【第26話】冒険者、そして■■■。
あれから少しして、遠くに教会が見えてきた。
その教会はここから見てもとても立派なものであることが分かる。王都デルクにある教会はあの一つだけであり、最初に建てられたものらしい。謂わば総本山のようなものなのだろう。
道中であのシスター達以外に人と遭わなかったことは幸いだが、今までのことを考えると逆に不安になる。
さっきからほんの少しだけ、思考にモヤがかかったみたいな違和感を感じるし……。
目的──当初の目的である二人(セインさんも無事なはず)の安否は確認した。次はこの忌々しい結界を止めること。
僕は自分の影に視線をやる。
このまま何事もなく目的を達成出来るとは思ってないけど、なるべく波は小さくあってほしい。
戦闘だって避けられるなら避けたい、その辺りはあの人達の領分だし。第一に、僕が安全に戦闘を乗り越えられる保証だってない。
空には黒雲が立ち込めており、今にも雨が降り始めてしまいそうだった。
さっきまで結構晴れてたんだけどな……全部片付いたらリベルタスに少し寄っていこう。歓迎されるかは兎も角、レイシャさん達の様子も気になるしね。
それから迷路のような道をしばらく歩く。
さっきは見えていたはずの教会が見えなくなっているし、やたら入り組んでるな、この辺は。
山とか遠くから見ると頂上まですぐ着きそうに感じるけど、実際はめちゃくちゃ遠いみたいな感じなのだろうか。
僕に子供の頃の記憶なんて一ミリも残ってないけれど、子供の頃は誰だって一度はそんなことを考えただろう。
中央広場から城までは横へ逸れる道はいくつかあれど(その多くは居住区への道)大体一直線だったのに、こっちはやけに複雑だ。
なんか、わざと迷わせるように作られてるような気もする。
『──流石に気にしすぎか。僕が思っている以上に王都が広い、それだけのこと……』
「……とカ?」
そう、そういうこと。こんなことなら、フェイを連れてくれば良かったな……っていやいや、フェイを巻き込むつもりか。それじゃ本末転倒も良いところだ。
「……ん?」
「ははハ、ごきげんヨー!」
突然耳元で大声を出され、僕の身体は大きく跳ねた。
「うわっ!!」
ふと横を見ると、先程とは違って露出部分がやけに多いシスター服を着た女性が僕と並走するように歩いていた。
「あ、あの……」
いつの間に??
っていうか、なんで並んで歩いてるんだ……!?
「えっと……僕たちは出遭わず、何も見なかったってことにしませんか? お互いの為にも」
こんな場所じゃ、騒ぎを起こしたところで何かあるわけでもないが……あまり目立つような真似はしたくない。
何より、これ以上は────。
「あア! ワタシはキミと戦いに来た訳じゃないヨ? ちょっと気になったのサ──中央広場ではクレイが倒れてテ、エドラナは行方不明と来タ!」
「……」
「これサ、キミなんだロ?」
「……いいえ、人違いですよ。たしか、今回の異変を鎮めるために冒険者が訪れているらしいので、その人達だと思います」
「トキオミくんト、ユナちゃんのことかナ?」
「お知り合いなんですか?」
「まあネ、といっても知人程度だけどサ」
一体この人は何者で、あの二人とどういう関係なんだ?
そして、何が目的で僕に接触してきたんだ?
「そっカー、あの二人がアレをやったのカ……ユナちゃんは勿論、トキオミくんもそんな簡単に人を殺すような奴じゃなかったんだけどナー」
「……」
うん。ここにいない人たちに擦り付けるのは良くないな。
僕がやったことだ、その責任から逃げてはいけない。
「……はあ、僕ですよ。僕がやったんです」
「ははハ! そうかそうカ! マ、ワタシは頼まれたから一応確認しに来ただけサ。どうするつもりもないんだゼ」
頼まれた……というのは、やはり黒幕とやらにだろうか。
とにかく、ここで争いを起こさずに済むのはこちらとしても非常にありがたい話ではあるが──。
「それデ、一体どんなチカラを手に入れたんだイ?」
「え……?」
「ン? 手に入れたんだロ? エドラナのチカラをサ」
「なんで……」
何故そのことを──あの場面を目撃していたとしてもおかしい。僕の一喰いを知っているのか?
