識”は必要なはずだから。



「あの────」


 早速任務に取り掛かろうと街を出ようとした僕に声が掛かる。


「もしかして、ハルさんですか?」

「お、どうやら本人みたいだな!」


 振り返ると、そこには三人の冒険者らしき人が立っていた。


 剣士に弓士、最後の子はプリーストか? なかなかバランスの取れたパーティだ。


「どうも。俺は冒険者で、剣士をやってるユアンって言うんだ。君が、近頃話題になっているハルくん……でいいのかな?」

「──話題?」


 僕、話題になってるのか?


「ん、知らないのか? あんた『魔王と相対して無事に生還した』とか『あの調停者と共闘した』とか。すごい噂になってんぜ? あ、俺は弓士のリルドだ。よろしくな!」


 ……調停者。ノアさんのことかな、思い当たる節がそれしかないし。

 にしても、噂に尾びれが付き過ぎじゃないか? 全部が全部、間違ってるという訳でもないから余計に困る。


「皆が思ってるほど、僕はすごい人じゃないんだけどな」

「まあ実のところ、噂が本当かどうかはあまり重要じゃないんだ」


 ユアンと名乗った男が言う。


「先程、パーティの一人だったとても優秀な魔法使いが抜けてしまってね。そんなわけで、ハルくんにパーティに加わってほしいんだ。如何せん、三人だと心細い」


 なるほど──別に断る理由もないし、提案に乗らせてもらおう。


「全然構わないけど、なんで剣士の僕? 魔法使いが抜けたなら、魔法使いを誘ったほうが良さそうだけど」


「それなんですが────」



◆ ◆ ◇



 要約すると、先日の一件で街中の冒険者が怯えてしまって、外に出たがる冒険者がほとんどいないということらしい。あんなことがあれば無理もない。


 ちなみに、司祭の子はシェリカちゃんというらしい。


「へえ、そりゃ大変だね」

「あんたこそ、その一件の当事者だろうに。よく外に出ようと思えるな」

「目標が出来たからね。むしろ、あの魔王には感謝したいくらいだよ」

「ははっ、すげえメンタルだな」


 感謝しているというのは本当。あの魔王が現れなかったら、僕がノアさんと出会う事は無かった訳だし。


 ────それに、あの成長者(スキル)だって。


「あ、そろそろ着きますよ」


 そこにはかつての栄光を感じさせるような城趾。

 なるほど、こりゃ確かに三人じゃ心細いな。


 僕達が足を運んだのは『アグルス城跡地』だった。


 すみません、跡地って書いてるんですけど実際は廃城です。

 跡地じゃ何も残ってませんね。

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