「ア、自己紹介がまだだったネ? 今はシスターキリエと名乗ってるんだゼ!」
当然だけど、初めて聞く名前だ。
それに、今は? まるでそうじゃない時があるみたいな言い方だな
「ンー、やっぱり知らないままの方が面白いかナ? いつになるかは分からないけド、また会うことになると思うからサー」
「その時ハ、戦ってみるのも良いかもネ?」
「……っ!」
その時、僕はとてつもない悪寒と殺気を感じた。
一体、なんなんだ……。
「そういえバ、キミがここから抜け出せないのは構造とかじゃなくテ、そういった類の術式のせいなんだゼ?」
「え……」
「キミが舞台に上がらないと面白くないんダ、君が無事に辿り着ける事を祈っているヨ! じゃあネー!!」
一方的に喋った後、キリエと名乗る変わったシスターは少し先を歩くと姿を消し、どこかへ去っていってしまった。
「真面目に、マジめになんなんだよ……あの人……」
嵐みたいな人だった。次に時臣さん達に会った時にでも聞いてみよう。
S級冒険者の知り合いっていうんだから、そりゃ只者ではないんだろうけど……変わってるってレベルじゃないだろ、アレ。
キリエさんの言う事を信じるのならば、ここを抜け出すにはこのままではいけないのだろう。何かしらの方法でこの結界を破る必要がある。
術者がこの結界の中にいるのなら話は早いんだけど、今まで接触してこないってことはそうではないと考えて良さそうだ。いや、まあ変な人には接触されたけど。
もう一つのパターンとして、術者が結界の中にはいるけど接触してこれないパターンがある──その場合術者本人が高い戦闘能力を持っていないことが多いけど、そのパターンなら基本的に結界の外に出ているはずだしな。
そもそも、これほど広大な結界を張るほどの人物が戦闘能力に長けていないなんてことはないと思うんだけど。
ていうか、キリエさんはどうやってここ抜けたんだよ──さっき突然現れた時も気付いたら居たっていうか、フワッて感じだったし……。
「……」
一つ、僕は考察する。
キリエさんが僕の傍に現れた時、突然現れたように感じた。例えば、それが意図的なものではないとしたらどうなる?
あの人のことだから意図的な可能性もあるけど(なんならそっちの方が高い)、そうでないのなら。
そここそが結界の境目ということにならないか? つまり、消えたように去っていたあの時も、結界の外に出たからということになるんじゃないか? そう考えると、この結界はさほど大きくないということになるのか?
そして、僕が未だに結界から出れていないということは────、
……この結界は、僕を中心に展開されているというのか?
だとすれば、どうすれば良い。結界魔法に対抗する何かを、僕は持たない。
無事に帰れたら何か対策を講じないといけないな……僕が今教会に向かっているのも、元をたどれば結界のせいなんだし。
「……」
僕を中心に結界が展開されているとして、それはどういうものなのだろう。
術者が中心の結界や、他者に結界を展開する魔法はいくつも存在しているが、そのどれもは基本「支援」の類であり、結界内の人物を迷わせたり、空間を誤認させるようなものは少なくとも僕は知らない。
……いや、僕は大きな勘違いをしてたのかもしれない。
そもそも、これは結界魔法ではないという可能性。
僕はここに来るまでにあまりに結界魔法を見すぎて、これも結界魔法とばかり考えてしまっていた。普通に考えれば、幻覚魔法などによる影響という可能性もあるというのに。
そういった類の術式──よく考えてみれば、キリエさんは結界魔法とは一言も言っていなかった。
して、精神状態への干渉。
その最も手っ取り早い対処法とは────。
魔力の制御を外す。つまり、魔力の全放出だ。




